「んんーっ絶頂!」
いつも通りの部活。練習試合。テニスコートから聞こえるいつものセリフに溜め息をつく。なんだよエクスタシーって。アホか。変態としか思えない。
聞かなかったことにしようと自分の仕事に集中するが、白石のその恥ずかしいセリフに対して試合相手の謙也はスピードスタースピードスター言ってる。どいつもこいつもうるさいわ。恥ずかしいセリフ対決でもしてんのか。テニスの試合やろこれ。
財前とか銀とかを見習ってほしいわ。まぁそれがこいつらの個性と言えば個性なんだろうけど。
「名前ー、」
「…………はい。」
突然呼ばれて心臓が跳ね上がったが、悟られないように返事をする。振り返ると、いつの間にそこにいたのか、白石が目の前にいた。試合終わったのか。
白石は少しキョトンとした顔をした。
「どないしたん?」
「…なんでもない。」
「そーか。あ、ドリンクくれへん?」
「はい。」
「おおきに。さっきの見てくれたか?」
「さっき?」
「俺の完璧なテニスや!」
「……………………見てない。」
思わず目を逸らす。
こいつ何言ってるんだって思うのに、つい見てしまっていたのが癪なのだ。
いつもそうだ。心の中で悪態をつきながらもいつも、目で追ってしまっているのだ。腹立つ。
「見てへんのかいな。ちゃんと見とかなあかんでー」
「はいはい」
「はいは1回でえーねん。」
そう言って私のおでこにコツンと拳を当てて笑う白石が憎たらしい。
確かに白石はイケメンやしテニス部の部長してるし優しいとも思う。モテるのはわかる。
でも変態臭いし、カブトムシとか毒草とか怪しいもの好きやし、残念なイケメンとはこのことかって思うねん。
白石のことなんて、と、心の奥底にある溢れそうな感情に気付かないふりをして押し込める。
そんなわけあるはずがない。そんなわけ。
「次はちゃんと俺の事見ときや?」
「…気が向いたらね。」
「つれへんなー。ま、俺から目ぇ離されへんようにしたるわ」
白石は爽やかに笑った。ずるい。なんだその笑顔は。
さっきまでエクスタシーエクスタシー言ってたくせに。
ばっちり見てたししっかり聞いてた私はなんなんだ。ばかばか。乙女かよ。腹立つ。
部活もようやく終わり、皆が着替えてぽつぽつと帰っていく中、私は部誌を書いていた。
皆の調子とか試合のスコアとか連絡事項とか、そんなことを事細かに書き込んでいく。オサムちゃんによろしく言われてしまってるからちゃんと書くしかない。これも仕事のうちだし。
「お疲れさん」
「…っ…びっくりしたー…お疲れ」
突然声をかけられて驚いて字が歪んだじゃないか。白石め…。
白石は少し笑って、さも当たり前のように私の隣の椅子に座る。そして私の書いてる部誌を眺めている。
その横顔に、不覚にもドキッとした。
邪念を払うようにまた部誌に取り組む。
「よぅ書けてんな。すごいな自分。」
「当たり前やん。毎日やってるんやから。」
「せやな。」
「…なぁ、」
「ん?」
「いつも私が部誌書き終わるん待ってくれてるけど、先に帰ってもええんやで?」
いつもそう。練習が終った後、帰る準備も終わってるのに白石は私が終わるのを待ってくれている。
まぁ部長やしな、なんて白石は笑って言うけど、一人遅くまで残って練習してる時以外はずっと、私を待ってくれている。優しすぎるよ。
「でも、」
「え?」
「でも、部長ってだけやのーて、少しでも長く名前と一緒におりたいっていうのも本音やな。」
白石は、そう言ってまた、笑った。
ずるいひと。
貴方にこんなにも感情を振り回されて、胸が張り裂けそうで、認めたくないと閉じ込めていた感情が弾け飛んでしまいそうになる。
目の奥に熱が集まって、視界が歪む。
私の髪に触れた白石の指先。
そのまま頭をそっと引き寄せられて近付く距離。
なんで。
そう思うのに。
こんなにも貴方が欲しいと
想いが、溢れた。
fin.
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