私の想い人は、


「先輩、邪魔っスわ。」


超が付くほどドライである。





「…すみませんねぇ邪魔で」
「ほんまっスわ。自覚あるならどいてください」
「……くぅっ!財前が冷たいよ謙也のバカぁぁあ!」
「なんで俺やねん!
こいつが冷たいのなんて今に始まったことちゃうやろ!」

部活の休憩中、ベンチに悠々と座っていた私に邪魔と言って横に割り込んできた後輩、財前光。
この生意気でドライな彼は、私が密かに想いを寄せている相手である。

あまりの冷たさに、近くにいたクラスメイトの謙也に八つ当たりしたらつっこまれた。

そう、今に始まったことじゃない。
いつもこんな感じなのだが、でもやはり寂しいというか。
まぁ急に財前がものすっごく紳士になったらビビるけども。
…極端な話ね。

謙也のツッコミに対し、財前は少しだけダルそうな顔をした。

「うざい。」
「うざいってなんやねんお前!」
「そんなことより、苗字先輩、俺ドリンク欲しいんスけど。
こんなとこ座ってないでちゃんと仕事してください。」

そんなこと、で片付けられた謙也は横でわーわー言っている。
私はあらかじめ用意していたドリンクを、ベンチの横に置いていたボックスから取り出し手渡した。

「はい。」
「なんや、ちゃんと用意してるやないスか。」
「当たり前やん。
サボってるわけちゃうもん。」
「ちゃうかったんスか。それは知りませんでしたわ。」
「か、可愛くない…!」
「そりゃどーも。」
「〜〜〜っ!謙也のバカぁぁあああ!!」
「だからなんで俺やねん!!!!」


こんなに冷たくされても、バカにされても、
好きな気持ちは変わらないわけで。
惚れた方の負けなんだよなぁと思う。
だって、普段はこんなにドライで毒舌で、
ものすっごく生意気な後輩だけど、
テニスをしている時の彼はすごくカッコいい。
こう言うのもなんだが、輝いて見えるんだもん。
それに、なんだかんだ言って優しいんだ。
本当にさり気ない優しさに、ついときめいてしまう自分がいる。
ギャップ萌というやつなのだろうか。


そんなことを悶々と考えていたら、
部長の白石に呼ばれた。

そういえばミーティングがなんたら言ってた気がする。

もう少し財前の横にいたいけど、なーんて乙女な思考を振り切って立ち上がる。

「じゃぁまた後でねー。」
「ええからはよ行ったらどうスか?」
「言われなくても行きますー。」


本当に、

報われない恋心とは、こういうことを言うのだろうか。


財前が私のことをなんとも思ってないのはわかりきったことじゃないか。

諦めたほうがいいんだろうな、とか思っても、
なかなか難しい。

困ったなぁ。






翌日、

私は放課後、授業で使った資料を返しに図書室へ行った。


「…あれ。」

あまり人がいない図書室。
カウンターに向かうと、カウンター内でダルそうに座って携帯を弄っている財前がいた。

「財前、」
「ん…?
なんや、苗字先輩が図書室とか珍しいっスね。」
「授業で使った資料返しに来ただけ。
図書委員だったっけ?」
「まぁ、一応。」

会話をしながら手際よく返却の処理をする財前。
あまり見たことのない姿に、思わず見惚れてしまっていた。

「そんな見つめられると、穴あきそうなんスけど。」
「あ…ごめん。」
「俺のこと好きやからって見つめすぎ。」


…………え。


「…ぇ、ええええええ!!?」
「ちょ、うるさいっスわ。
ここ図書室なんで静かにしてください。」
「だっ…え、ええ?!」
「先輩、動揺しすぎ。」

思わず声をあげてしまったので反射的に周りを見たら、
タイミングよく誰もいなかった。
なんとか周りに迷惑はかけていなかったようだ。
そんな私の姿を見て、財前は小さく吹き出した。

「…っ!だ、だって…!笑わなくてもいいじゃん!」
「先輩ほんま素直っスね。」
「あ、あの、なんで…」
「なんでって、苗字先輩わかりやすすぎやし。」
「ウソ!?」
「…まぁそれだけやないスけど。」
「え?」
「…なんでやと思います?」

そう言った財前は、ものすごく挑発的な目をしていた。

胸がギュッと締め付けられる感覚。

その目から逸らせなくて、見つめあってしまう。
思考が働かなくて、いや、そうでなくても、
答えなんてわからない。

「…なんで…?」

震えそうになる声を必死に誤魔化して声を出した。

財前は、ふっと笑ったかと思うと、イスからたちあがり、
真剣な顔をして私の頬に触れた。

財前に触れられたところがどんどん熱を帯びていくのがわかって、恥ずかしさのあまり目を逸らそうとしたが、こっち向けと言わんばかりに固定してくる財前の手。

「…俺が、そうさせたから?」

「……え?」


耳を疑うような、思いがけない言葉を発した財前。
そうさせたとはどういうことだ。

「先輩が、俺のこと好きにならんかな、と思って、
さり気なくアプローチしとったから。」

「…は!!?」

アプローチ…されていたの、か…?

「……あの、ドライすぎて、冷めてて、イジメられてるイメージしかなかったんやけど。」
「まぁわかりにくくしとったし。」
「な、なんで!?」
「やって、あからさまなアプローチとか、カッコ悪いやないスか。」

そういう問題なのだろうか…?

「せやから、このタイミング待ってたんスわ。」
「そ、そう、なの…?」
「ってか先輩、どういうことかわかっとります?」
「な、何が…!?」
「俺が、アプローチかけとった、って意味。」
「………!!!!」

そうだ…
どういう意味かと考えてみたら、
どうにも都合のいいようにしか思考が動かない。

もしかして、もしかしてと思ってしまう。

どんどん高鳴る心臓と、ほとんど働かない頭に気を取られていると、気がつくと、カウンター越しの財前の顔が間近に迫っていた。

「…っ…ちょ…、」
「俺のこと、好きですか?センパイ?」

額をくっつけて唇まで触れてしまいそうな距離で、
自信たっぷりに笑う財前が憎い。

でも否定できなくて。


私は微かに頷いた。




「…俺も、先輩のことが好きです。」



その言葉が耳に入った瞬間、


私の唇に、


財前の唇が触れていた。





能ある鷹は爪を隠す。





貴方に狙われたその瞬間から、


私はもう捕らえられていたんだ。




fin.






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