闇夜に降り頻る雨の音が、窓を叩く。
テレビから聞こえる声に溜息をひとつ零し、リモコンを手に取り電源を落とした。
カーテンをそっと開き、またひとつ、溜息をつく。

今日は、怪盗キッドが予告状を出した日だった。
駆け付けたい衝動を抑え、家でテレビ中継を見ていたのだが、キッドの行方はわからなくなり、コメンテーターか誰かが話しているだけで状況は全くわからない。
やっぱり行けばよかっただろうか。そう思うも、あまり邪魔になってはいけないと思い留まったのだ。
この雨では、ハングライダーも使えないだろう。キッドは大丈夫だろうか。そんな心配ばかりが頭を過ぎり、先程から何度も溜息を吐いていた。


―――Prr…

机の上に置いたままの携帯が着信を告げる。もしかして、と慌てて手に取り、ディスプレイを見た。しかしそこに出ていた名前は、予想外の人物で、思わず二度見してしまう。どうしたのだろうかと疑問を浮かべながら、慌てて通話を押して耳へ当てた。

「もしもし…?」
『やぁ。久しぶりだね。夜分にすまない。』
「白馬くん、久しぶり…かな?そう言えば。どうしたの?」
『名前さんの声が聞きたくなってね。』
「え?いや、またまた〜白馬くんってば〜」
『ふっ、相変わらず中々信じて貰えないようだね。』
「あはは…」

白馬くんはうちのクラスに転校してきた帰国子女で、高校生探偵、らしい。警視総監の息子という中々な肩書きを持つ彼は、私の知ってる高校生探偵とは少し違うけど、キザな言い回しはどこか通ずるものがある。高校生探偵ってキザが付き物なんだろうか?と真剣に考えたのは記憶に新しい。
そんな彼と初めて話したのは、確か転校してきて少し経った頃、かなり寝不足な様子で学校へ来た白馬くんの足取りが危うく、ふらついて倒れそうになっていたところをたまたま私が通りがかり、なんとか体を支えた時だ。
席も離れているし今まで話すこともなかったのだが、随分イケメンな人が転校してきたもんだと思った覚えがある。
その後、ちょっと支えただけにも関わらずとても感謝され、気付いた時には仲良くなっていたのだ。距離の詰め方が凄い。彼のキザな言い回しは、キッドとかのそれとはまた少し違い、あれ?口説かれてる?と勘違いしてしまいそうな発言ばかりで、そりゃモテるわ、とつい納得してしまう。お陰で何度女子に睨まれたことか…
と、思考が随分逸れてしまったが、そんな白馬くんから連絡が来ること事態は珍しくはない。今日本にいない彼から掛かってくると思っていなかった、というところだ。

「白馬くんって今、パリにいるんだっけ?」
『あぁ、でも近々日本へ帰るんだ。金曜には着く予定でね。』
「そうなんだ。じゃあもうすぐだね。」
『早く君にも会いたいしね。』
「っ…はは…そうだね…?」
『……名前さん、』
「ん?」

流れるように出てくる彼の言葉にたじたじになっていると、白馬くんが私の名前を呼ぶ。少しだけ、真剣味を帯びた声色で。

『あまり、元気がないようだね。』
「え、そう…?」
『あぁ、もしかして何処ぞのこそ泥のせい…かな?』
「…えっ」

どきりとして言葉を失う。普通に振舞っていたつもりなのに、何故そんなことまで分かってしまうのだろうか。探偵恐るべし。

『君が何故あんなにキッドに執着しているのかはわからないが、彼は犯罪者だ。僕が彼を捕まえてみせるさ。』

白馬くんは間違っていない。キッドが私の初恋で、今も好きな人で、何か理由があって怪盗をやっているとは言え、世間的に言えば彼は確かに犯罪者なのだ。

『名前さん、すまない。君を落ち込ませたかったわけじゃないんだ。』
「ううん、大丈夫。白馬くんは悪くないよ。」
『先程も言ったけれど、彼を捕まえるのは僕だ。僕がいない状況で、そう易々と捕まる彼ではない。だから、安心して眠るといい。』
「……ふふ」
『漸く笑ってくれたね。』

私を安心させようとしてくれる白馬くんは優しくて、その言葉はどれも白馬くんらしくて、つい笑ってしまった。気が抜けてしまった私のその声に、本当に優しい声で笑いかけてくれる白馬くんはいい男だな、とそんな事を思う。さすがモテ男。

『君がキッドを気にする理由は、僕がそっちへ帰ってから聞かせてもらうことにするよ。』
「お手柔らかにお願いします。」
『あぁ。キッドではなく、僕を気にしてくれるならね。』
「えっ?」
『では、そろそろ切るよ。良い夢を。』
「あ、ありがとう…」

おやすみ、と言って彼は電話を切った。何だったんだ、最後のあれは。いや、そんな、……まさかね?いつもの戯言というやつ、だよね。そうに違いない、と自分に言い聞かせ、携帯を机へ置いた。



雨は、まだ降り続けている。今日は夜通し降るらしい。
けれど、少しだけ気分が晴れたように思う。
明日の朝には、きっと止んでいるだろう。

カーテンを閉め、ベッドへと潜り込む。
明日には彼の元気な姿が見れることを願って、目を閉じた。






next.

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