幼馴染みのアイツは、推理バカで、ホームズオタクで、サッカー好きで、きっと、同じ幼馴染みの蘭のことが好きで、それで、
私の片想いの相手。
休憩時間の教室。私の前の席の彼はこちらを向いている。
なんで好きになってしまったんだと、目の前でホームズについて楽しそうに語っている彼を見て、こっそりと溜め息を吐いた。
「それでホームズが…おい名前、ちゃんと聞いてるか?」
「聞いてる聞いてる。新一がホームズ大好きなのはよーくわかったから。」
「んだよ…」
「そんなことよりいいのー?蘭のとこ行かなくて。」
「あ?なんでそこで蘭が出てくるんだよ。」
「べっつにー?愛しの蘭ちゃんのところに行かなくていいのかなー?って思っただけだし?」
「ば、ばーろー!ちげーよ!」
「今更そんな照れなくったって、ちゃんとわかってるんだからさー」
そんな照れられたら、私はどうしたらいいのよ。
蘭は可愛くてスタイルもよくて、なんたってすごくいい子で。私にとって自慢の幼馴染み。
新一が好きになるのはわかる。だからこそ、私に勝ち目はないし、両想いの間に入っていこうなんて無粋なマネはしない。
私がこの恋心に気付いてしまった時点で、それは叶わぬ恋だったのだ。
「オメー絶対勘違いしてんだろ。」
「何がよ。」
「オレが好きなのは、蘭じゃなくて…」
「もういいって。」
蘭の他に好きな人がいるとしたら誰かなんて想像も出来ないが、もしいるならどんなやつか見てみたいわ。
「新一が好きなら止めないけど、蘭以外の好きな人って全く想像できないわ。どんな素敵なお相手なのか一度お目にかかりたいわねー。」
「あのなぁ…なんでそうなんだよ。」
「そりゃそうなるでしょ?だって新一の好きな人だよ?」
「…見てどーすんだよ。」
「私が新一に見合う女かどうか見極めてやるわよ。」
「はぁ?」
「蘭差し置いて好きになるなんて、よっぽど出来た女なんでしょーねってことよ。」
「だーから、なんでそこで蘭が出てくんだよ。」
そんなこと。相手が蘭なら、諦めようって思ったから。なのに、もし違うなら無理矢理しまいこんだ私のこの感情が、爆発してしまいそうだから。なんで、どうしてってなってしまいそうだから。
ただ私は、諦める理由が欲しいだけかもしれない。
「さーて、どうしてでしょう。」
「はぁ?」
「なんで蘭の話が出てくるのか、新一の好きな人を見極めてやろうだなんて言うのか。どうしてだと思う?探偵さん。」
「おい、」
「あーほらチャイム鳴ったじゃん!授業始まるよー探偵さん。」
「………。」
そう言って新一はその後の授業中、ずっと考え込んでいるようだった。そんな真剣に考えるなんて思わないじゃない。いや、ほんとはわかってた。あぁいう言い方をすれば考え込むだろう、って。それを利用して私のことを考えさせるなんて、我ながらなんて意地の悪い。私はやっぱり、蘭のようにはなれない。なんて、自己嫌悪していた。
―――放課後。
部活へ行く蘭を見送って、新一に捕まらないうちに、と逃げ出そうとした私は、あっさりと目の前のこの男に捕まってしまった。
「…待ち伏せとは卑怯な…」
「あのなぁ、なんで逃げんだよオメーはよ。」
「いや、はは…」
だって、気まずくなったんだもの。授業中ずっと考え込んでいた新一は、途中から私のことをちらちらと見てくるんだもの。こんな卑怯な私のことを。いたたまれなくなって絶対帰りに捕まることが想像できたから、そうなる前に帰ってしまえ!ってなったのよ。なんて言えるわけもなく。どのみち先に帰ってしまったとしても、家が近いから乗り込んで来られたら終わりなのだけど。
「さっきの話だけど…」
「なんのことー?」
「だから、オメーがなんで蘭の話出すのかとか、見極めるとか言うのかって話だよ。」
「あーそんなこともあったねぇ」
「おいおい…自分でふっかけといてそれはねーだろ。」
ですよね。って内心思ったけど笑って誤魔化す私。
溜め息をひとつ吐いた新一は、じっと私を見た。その後、少し戸惑ったように目を逸らしたのだ。
なんだその反応。
「あれから考えてたんだけどよ、どう考えてもひとつしか浮かばなくて、でもそれは、オレの、なんつーか、願望みたいなんも混ざってるからよ…」
「願望?」
「…そうだったらいいのに、っつーか。」
「どういうこと?」
「だから…!名前もオレと同じ気持ちだったらって思っただけだよ。」
「…………は?」
同じ気持ちって、なに。
思考がぐるぐると巡っている私の目の前で、新一はそわそわしたように目が泳いでいる。少し照れたような表情をしている彼を見て、私はなんだか、また意地悪をしたくなった。
「新一と同じ気持ちってのがわかんないけどさ、私は、あれから私のこといっぱい考えてくれてたっていう事実が嬉しい、かな?」
そう言って上目で見つめてやれば、新一は目を見開いて驚き、顔を赤くする。バーロー、なんていつもの口癖を言いながら、そんな表情をする彼を見てると、自分のしたことに急に羞恥心が襲ってくる。私も同じように顔が熱くなってきて、バカ、冗談よ、と誤魔化そうとした私は、掴まれたままでいた手に引き寄せられて体が傾く。受け止められた意外としっかりした体に、彼の香りにドキリとした。
私の意地の悪さがこんなにも効果バツグンだなんて、思いもしなかった。
ほんと、バカ。
こんなにも意識するなんて。私も、貴方も。
彼がぶっきらぼうに言ったたった三文字に、私の鼓動が治まることはなかった。
バカ、意識しすぎ
fin.
7万打&10周年企画
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