照りつける太陽。茹だるような暑さ。期末試験も終わり夏休み直前。暑いからと言ってだらけたい気持ちは山々だけど、部活はこれからが本番!という感じなので練習はみっちりある。
走り回って運動してる彼らよりはマシかも、と思ったけど、マネージャーも楽ではなくて、こう暑くなってしまったものだから、洗濯物も増えたしドリンクの消費も激しいし、やることは多いし力仕事ばかりだ。
洗濯機も回したしドリンクも作ったし、やっと一段落ついた、と伸びをする。ちょっと休憩しようかしら。
「何サボってるんスか、苗字先輩。」
「おわっ!びっくりした、財前くんか。」
「そないびっくりせんでもええでしょ。」
「いやびっくりするって。今めっちゃ無防備やったからな。」
「いつもやないスか。」
「なんやてー?」
「なんでもないっスわ。」
いつもの生意気さ炸裂な財前くんは、こんな暑さの中でも変わらずクールだ。
「財前くんいっつも涼しそーな顔しとるけど、暑ないん?」
「暑いに決まっとるやないスか。先輩アホなん?」
「アホやないわ!失礼やな!」
ほんまに先輩やと思ってんのか。年下やろ。一個しか変わらへんけど。
「…あれ?」
「あ?なんスか。」
「そういえば財前くん、誕生日7月やなかったっけ?」
「…そうですけど」
「え、もしかしてもう過ぎてる?!」
「……過ぎてはないっスね」
「おお、よかった!いつなん?」
「……………………今日。」
「…えっ」
「せやから、今日なんスけど。」
「え、えええ?!」
タイミングいいんか悪いんかわからんけど、驚きすぎて動揺してる私をよそに、財前くんは相変わらずクールな顔をしている。人事みたいな顔をしている。
「今日とか、え、嘘やん!!」
「嘘ちゃいますわ。なんで嘘つかなあかんねん。」
「は、もう、はよゆーてよ!」
「自分の誕生日言いふらすような、そんな謙也さんみたいなことせぇへんわ。」
「なんでそこで謙也…」
「あの人絶対言いふらすやないすか。」
「そうやけど…やなくて!!おめでとう財前くん!」
「……っス」
ほんの少し気恥ずかしそうに目を逸らして返事をする財前くん。ちょっとシャイなところが彼の可愛い所だ。生意気だけど。
そういえば皆お祝いとかせんのんかな。いや、するやろ。部活終わってからでも…あ、でも私プレゼントとかなんも用意してない。てか財前くんが欲しいものなんてなんもわからん。どうしよう。
「財前くん、欲しいものとかないん?」
「は?」
「だから、誕生日プレゼント!なんも用意してへんから、欲しいものにしようと思うんやけど、何が欲しいんかなって。あ、高すぎるやつはなしやで!」
所詮中学生なもんで、買える範囲は限られている。
この生意気少年は、『性能のいいパソコン』とかとんでもないものを真顔で言って来そうだから先手を打っておかないと。
「……………じゃあ、」
「なになに?」
「先輩。」
「……………は?」
「苗字先輩が欲しいって言ったら、どうするんスか」
ぴたり。思考が止まる。
待って、彼は今なんて言った?そんな真剣な顔で、なんて?
とんでもないことを口にするだろうという予想はしていたが、予想の範疇を越えていなかったか?聞き間違い?
「ど、どういう、意味…?」
「さぁ、どういう意味やと思う?」
いつものクールな顔とは違う、意地の悪い顔が目に映る。さっきの真剣な顔は幻だったのかと思うほど一瞬だったけれど。なんで、どういうことなの。からかわれているだけ、だよね。でも、さっきの真剣な顔は―――なんで。なんで。
「先輩、顔真っ赤。」
「…っ…!!」
頬に触れた冷たい指先に、びくりと体が震える。
彼の指が冷たいのか、私の顔が熱を帯びてるのか。
恥ずかしすぎる。なんだこれは。
意識なんて、したことなかったのに。
目の前の彼は、ただの後輩。生意気な、後輩。
でも。今の言葉と真剣な顔。まるで魔法にでもかかったかのように心臓が煩く騒いでいる。
「…………………冗談。」
「…え、あ、」
だよね、と言おうとした。やっぱり、からかわれてるだけだったじゃない。ほんと、先輩をからかうなんて、ほんと生意気なんだから。
そう思ったのは、ほんの一瞬で。
目の前には彼の黒髪が映り、視界が財前くんでいっぱいになる。さっき頬に触れた冷たい指先が私の顎を捕らえて、熱を持った唇が、私のそれに触れている。ゆっくりと、名残惜しいとでも言うように離れていく熱に、心臓がむず痒く疼いた。
「……なん、…」
「………………冗談や、って、言うつもりやったんスけど、先輩のせいやわ。」
「…え…」
「あんな顔、反則やろ。」
「ど、どういう…っ…!」
引き寄せられて傾いた体は、すんなりと財前くんの腕に収まって、温もりに包まれる。
「……好きや。」
耳元で聞こえた低く掠れた声とか、強く私を抱きしめる腕。今目の前にいる彼は、"後輩"ではなく、"男"だ。そんな彼の腕の中にいる私自身、"先輩"ではなく、"女"なのかもしれない。
彼に酔ってしまったかのように体が熱くなり、心臓が締め付けられるほど苦しい。彼を、愛しく思ってしまう。
「先輩を、俺にください。」
抱きしめている財前くんの手に、少し力が篭る。
少し離れたところから聞こえた音。洗濯機が止まる音に、彼は私を離そうと、そっと力を弱めた。
少しずつ離れていく彼を、熱を、欲しているかのように、私は手を伸ばして彼の背中に触れた。
抱きつくように彼の肩に顔を埋める。
「先輩、」
「…あげる」
「………っ」
「私で、いいなら、財前くんに、あげる。」
そっと顔を上げると驚いたような顔をしている財前くんがいて、少し苦しそうに顔を歪める彼が、愛しくて、彼の頬に唇を重ねた。
「ほんま、反則やわ。」
「財前くんがね」
「先輩には敵わんっスわ」
「そんなことな…っ、」
再び私の唇に触れた熱が、触れる度に熱くなる。
彼から離れられなくなってしまったかのように、
何度もキスをした。
熱情プレゼント。
その後、皆に見つかって冷やかされ絞られたのは言うまでもない。
fin.
back