「あれ?柳生君?」
「ああ、苗字さん。」


仁王に放課後教室で待っててくれと言われた私は、やることもなかったので宿題をやったり本を読んだりしながら、奴の部活が終わるまで待っていた。
なんで待ってなきゃいけないんだ、とも思ったけど、好きな人に待っててと言われたら待ってしまうのが乙女心というもので。

それにしても、なんの用事なんだろう。待っててなんて言われたのは初めてで。でも奴が無茶ぶりしてくるのはいつものことだし、何考えてるかわかんないのもいつものこと。
厄介な奴を好きになってしまったとつくづく思う。

そんなことを考えながら待っていると、気づけば部活も終わりそうな時間。
ふと廊下を見ると、奴と同じ部活のダブルスのパートナーである柳生君が通りがかったのである。

「部活終わったの?」
「ええ、先程終わりましたよ。」
「そっか。お疲れ様。」
「ありがとうございます。苗字さんもこんな時間まで、どうしたんですか?」
「あーなんか知らないけど仁王に待っててって言われてね。」
「そうですか。仁王君も着替えていましたし、もうじき来ると思いますよ。」
「そっか。ありがとう。」

柳生君は、仁王と違ってすごく紳士だ。
ペテン師と紳士のコンビってどんなだよっていつも思うが。でもそれがうまい具合に噛み合ってるのか、中々のダブルスコンビらしい。私はあまりテニスは詳しくないけれど。

「苗字さんは仁王君と仲がいいですね。」
「え?そう?」
「ええ、そう思いますよ。」
「そう、かな。」

柳生君に言われるくらいなら、そうなのかもしれないけれど。でもからかわれてるだけな気もするし。
それに仁王はあまりいい噂を聞かない。女を誑かしてるとかよく聞くし。
まぁ実際そんなところを見たことがあるわけではないから、ほんとかどうかわからないけれど。

「仁王ってさ、何考えてるんだろうね?」
「何…とは?」
「んーなんていうかさ、何考えてるかわかんないっていうかね?」
「そうですね…彼は自分自身を隠す癖がありますしね。」
「やっぱそうだよね?わかりにくいんだよなぁ。」
「仁王君のこと、知りたいんですか?」
「え?」

仁王のことを知りたいのか、なんて言われて、少し動揺してしまい、柳生君の方を振り向くと、なんだか少し真剣な顔をしていた。

「柳生君…?」

あまり見たことのない表情をしている柳生君。
そりゃ、そこまで仲がいいわけではないから、見たことのない表情なんていっぱいあるだろうけど。
でも、なんだか少し違和感が…


「…………………プリッ」

「………は…………?」


ちょ、今プリッって言った?
柳生君がふざけてそんなこと言うわけないし、そうなるとそんなことを言う人物が一人しか浮かばない。

「に…仁王…?」
「正解じゃ。」

そう言って眼鏡を外して髪をかきあげたのは、紛れもない、私が数時間待っていた人物、仁王雅治。
そういえば、イリュージョンとかなんとか言って柳生君のふりしてるとか聞いたことある気がする。
つまり、騙されていたというわけか。



「なんで、柳生君のふりしてたわけ?」
「さぁ…なんでかのう?」

またいつもの、何を考えてるかわからない表情で私に近付いてきた。

「なにそれ。」
「それにしても、全く気付いてなかったのう。」
「そりゃ、そっくりすぎだし、わかるわけないじゃない。」
「俺のイリュージョンは完璧じゃき。」
「はいはいそうですか。」

どういうつもりなんだ、このペテン師は。
待たされた挙句、何故か柳生君のふりをして現れるとか、やはりからかってるだけなのか。

「しかし、」
「え?」
「全く気付かれないのも、寂しいのう。」
「は…?気付かれないほうがいいんじゃないの?」
「んー…そうなんじゃが。お前さんだからかの?」
「………え?」

そういった仁王は、座ってる私に目線を合わせるように屈んで、顔を近づけてきた。

「ちょ、何…?!」
「名前の前じゃと、こんなんばっかりでな。」
「い、意味わかんな…てか近いってば…!」
「おーおー顔真っ赤になっとるのう。」
「ば、バカじゃないの?!」

また、からかわれてる。好きな人がこんなに近くにいたら恥ずかしいに決まってるだろう。さっきから心臓が煩くてしょうがない。わかってやってるのか。

「なぁ、俺のこと、知りたいか?」
「え…っ」
「さっき、そんな感じのこと言ってたからな。」
「あの、それは…!」
「俺は、お前さんのことが知りたい。」
「…っ!」

間近で見る仁王の顔は、今までに見たことのないくらい真剣な顔をしていて、胸が締めつけられるほどに高鳴って煩い。どんな状況なのかわからなくて頭が混乱してる。

「どういう、意味…?」

言葉がつっかえながらも口を開けば、少し口角を上げて笑った仁王の顔が更に迫り、気がつけば唇が触れていた。軽く触れた唇が離れ、ショートしそうな頭をフル回転させて状況を理解しようとするが、なんでキスされたかなんてわからないし、その事実に、顔に熱が集まってくるだけだった。

「な、なんで…」
「好きだ。」
「…っ…!」

「俺は、お前さんが好きじゃ。」

そう耳に聞こえたと同時に、目が熱くなって、視界がぼやける。
仁王が少し困ったように笑って、仁王の手が頭を撫でたかと思うと、そのまま引き寄せられて抱きしめられた。

「に、お…」
「そんな顔されると、どうしていいかわからんなる」
「ごめ…」
「なぁ…俺のことどう思っとる?」

そう呟いた仁王の声がなんだか少し不安そうに響いて、いつもと違う仁王に動揺するも、そんな仁王が愛しくて、そっと仁王の服を掴んだ。

「好き…仁王が、好き…」

抱きしめる仁王の手が少し強くなって、少しだけ早い彼の鼓動に、嬉しくなった。

「…好いとうよ。」
「うん」
「あー…」
「仁王?」

どうしたのかと顔をあげようとしたが、見るなとでも言うように、彼の胸に顔を押し付けられた。

「な、なに…?」
「今こっち見なさんな。」
「なんで?」
「なんでも。」

微かに沸いたイタズラ心に、無理に顔を上げて見ようとした瞬間、また唇を塞がれた。
何度も重なり次第に深くなっていくうちに耐えられなくなって目を閉じる。
目を閉じる前に微かに見えた仁王の顔が、なんだか幸せそうな顔をしていたので嬉しくなって、そのまま身を任せて、そっと背中に腕を回した。




純情ペテン師




貴方の知らない部分を見る度に、

貴方が愛しくてたまらない。




fin.






back