私たちは、いつもすれ違っていた。
幼い頃から仲がよく、言わば幼馴染み。そんな言葉が相応しい存在。
赤井秀一。
彼とは、周りから何度も付き合ってないのか、付き合えばいいのに、と言われるほど仲はいい。けれど、私が誰かと付き合っているとき、彼は1人。私が1人になったときには、彼には彼女がいる。
お互いがフリーでいい感じになったこともあったが、彼がFBIに入ると言って日本を離れてからはそれっきり。最初のうちは連絡を取っていたが、段々とそれも減り、彼の妹の真純ちゃんとは仲が良く、よく連絡を取るが、その程度で。一度も付き合うこともなく、離れた。
私も私で、FBIとまではいかなくても、日本の治安を守る警察に勤めているわけだから、それなりに忙しい。
彼が日本を経ってからは、とんでもない男に捕まって事件まがいなことに巻き込まれたこともあったが、そのことに後悔したときに真っ先に浮かんだのは、秀一だった。それ以来、誰とも付き合ってはいない。
やっぱり彼でなくてはダメなのかと思っていた矢先、街中で偶然彼と、知らない女性が歩いてるのを見かけた。
日本に戻ってたのかと思ったと同時に、モヤモヤとした醜い感情に襲われ、もう忘れてしまおうと思っていた。
彼が、死んだという知らせを聞くまでは。
真純ちゃんから話を聞いたとき、何が起こったのか理解が出来なくて、気が動転した。
人って本当にショックなことが起きた時、涙すら出ないんだと実感して、本当に心に穴が空いたようだった。
忘れられるはずなんてなかったんだ。ただの幼馴染みでなんていられるわけがなかった。恋愛なんて軽いものでもなく、もっと、大切で、かけがえのない人。
そんなことに、今更気付かされるなんて。後悔しかなかった。
でも。
「どうかしたのか?」
「…ううん、ちょっと、秀一が死んだって聞いた時のこととか思い出してさ。」
背中からかけられたその声は、確かに秀一のもの。
今はちゃんとこうして、ここにいる。
そう。あの死は捜査の為のフェイク。彼の同僚達も騙されていたのだ。
それに気が付いたのは最近のこと。
捜査中によく会う少年、コナンくん経由でたまたま知り合った、沖矢昴という人。
その人物に関われば関わるほど、この人が紛れもなく、秀一本人なんだということに気付いた。幼馴染みの勘というやつだ。そこで尋問のように問い詰めたのはつい先日の話。
逃れようのない状況を作ったものの、上手な秀一のことだから素直に吐かないかもしれないと思っていたのだが。
『お前には敵わないな。』
あっさりとそう言われた。意外とすんなり吐くもんだから、ベテラン刑事に勉強の為と言って聞き出した尋問のコツをほとんど発揮することなく答えにたどり着き、拍子抜けした。
敵わない、それがどういう意味なのかはわからないけれど。
彼が赤井秀一だとわかったが、まだ周囲には隠し通さなければならない。
そのお手伝いをすることになった私は、こっそりと、この工藤邸へたまにお邪魔することになり、今もこうしてここにいる。
先程までコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた秀一が、キッチンで作業をしている私に視線を寄越しているのがわかる。
「悪かったと思っている。」
「…本当に思ってる?」
「あぁ。」
「ふふ」
振り返れば、何を笑っているんだ、という表情をしている秀一にまた笑ってしまう。正直、嬉しかった。こうしてまた彼の傍にいられる。彼の助けになれる。その事実が、ただただ嬉しかった。
手助けの為とは言え、少しでもこんなゆったりとした時間を彼と過ごせることが、本当にすごいことなんだと実感している。
「私と秀一ってさ、いつもなかなか合わないっていうか、すれ違い多かったなって思うんだよね。」
「そうだな。」
「だからさ、こういうの珍しいなって。」
「…俺は、」
「ん?」
振り返ろうとしたが、それは叶わなかった。後ろから伸びた逞しい腕に私は包まれたのだ。心臓が止まるかと思うほどに驚き、鼓動が早くなる。大切な物を扱うかのような、それでも、離すつもりはないというように私を包み込む彼に、胸がムズ痒く疼いた。
「離れている間も、お前を忘れたことはない。」
「…他に女の人いたのに?」
ちょっと意地悪な質問をしてしまった。これはただの、私の醜い感情。街中で彼を見かけたときと同じ。―――嫉妬だ。
そんなことも彼にはお見通しだろう。
「忘れようと何度も思ったが…どうしても忘れられなかった。…悪かったと思っているが。」
「……うん。」
「だからもう、離したくないんだ。二度と。」
「秀一…?」
ぎゅ、っと強くなる腕に、彼の体温を更に感じ、顔に熱が集まる。こんな感覚は久しぶりすぎて、混乱している。
まさかこんな展開になるなんて思ってもみなかった。
「名前を必ず守ると誓おう。
だから、俺の傍にいてくれないか。」
熱い吐息が耳に触れ、少し擦れた熱っぽいその声に、全身に熱が回っていく感覚がする。
私の答えなんて、一つしかない。
会えない間に募った想い、再会して尚溢れるこの感情は。
今まで経験した感情とは違う。
少し身動ぎ、緩んだ腕の中で振り返る。
熱を持ったその瞳に、私は完全に堕ちている。
ただの幼馴染みだなんて、心の底から思ったことはない。
ほんの少しの背伸び、少しだけ屈む彼。
触れ合うまでに、今までどれほどの時が経ったのだろう。
"愛してる"という言葉を口にするまで、どれほどかかったのだろう。
遠回りして手にしたこれは、きっと、
"幸せ"というものだろう。
終わらない恋になれ
fin.
7万打&10周年企画
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