「なぁ、プレゼントねーの?」
「は?」
両手いっぱいに、ほとんどが女子からもらったであろうプレゼントを抱えて自分の席に戻ってきた丸井。
その後ろの席の私は、ただ他人事のようにすごいなーと眺めていたのだが、突然私の方を振り向いた丸井が私にプレゼントはないのかと言ってきたのである。
それだけ貰っておいてまだ足りないのか。
「あー…はい。これ。」
私はポケットの中を漁り、たまたま入っていた飴を丸井に手渡した。
…本当はちゃんと用意しているんだけれど、丸井のその抱えて帰ってきた、可愛らしくラッピングされたプレゼント達を見てると、なんだか気後れしてしまったのだ。
「お、マジ?飴くれんの?サンキュー☆」
「え、飴1個くらいで喜ぶの?安上がりだな。」
「ん?そりゃ貰えたらなんでも嬉しいに決まってんだろぃ?」
そうやって眩しいほどのはにかんだ笑顔を向けられて、顔が熱くなるのを感じた。悟られないように自然に顔を背けたが。丸井はほんとに、ずるい。
丸井は自分の席に座りもらったプレゼントからお菓子を漁って嬉しそうに食べだした。
…何故かこっちを向きながら。
「…なんでこっち向きながら食べてるわけ?」
「んーなんとなく?」
「ああそうですか。」
「苗字も食う?」
「いやいや丸井のプレゼントを私がもらってどうすんだよ、怒られるよ女子に。」
「んなことねーだろぃ。気にすんなって」
「気にするよ!」
丸井は気づいてないんだろうか。そのプレゼント達に彼女達の恋する想いが溢れんばかりにこもってることを。でなければこんな綺麗に可愛くラッピングなんてしないだろう。私自身も、もっと可愛く渡したりできたらいいのに。中々出来ないこの性分はなんとかならないのだろうか。
昼休みも終わり先生が入ってきて、片付けきれない丸井の机のプレゼント達に先生が注意してた。バカめ。
なんでこんなに人気なんだろうか。ムカつくほどに。
ムカつくと思ってしまうのはきっと、私もその丸井を想ってる中の一人だからだろう。ただの醜い嫉妬。こんな自分に嫌気が差す。
放課後になっても丸井のところにプレゼントを渡しにくる女子が絶えなかった。部活行かなくていいのか、なんて、また他人事のように眺めていたが。
丸井が部活に行った後は恐ろしいほどに教室が静かになった。こっそりため息を吐く。
「素直じゃないのう。」
突然聞こえた訛り混じりの声。
振り向くと同じクラスの仁王がこっちを向いていた。
「………何。」
「お前さんも素直になればええのに。」
「余計なお世話。」
全てを悟られているようなその目が苦手。
何を考えているかわからない。
「なんなら、俺にしとくか?」
「………は?……っ!」
気がつくと目の前にまで仁王が来ていて吃驚した。
こんな間近で見たことないし、そもそもこいつ何を言ってるんだ。思考が働かなくて固まった私を、また何を考えているかわからない表情で見ている仁王。何がなんだかわからない。
「―――なーにやってんの」
聞こえるはずのない声。部活に行ったんじゃなかったのかと思い、声のした方を振り向くと、ドアの所に見覚えのある赤が飛び込んできた。
「ま、丸井…」
「どうしたんじゃ丸井。もう女子達はええんかの?」
「るせーよ。つーか早く部活来いっつーの。
真田キレそうだから早くしてくんろ。」
「…プリッ」
どうやら丸井は中々来ない仁王を呼びに来たようだ。呆然と眺めていると、何故か仁王が私の頭をぽんぽん、として教室を出ていった。なんなんだ今のは。出ていった方をぼーっと見ていたが、まだドアのとこにいた丸井が目に入った。
「あれ。丸井部活戻らなくていいの?」
「…ああ。お前さ、」
「ん?」
「…いや、なんでもねぇ。邪魔して悪かったな。」
「邪魔?なんの?」
「え、だって仁王と話してたんだろぃ?」
「話してたっていうか話しかけられてただけっていうか」
「ふーん。…そんな近距離でかよ。」
「え?」
「んでもねーよ。」
丸井が何を言ったのかわからなくて、でも、なんだか少し機嫌が悪いような気もして。首を傾げた。すると丸井が躊躇いながら口を開いた。
「………お前さ、仁王のこと好きなの?」
「……………………は?!」
突然何を言い出したかと思えばなんでそんなことになったのか。私が仁王を好き?むしろどちらかというと苦手だけど。意味がわからなくて固まっていると、丸井が頭を掻いて振り返って出ていこうとした。
