「何を泣いているんだ。」
「…っ、」


部活へ行こうとした時、あまり人目につかないような場所でマネージャーである名前を見つけた。
様子がおかしいと思い近付いてみると、どうやら泣いているようで、肩を震わせていた。
声をかけると驚いたように反応をするも、振り向こうとはしない。

「や、柳先輩…?」
「何故こちらを向かない」
「いや、その…えへへ」

無理をして笑っているような姿が痛々しい。

「無理には聞かないが、一人で抱え込むよりも口に出した方が気分が楽になるだろう。
まぁ、俺じゃなくてもいいのだが。
話しやすい者に話してみるといい。例えば…」
「あ、あの…」
「なんだ」
「慰めようとしてくれてるんですか…?」
「……そういうことになるかもな。」
「えへへ…嬉しいです」

そう言ってやっと振り向いた名前の表情は涙で濡れていたが、無理のない笑顔だった。

「実は、失恋っていうか…なんていうか、騙されてたっていうか…なんて言えばいいんですかね」

そう言ってまた無理して笑おうとする。
何故辛いときに笑おうとするんだろうか。
名前の性格上、心配をかけないようにとか、変に強がって、という理由だろうが。

「…お前は素直すぎるが故に、相手を信頼して疑わない。
そうして誰を信用したらいいかがわからずに不安に駆られる。」
「う…」
「だが…お前の素直さは長所だ。」
「そう、ですかね…?」

事実を淡々と述べることしか出来ず、どうやら慰めるのは苦手なようだということをひしひしと実感する。
だが、そうも言っていられない。

「その素直さに惹かれてお前を心の底から思ってくれる人がいるだろう。友人でも、恋人でも。しかし、その素直さにつけ込もうとする奴がいるのも事実だ。だから、それを見極める必要がある。」
「見極め…」
「ああ…だが、お前には難しいかもしれないな。」
「な、なんですかそれ…」
「だから…」

自分はこんなにも、感情に流されるタイプだっただろうか。
俺もまだまだだな、と心の中で笑い、自分の中で起こっているこの感情に素直に、言葉を紡ぐ。


「俺を、信用すればいい。」
「え…っ」
「俺なら、お前を泣かせない。お前を守り、傍にいると誓おう。」
「柳せんぱ…」
「俺と付き合ってくれないか」
「…っ、」


また泣き出してしまった姿を見て、少し不安になる。
これほどまでに緊張することはあまりないだろう。

「…し、で、」
「ん…?」
「私、で…いいんですか…?」

我慢していた感情に歯止めがきかなくなり、俺は無意識に肩を引き寄せて、その震える体を抱きしめていた。


「俺は、お前がいい。」


そんなありきたりな言葉しか言えないが、心の底からそう思っている。
少し驚いたような表情をした名前の目から溢れた涙を指で拭う。


「お前が、好きだ。」


また泣きながらも、顔を上げて無理のない笑顔を見せる。
その笑顔が、姿が、愛しいと思った。


「…よろしく、お願い…します。」


微かにお辞儀をしながら告げられた言葉に、喜びであろう感情が溢れてくる。
その感情に身を任せてまた引き寄せて、そっと口付けた。






Answer




お前の中で生まれた感情こそが、答えだ。





fin.






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