「好きなんじゃろ?俺のこと。」




「大っ嫌い。」






立海大付属中学男子テニス部レギュラー、

ペテン師と呼ばれる男、仁王雅治。




私はこの男が嫌いだ。







「苗字、こっち向きんしゃい。」
「嫌。」
「なんで?」
「いや、こっちがなんで?
なんで仁王の方向かなきゃいけないの。」
「苗字の顔見たいから。」
「意味不明理解出来ない振り向く時間が無駄。」


だいたい、私が今、当番の日誌を書いてるのが見えないのか。
とてつもなく邪魔なんだが。

くくっと声を殺して微かに笑う仁王。


「さっきからなんなのよホント。」
「やっと向いたな。」
「…………あ。しまった。」
「ほんま面白いの、お前さん。」
「そりゃどーも。」


私で遊んでそんなに面白いか。
ホント、悪趣味。



仁王は、何を考えているかわからない。

最初はただ、苦手だった。

だが、人をからかうような態度、そして、女子を弄んで捨てる、という噂も聞いたことがあり、いつしかこいつが嫌いになった。


どうせ私も

暇つぶしに遊ばれているのだろうと。





「なぁ、苗字。」
「…何よ。」
「お前さん、俺のこと好きじゃろ。」
「……………はぁ!!?」

何を言い出したかと思えば…自意識過剰?

「好きなんじゃろ?俺のこと。」
「大っ嫌い。」

「そうか。」

フッと笑った仁王。

こいつの表情はわからない。

だがなんとなく、少し淋しそうに見えたのは、私の気のせい…?



「にお…」
「雅治、いる?」


教室のドアが開かれ、覗き込んできた、美人な女子生徒。

仁王の下の名前を呼んでいる。


また弄んでいる相手なのか、

それとも彼女なのか…


「ん?俺に何か用事かの?」

「話したいことがあるの。
ちょっと来てくれない?」



仁王は一瞬私の方を見た。


「あぁ、わかった。」


そう言って仁王は立ち上がり、私の頭を、まるで子供をあやすように撫でて、教室を出て行く。



なんで…一瞬私を見たの?


意味が、わからない。


あんなに美人な子がいるなら、

何故私をからかう?



意味が…わからない。




軽く溜め息を吐き、書き終わった日誌を手に、帰る準備をして教室を後にした。

―――仁王の荷物を残して。







「―――い………は……」

担任に日誌を渡し終え、帰ろうとした時、話し声が何故か耳に付いた。

ふと横の方を見ると、仁王と、さっきの女子生徒がいる。



私は、咄嗟に隠れた。





「なんで…?私じゃダメなの?」

「俺はお前さんをあまり知らん。」

「知らないならこれから知ればいいでしょ?
私の全てを教えてあげる。
私、雅治が好きなの!」


トクン…


胸が、苦しい。

……何故……?


告白の場に、居合わせてしまった。



私は何故あの時、2人を見つけてしまった時、立ち去らなかったのだろう。



仁王のことなんて、どうでもいい。

どうでもいい、はずなのに…



「それは…出来ん。
気持ちはありがたいがの。
俺には、お前さんの気持ちは受け取れん。」

「どうして…?どうしてよ!?
他に好きな女でもいるわけ…っ?」

「……あぁ。」




―――え…?


仁王、好きな人…いたんだ。




あぁ、そうなんだ。


やっぱり私は、ただからかわれていた。


そんなの、最初からわかりきっていたことだった。




嫌いな奴が、誰を好きだろうと、関係ない。

どうでもいい。



……………なんで、

なんでこんなに、苦しい…?


どうして…………涙が溢れる?






「―――苗字、」

「……………!!!!?」



気がつくと、仁王が横にいて、泣きそうな私の顔を覗き込んでいた。


「何泣いとる?」

「泣いて、な…っなん、で…?」

「ん?」

「なん、で…ここに、いるのさ…っ」

「苗字が、ここにおるから。」

「意味、わかんない…。」



さっきの子はどうしたのよ。

なんでここにいるの?

好きな人がいるなら、私に構ってないで、

その人のところに行けばいいじゃない。



「何しとるん?こんなとこで。
さっきの聞いてたんじゃろ。」

「別に…聞きたくて聞いたわけじゃ…」

「そうか。」


そう言って仁王は私の横に立ち、壁に寄り掛かった。


「に、お…」

「なんじゃ?」

「なんで、いちいち私に構うの…?
好きな人、いるなら…それに、私なんかより可愛い子、たくさん、いるんだし…」

「……………。」


仁王に肩を掴まれ、振り向かされた。

顔を固定され、目の前に、仁王の顔があった。


唇が、重なっていた。



「ん……っ」



深いキス。

抵抗するも、押さえられ、どんどん深くなっていく。



やっと唇が離れ、呼吸が少し乱れる。


「に、お……何、すんの…」

「これでも、わからん?」

「何、が…?」

「…鈍いの。今までにない強敵やの。」

「…は…?……っ」


再びキスをされた。

今度は軽く、触れただけ。


「俺が好きなのは、お前さんじゃ。」

「…へ………?」

「名前、」

「………っ」


「お前が好きだ。」




真っ直ぐな目で見つめられる。


顔が熱くなる。

また涙が溢れそうになる。






今頃、気付いた。





私はきっと、

この男が、

仁王のことが好きなんだろうと。




「俺のこと、好きじゃろ?名前。」

教室で聞いてきた問いを、また投げかけられた。




私は、微かに頷いた。





引き寄せられ、抱きしめられた。


その温もりにまた、泣きそうになる。



「そんな顔しなさんな。
理性が保たなくなる。」

「意味、わかんない…。
やっぱり、噂通り、弄ばれて捨てられるんじゃ…」

「すごい言われようやの…。
名前は、その噂信じるんか?」

「ぅ……」

「俺は、名前以外の女に興味ない。
愛するんもからかうんも、名前だけじゃ。」

「からかうって……やっぱ、嫌い。
世界で、1番……」

「大好き、じゃろ?」

「〜〜〜〜〜〜〜っっ」





何度も重ねられる唇が、


憎たらしくて、愛しい。






私はいつの間にか、


このペテン師に溺れていたらしい。









世界で1番、



大嫌いなこの男は、


世界で1番、


大好きな男だった。







fin.






back