見つめる。


見つめる。



見つめる。



「……なんですか。」








「いぶいぶってさ、すっごく髪綺麗だよね。」


たった2人しかいない部室。

部活が始まるまでまだ時間があり、目の前で座っている後輩、伊武深司をただ見つめていた。
綺麗な顔に、綺麗な髪。
そこらの女の子よりも綺麗なんじゃないかと思ってしまう。

まぁなんで見つめてたかっていうと、観察してたっていうか、見惚れてたから。


「なんなんだよいきなり…
どうせ男のくせにとか思ってるんだろうなぁ…
いくら先輩だって言ってもなぁ…
そもそも、なんだよいぶいぶって。
意味わかんないあだな付けられてさぁ…」
「ねぇねぇ、触ってもいい?」
「……え………っ、」

不意に触りたくなって尋ねたものの、答えを聞く前に手が出てしまった。
触れた綺麗ないぶいぶの髪はすごくさらさらで、思わず笑みが零れる。

「すっごいなにこれー!
ほんと綺麗だね!私より綺麗だわ絶対!」
「ちょっと…」

ふと顔を見てみると、目をそらして少し困った表情をしていた。
しかし、思ったよりも至近距離で見えた表情に驚き、思わず手を離した。

「あ…ごめん。」
「いいですけど…
…なんなんだよ無意識なのかよ。
ほんと困るんだよなぁ…」
「ごめんって…」
「別に謝ってほしいわけじゃないし…
こっちの身にもなってほしいんだよなぁ…」
「いぶいぶ…?」

ずっとぼやいているいぶいぶに、思わず首を傾けた。

途端、

さっきみたいに、いや、それ以上に近い距離で見えた綺麗な髪と表情に驚き、顔が熱くなるのを感じた。
少しでも動いたら触れてしまうんじゃないかと思う距離。
好きな人がこんなに至近距離にいるという状況が、正直、心臓に悪い。


「…っ…」

「顔、真っ赤ですけど…」

「い、いぶいぶが近いから…!」

「なんで…?」

「だ、だからそれは…」


まさか自分の気持ちを言えるわけでもなく。
ただ一言素直に、"好き"だと言えたら、
どんなに楽だろうか。


「なんでもない…っ」

「なんだよそれ…
どうせほんとは嫌なんだろ。
俺なんかに迫られてさ。
あーあ。むかつくなぁ…
なんで俺がこんなに悩まなきゃなんないんだよ。
でもどうせ、諦めるとか無理だしなぁ…」


ずっと至近距離のままでいつものようにぼやくいぶいぶ。
固まって動けない私。
うるさく鳴っている心臓の音が聞こえてしまわないか心配なんだが。
ってかこれは迫られているの、か…?



「い、いぶいぶ…?」

「深司。」

「へ…?」

「…深司って呼ばないと返事しないから。」

「し…ん、じ…?」

「…名前、」

「…っ…は、はい…?」



急に呼ばれた下の名前に、高鳴る心臓。
こんなに真剣な表情をこんなに近くで見たのは初めてで、どんどん顔が熱くなっていく。





「俺、名前が好き。」





耳に響いた言葉が理解できなくて、
頭が働かなくて、
理解した瞬間、涙が溢れてきた。


「なんで、泣くの…そんなに嫌なのかよ…」
「ち、ちが…!ちが、くて…」


ボロボロと溢れてくる涙がおさまらなくて、必死に拭おうとした手に、深司の冷たい手が触れた。

「違うなら、なに…?」

覗き込まれるように見つめてくる真剣な目から、目がそらせなくて。


「ぁ、たし、も…深司が、好き。」

「…っ…うん。」


涙を拭う冷たい指が愛しくてしょうがない。


ふと、私の目を覆うように触れた手。

熱くなった目には冷たくて気持ちいいものの、
急に視界が真っ暗になって少し不安になる。


「深、司…?…っ、」


名前を呼んだ瞬間、唇に触れた感触。

触れたところがどんどん熱くなっていく。


キスしたんだってことに気づくまで、

そう時間はかからなかった。





冷たい手が愛しくて


熱い唇にどんどん溺れていく。





「し、ん…じ…」

「…黙ってなよ」



何度も重なる唇。


ぎこちなく腕を掴むと、

それに応えるかのように

少し引き寄せてくれる貴方が

愛しい。





















―――部室前


「(…どうするアキラ?)」
「(どうするっつったって…この状況は入れないだろ…)」
「なにやってんだお前ら。」
「「うわぁっ」」
「(た、橘さん…!)」
「ん?なんで小声なんだ?」
「(それが…中、)」
「ん…?…あぁ、なるほどな。」
「(ど、どうしましょう…)」
「(邪魔してやりたくないのは山々だが、このままじゃ部活が出来ないからなぁ…
タイミングを見計らって開けるしかないな。)」
「(了解っす)」






fin.






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