「名前先輩!!!!
俺、先輩が好きです!!
絶対好きになってもらうんで、
俺のこと好きになったら、
俺と付き合ってください!!」





そんなセリフを、クラス中に響き渡るような大声で叫ばれたのは、つい昨日の話。

こんなにも恥ずかしい思いをしたのはいつぶりだろう?いや、初めてだろうか。

クラス中に冷やかされ、友人にはキャーキャー言われ、同じクラスの蓮二には、面白いものを見たとでもいうように頑張れと言われ、しまいには何かをノートに書きだすし、廊下ですれ違った仁王にはにやりと笑われ、その後の休み時間にやってきたブン太にはからかわれ、何かおかしいとブン太に問いただしてみたら、どうやら、仁王とブン太の入れ知恵でこうなったようだ。

その日の部活で、2人の練習量を強制的に増やしたのは言うまでもない。

なんでこんなことになってしまったんだ。
その公開告白とやらをしてきた張本人、後輩の切原赤也は、ニコニコしながら私の横に座っている。
ちなみに今は、昼休みだ。


「ねえ、赤也。 」
「なんすか?」
「そんなに見られると、食べづらいんだけど。」
「気にしなくていいっすよ。
あ、いや、俺のことは気にしてほしいっすけど。」

そう言ってはにかむ赤也は、正直、可愛い。
好きかと言われれば好きだが、恋愛感情ではないだろう。
可愛い後輩だと思う。

なんで赤也が、私を好きだなんてことになったんだ。
そもそも本心…?
いや、でも、ブン太の話では、赤也が相談してきたみたいなこと言ってたし、そもそも本心じゃなかったら、いくらなんでもあそこまでしない…かな。

いや、だけどね、なんで私なんだ。
赤也はモテるんだから、もっと他にいい子がいるだろう。

なぜ。

「…赤也、」
「はい?」
「なんで、私なの…?」
「なんでって…好きになったから、ですかね?」
「は…っ?」
「だって俺、名前先輩のこと全部好きっす。」
「…っ!」

そうやってまたはにかむ。
どうしたらいいんだ。

「俺のこと、嫌いっすか…?」
「それはない。」
「!…へへっ嬉しいっす!」
「…そ、か。」
「あ、そうだ!!」
「ん?」
「今日帰りデートしましょう!!」
「………へ?」


で…デート?

確かに今日は、珍しく部活休みだけど。

………赤也と、デート……?


「…ダメっすか?」
「ダメじゃ、ないけど…」
「やった!じゃあ終わったら迎えに来ますから、絶対待っててくださいね!」
「…はい。」


なんだか成り行きで、赤也とデートすることになってしまった…。
どうすんだこれ。



悶々と考えてる間に、気づけば放課後になっていた。
とりあえず言われた通りに待ってみる。
が、なかなか来ない。


「赤也を待っているのか?」
「あ。蓮二。忘れ物でもしたの?」
「ああ。…赤也ならついさっき、2年の女子と廊下で話していたが。」
「ふーん。」
「…ふっ」
「ちょ、なんでそこで笑うの?
なんかおかしかった?」
「いや、なかなか興味深いと思ってな。
それじゃあ。」
「あ、うん…。」

興味深いってなにさ。
楽しそうな顔してさ。

それよりも、赤也はまだなのか。
………トイレでも行こうかな。

荷物そのままに立ち上がり、トイレへ行こうと廊下へ出る。
少し歩いた所で話し声が聞こえたが、気にもせず向かおうとした。

しかし、話し声の元が目に入り、思わず足を止めて隠れた。


つい先ほど蓮二に聞いた通り、赤也が女子と話していたからだ。
しかも、なんとも言えない空気で。

何故こんなに、まるで修羅場かというような雰囲気を漂わせているのか。

私がのこのこ出ていける雰囲気ではなかった。


「いい加減にしろよ。」
「あの先輩の所に行くの?」
「だったらなんだよ。」
「本気であの先輩のこと好きなの?」
「お前に関係ないだろ?」
「関係なくない!
だって私、切原くんのこと好きなの!」