「やっぱなんでもねぇ。じゃあな。」
そう言って廊下を歩いていった丸井。
…ちょっと待って。これはきっと何か勘違いされてる。多分仁王のこと好きだと思われてる。そんなはずないのに。
私が、私が好きなのは―――
鞄から少し覗いていた、ラッピングされた箱が目に入る。まだ、渡してない。一緒に気持ちを伝えようって、そう思って用意したのに。勘違いされたままでいいの?今しかない。そう思ったと同時に、プレゼントを握り教室を飛び出した。
「丸井!!!!!」
廊下を歩く少し離れた後ろ姿に大声で呼びかけると、立ち止まりこちらを振り向いた。
「どうした?」
少し大きめに返ってきた声。涙が出そうになる。
こんなに、なんでこんなにも苦しいんだろう。
なんで、こんなにも―――
「丸井―――すき。好きっ!」
震える声。視界が滲む。
遠くてあまりわからなかったけど、丸井が驚いた顔をしていた気がした。
それでも、一度口にしてしまった想いが止まらなくて、涙と一緒に溢れてくる。
「すき…好き、なの…丸井、が…にお、じゃ、なくて…」
どんどん溢れる涙を、手で拭う。それでもどんどん溢れてきて止まらない。声も震えて小さくなっていく。これじゃ聞こえないかもしれない。
俯いて溢れ続ける涙を拭う。伝えたものの、これからどうしたらいいのかがわからない。丸井も困っているかもしれない。
止まれ。泣くな。止まって―――
俯く視界に入ってきた靴。驚いて顔を上げようとした瞬間、何も見えなくなって、包み込まれる感覚。優しくて、でも少し強くて。視界に入ってきた赤と橙。少し香るグリーンアップル。胸が、苦しくなった。
「ま、るい…?」
「…嘘じゃ、ねぇよな?」
「え…?」
「俺が好きって。仁王じゃなくて、俺が好きだって。」
「う、そじゃ、な…すき、好きなの…っ」
嗚咽で言葉が上手く出てこない。胸が苦しい。こんなにも、丸井が好きなんだと思い知った。
少し緩んだ丸井の腕。反射的に顔を少し上げると、視界いっぱいに丸井の顔があって、唇が触れた。
なんでキスされてるかとか、そんなことを考える余裕もないくらい驚いて固まる私。一度離れた唇がまた触れて、どんどん深くなっていく。力が抜けて崩れそうになった体を丸井が支えてくれて、落としそうになったプレゼントをなんとか握り締める。気がつくと廊下の壁に背を預ける形になっていて、片手を壁についた丸井の唇がまた降ってきた。
「…っ、ま、るい…っ」
息が出来なくて、唇が離れた瞬間丸井を呼ぶと、切なそうな、でも嬉しそうな、そんな表情をした丸井と目が合った。
「好きだ」
丸井の口から聞けるなんて思ってもなかった言葉。
止まっていた涙がまた溢れてきて、それを拭うように丸井の唇が触れる。
「う、そじゃ…ない…?」
先程の丸井のように返してみると、少し驚いたように瞬きした丸井が、はにかんで笑って、また抱きしめられた。
「嘘じゃねーよぃ。本気。」
そう言ってまた触れた唇。嬉しさと恥ずかしさと驚きがないまぜになって、それでも、大好きな丸井の笑顔が見れたことが嬉しくて、笑った。泣き顔でぐちゃぐちゃになっているだろうけれど、丸井が可愛いとか言うもんだから恥ずかしくて丸井の胸に顔を押し付けた。
「……あ。」
「あ?」
「プレゼント…」
それどころじゃなくてすっかり渡す機会を逃していたが、握り締めていたプレゼントを丸井の前に差し出す。丸井はまた驚いたような顔をした。
「プレゼント飴じゃなかったわけ?」
冗談半分で返ってきた言葉に、なんだか気恥ずかしくなって俯く。
「ちゃんと、用意してたけど…渡しづらかった、から…なんかいっぱい貰ってるし。」
「ばーか」
「な…っ」
突然バカ呼ばわりされて反論しようとして顔を上げると、丸井におでこをくっつける形で見つめられて、あまりの近さに言葉が詰まる。
「名前から貰えるのが一番嬉しいに決まってんだろぃ?」
「…っ、な、まえ…」
下の名前を呼ばれ、得意気に笑う丸井が、ずるくて。
悔しいほどに丸井が愛しくて。
「丸井…」
「ん?」
「誕生日、おめでと。」
そうやって笑って言えば、ありがとな、ってはにかんで言った丸井から、また唇が降ってきた。
素直な気持ちを添えて
生まれてきてくれて、ありがとう。
fin.
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