「…………もしもし……?」
夢現の中、けたたましく鳴ったスマートフォンを手探りで手に取りぼんやりと見えた通話ボタンを押し電話に出た。誰からかかってきたかなんて見る余裕も思考もなく、うとうとしながらも耳を傾けると、盛大なため息が聞こえた。
「んー…?」
『寝てたんすか。』
「は…?」
『起こしてしもうたみたいですんません、先輩。』
「ん…?財前…?」
『おん、苗字先輩の可愛い後輩の財前っすわ。』
「可愛い…?確かに可愛いけど、生意気の間違いじゃ…ふぁあ、ねむ…」
『むっちゃ眠そうやん先輩。
ちゅーか、こんな時間にもう寝てたなんて珍しいっすね。』
「なんか今日すごく眠くて…てか財前なんの用なん…?」
中々頭も働かず、財前の意図がわからなくて聞き返すと、途端に財前が黙った。
不思議に思い、財前?と名前を呼んでみると、またため息が聞こえた。
『先輩、今何時かわかっとります?』
「んー…?0時45分…?」
『………………………。』
「ん…?……………あ。…あ!!」
再び聞こえたため息。電話とってから何回私は財前にため息をつかれているのだろう、なんてことは頭の片隅で少し思ったが、それよりもやっと気付いた事実に一気に目が覚めて勢いよく起き上がった。
「ああああ!!!財前!!!誕生日!!!!!」
『…っ…声でかいわ。うるさ。夜中なんすけど。』
「あああごめんごめん!てか、うわ、日付変わってすぐ電話しようと思ってたのに!!!」
眠かったとはいえ、自分の好きな人の誕生日を最初に祝いたいと思うような乙女心くらいはあるし、心に決めていたのにそれを実行できなかったショックと自分の睡魔への怒りと呆れがないまぜになって、今度は私が大きくため息をついた。
「ショックすぎる…アホやわ私…」
『へこみすぎやろ。
苗字先輩がアホなんは今に始まったことちゃうし。』
「生意気だなほんと!」
なんという生意気な後輩なんだと思ったが、今に始まったことじゃない。
と、ふと気づいたのだ。
「あれ…?なんで財前、私に電話してきたの?わざわざ?」
『………………。』
だんまりか。だんまり決め込むのか。
電話越しに黙り込んだ後輩の名前を呼びかけていると、うるさいっすわ。って怒られたからとりあえず黙る私。あれ、私の方が先輩だろう。
『……この前の部活んとき…』
「へ…?」
『部活んとき、謙也さんと話してたやないっすか。』
「謙也?」
部活で部員と話すのは当たり前だし謙也と話したことなんてありすぎて…と思いながらも記憶を辿れば、1つ思い当たることがあった。
「あ。もしかしてあれか。財前の誕生日にどっちが先におめでとう言うかって言い合ったやつか。」
『………。』
「あ!!ってことは私謙也に負けたってこと…?!」
一番に言えなかったってこと自体ショックなのに謙也に負けるとかそれこそショックすぎる。謙也のくせに!!
『…負けてへん。』
「はい…?」
『俺まだ、誰からも聞いてへんもん。』
「え。なんで?」
あんな言い合いしてるんだから、謙也なら絶対すぐ電話しそうなのに。浪速のスピードスターがなんとかかんとか言いそうなのに。
それに他のメンバーとかも言ってきそうなのに。
『確かに謙也さんから電話きましたけど、出てへんし。』
「…………は?!」
『部長とかからもLINE来たけど見てへんし。』
「ええ?!」
なんでそんな頑なに…どういうことなんだ。
意味がわからんぞ。
「な、なんで…?」
『……先輩のせいやわ。』
「えっ」
『先輩がかけてけぇへんからやろ。』
「ざ、財前…?」
『なんで俺がここまで言わなあかんねん…』
「あ、あの…」
またつかれるため息。
財前の言い分を聞いてると、なんだか自分の都合のいいようにしか聞こえなくて、動揺してしまう。
『……苗字先輩から一番に聞きたかったから。
だから電話したんすけど。』
私の心臓が、煩いくらいに高鳴って、胸が苦しい。
ああ、私はほんとに、この人のことが好きだなって、思った。
「財前、」
『……ん。』
「財前、誕生日おめでとう。」
『………。』
「生まれてきてくれて、ありがとう。」
『苗字先輩、』
「財前、好き。」
素直に口から出た言葉。
気付いたときにはもう遅くて、思わず好きと言ってしまっていた。
さらっと告白してしまっていたのだ。
「あ、いや、あの、今のは」
『名前先輩、』
「……っ、」
『その言葉、会ったときもっかい聞かせてもらうんで。』
「………は?!」
『おめでとうだけ、ありがたく受け取っとくわ。今は。』
「ちょ、だからあの、今のなし…!」
『さっきの、絶対忘れへんから。
あ、あと、朝迎えに行くんで。そん時絶対聞かせてもらうんで、覚悟しといてください。』
「ほ、本気…?」
『当たり前やろ。』
なんなんだ。なんて生意気なんだ財前光。
え、てか迎えにくんのか、わざわざ。わざわざ?
しかも朝強制的に告白させられるの?本気?
「あ、あの、朝っぱらからフラれるのはちょっと…」
『はぁ?』
「な、なんその言い方!腹立つ!」
『誰がフるなんて言ったんすか。どんだけネガティブやねん。』
「だって!」
『俺が迎えにまで行くってことがどういうことか考えーや。
先輩のアホ。』
「〜〜〜っ」
生意気だし、すごい腹立つって思うのに、心臓は破裂しそうなくらいに高鳴ってるし、ムカつくはずなのに財前の言い方がなんだかいつもより少し甘く聞こえて、胸が締めつけられるみたいに苦しくて。
愛しくてしょうがないと思った。
『そんじゃ、俺も寝るんで。
起こしてすんませんした。あと、ありがとうございます。』
「え、いや、う、うん…おやすみ。」
切れた電話の無機質な音。
実感がわかない。
眠気もどっかへいってしまったし、朝のことを思うと眠れそうにない。
高鳴る心臓を押さえ込むように、私は布団へと潜り込んだのだった。
真夜中コール
「おはよーございます」
「お、おはよ」
「で?」
「お、おめでと」
「……それから?」
「…っ、…す、すき…です」
「ん。俺も好きです。」
fin.
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