耳に入ってきた言葉は、愛の告白というもので、
私の思考が一瞬止まった。

やっぱり赤也はモテるんじゃないか。

あの子なかなか可愛い子だし、
あたしなんかよりよっぽどいいだろう。

そんなことを思いつつ、心の奥底で感じた鈍い締め付けに、微かに疑問符を浮かべた。

「悪いけど、先輩のことが好きだから。」


そう言って、その場で泣き崩れた女の子に背を向けてこちらに歩いてくる赤也。

逃げようにもなかなかその場から動けず、やっとのことで振り返り戻ろうとした瞬間、



「名前先輩…?」
「あ、はは…やぁ赤也。」
「んなとこで何してるんすか?」
「いや、トイレ行こうかと思ったんだけど、やっぱやーめた!って…そんな感じ?」
「ぷっ、なんすかそれ?」

そう言って赤也が笑うから、私はすこしだけほっとした。

「ってか、待たせてすんません!」
「う、ううん!大丈夫!!行こっか!」
「了解っす!」


さっきのことに、ほんの少しもやっとしてしまったが、
今目の前で赤也が笑ってるだけで、
それでいいんじゃないかとすら思えてくる。

不思議な笑顔だな、なんて呑気に考えながら、赤也に手を引かれ教室へ向かった。




学校を出てから、普通にショッピングしたりゲーセンに行ったり、カフェに行ったりと、普通のデートをした。

さっきあったことなどは忘れて、純粋に楽しんでいる自分がいた。


日が傾いてきて、家まで送ってもらうことになり、その帰り道。

ふと、ずっと手をつないだままだったことに気がつき、少しだけ気恥ずかしくなったので、さり気なく離そうとしたが、離れそうになった瞬間、更に強く握られた。


「赤也…?」
「離さないっすよ?
というか、今更っすね。」
「そ、そうなんだけど、でもさ…」
「先輩、」
「な、なに…?」
「今日、楽しかったっすか?」
「へ…?あ、うん。」
「なら、よかったっす」

そう言ってまたはにかむんだ。
さっきまで忘れていたのに、先ほどの廊下での光景を急に思い出した。
また心の奥底で、鈍い痛みを感じた気がした。

「……赤也、」
「はい?」
「なんで……私、なの?」

昼休みにも同じことを聞いた。
でも、どうしても気になってしまうのだ。

「………先輩、さっき廊下でのこと、見てましたよね?」
「…少し、だけ……。見るつもりは、全くなかったんだけど、あの…ごめん。」
「別に謝ることないっすよ。
先輩は、どう思いました?」
「どう…って…?」
「あの場面を見て、なんか感じたっすか?」


なにか…

なんで、私なんだろうって、
他に可愛い子、いっぱいいるのにって、
それで…それで…?


「なんか…もやっとした。」
「もやっと…?」
「うん。もやっとしてちょっとだけ…苦しかった、かも…?」
「………。」


あ、あれ…?
これって、なんかさ…もしかして、もしかして…?
いや、でもそんな…え…?


「先輩、もしかして…嫉妬、ですか?」
「…………っ!」

その言葉を聞いた瞬間、顔が熱くなった。
もしかしてと思っていたこと、どう考えても、嫉妬、みたい。

なんで、なんで…?


「俺、期待していいんすかね?」
「あ、かや…?」

赤也が私に向き直り、握っていた手に、わずかに力を込める。

「俺、本気で、誰よりも名前先輩が好きっす。
俺と、付き合ってください。」

真剣な目で見つめられ、目をそらせなくて、
どんどん顔が熱くなってくる。

まだはっきり言えないかもしれないけど、きっと、

赤也に惹かれてる。




私は、わずかに頷いた。

俯いた瞬間強い力で引き寄せられたと思ったら、
気がつけば抱きしめられていた。




こんな、恋のはじまり。



まだ、少しだけ芽生えた恋心だけど、
これからもっと惹かれてく、そんな気がする。

きつく抱きしめてくるその腕に、胸に、

そっと体を委ねた。




fin.






back