僕は彼女が心底恐ろしかった




僕は彼女が心底恐ろしかった。


「大丈夫だよ、私が傍にいるから辛いことがあったなら吐き出して」


なんて他人の心の中にズカズカと入ってくる。


彼女が傍で笑う度に呼吸の仕方を忘れてしまったかのように息苦しくなった。


彼女は不気味なくらい前向きで自己犠牲心が強くて、彼女はそんなつもりは無いだろうけど彼女といると自分が汚く見えて嫌になる。


「君は…死んでしまいたくなったことがないのだろうね」


いつも眩しい彼女に対しての嫌味だった。


知ればいい。


この何も知らない彼女に少しでも陰を落としたかった。


「…ないよ、だって私には皆がいるもの」


夕日の光に彼女の笑顔が照らされる。


「死んでしまったらきっと私のことを忘れてしまうでしょう?」


彼女は決して他人の為だけに自己犠牲心が強いわけではなかった。


「死ぬことは怖くは無いけれど、皆が私を忘れてしまうと考えると凄く…恐ろしいわ」


ただ、彼女は彼女が生きていたという軌跡を残したかっただけだ。
…僕と変わらない。


彼女も自分が大切だから他人に優しくするのだ。


「…君には敵わないなぁ」


僕は彼女が心底恐ろしかった。


じんわりと僕の心を溶かしていくのを感じとっていたから。


彼女にもある影に気付かない振りをした。


ただ、僕はきっと悲劇の主人公に浸っていたかっただけだったのだ。


「…僕の話を聞いてくれないか」


自分のことを話したなら、君のこともいつか聞かせてくれるだろうか。