日差しが強くなり、夏を感じさせるようになってきた今日この頃。新入生が入ってしばらく経ち、部活も活気づいてきている。
この青学テニス部でも、新入部員を迎え、全国大会優勝を目指して練習に励んでいる。
ただ今までと違うのは、例外的に、一年生レギュラーが誕生したということ。
「名前先輩、そんなところ突っ立ってられると邪魔なんだけど。」
「えっ!あ、ごめん」
―――越前リョーマ。
帰国子女でテニスが強く、一部では王子様と呼ばれているらしい。
彼こそが一年でレギュラー入りした期待の新人ルーキーである。
性格はクールで生意気。女子には結構人気があるみたいだけど。確かに可愛い顔はしてるけど、やっぱ生意気。
「ねぇ、」
「あ、ごめん!」
「…いや、謝ることないけど。
先輩さ、部活終わった後、時間ある?」
「へ…?まぁ、あると言えばあるけど…」
「じゃあ、部活終わったら校門で。」
「は…?ちょ、越前…?!」
それだけ告げると越前は再びコートへと戻っていった。
校門で待ち合わせするって、どういうことなんだろう。
一緒に帰るってこと…だよね?多分。
そんなこと言われたのは初めてだし、それに越前が誘ってくるなんて考えもしなかった。
なんだかそわそわした気持ちのまま、マネージャーの仕事に戻る。
いつも通りの部活。
手塚の指示聞いて大石とサポートしたり、皆のスコア取りながら乾とあーだこーだ話したり、二年生レギュラーズの喧嘩を仲裁したり、ドリンクとかタオルとか配ったり、雑用したり。なんてことのない仕事。
越前に誘われたこと以外、特別なこともなく部活が終わった。
片付けも終わり皆がぱらぱらと帰り始め、人もほとんどいなくなった頃。越前の姿が見えなくなっていた。先に校門へ行ったのだろうか?
書き終えた部誌を閉じ、荷物を持って立ち上がる。
すると、部室の扉が開いた。
「あれー?名前先輩まだいたんすか?」
「桃。帰ったんじゃなかったの?」
「そーなんすけど、忘れ物しちまって。
あ!そーだ。名前先輩も飯行きません?
英二先輩達と行くんすけど。」
「あー…」
いつもなら、行くって即答するところだが、なにせ今日は越前と待ち合わせすることになっている。
…いや、でも、英二達ってことは、もしかして越前が言っていたのはこのことなのだろうか?
「あれ、行かないんすか?
珍しいっすね、名前先輩が即答しないの。」
「いや、その」
「なーんか越前も行かないとか言ってて、今日なんかあるんすか?」
「えっ」
越前は行かないって言ってた…?
てことは、皆でご飯じゃないってこと、だよね。
つまり、越前一人で待ってるってことで…
「…あ。」
「ん?どうしたんすか?」
「わ、やばい結構時間経ってる!
桃、部室締めるから早く出て!」
「わっなんすか?ちょっと待ってくださいよ!」
慌てる桃に急いで忘れ物を取らせて部室から追い出し、部室を締めて急いで部誌をスミレちゃんのところへ持っていく。
だいぶ時間が経ってしまった。結構待たせてしまっている。まだ待ってくれているのだろうか?
走って校門へ向かうと、門に寄りかかって立っている越前がいた。まだ帰っていなかった。
越前の元へ駆け寄っていくと、越前は来たことに気づいたようで顔を上げた。
「ご、ごめ…っ」
「遅いっすよ。」
「ごめん、って、はぁ、しんど」
「走ってきたんすか?」
上手く言葉が出ずに、私は何度も頷いた。
突然髪に触れられ驚いて顔を上げると、乱れていた髪を直してくれた。
「髪ぼさぼさ。体力なさすぎ。」
相変わらずの生意気な発言なのに、髪を直してくれる手が妙に優しくて、不覚にも少しときめいてしまった自分に驚いた。息も絶え絶えに煩いと呟けば、越前が少しだけ笑った気がした。
息も整ってきてまともに歩けるようになってから、何故か越前に手を引かれながら歩き出した。
何故手を繋がれているのか疑問なのだが、尋ねれば、「何となく」 なんてよくわからない返事が返ってきたので、諦めた。
「そういえば、なんで今日待ち合わせしたの?」
「一緒に帰るから以外に、理由ある?」
「ううん。でも、桃達の誘い断ったんだよね?」
「……。」
黙ってしまった越前を不思議に思い、顔を覗き込もうとするとそらされた。
ふと立ち止まった越前に釣られて足を止める。
「公園、寄っていかない?」
帰り道の途中にある公園へ入る。日も暮れているからか、ほとんど人がいない。2人、ベンチに腰掛けてぼんやりと公園を眺める。
越前の雰囲気がいつもと違う気がして落ち着かない。
普段からそんなに喋るようなタイプではないけれど、なんと言えばいいのか、雰囲気が違う。妙な沈黙が漂う。
そもそも誘ってきたのもそうだ。珍しい。
こうやってただベンチに座っているのも、決して気まずいわけではないけれど、なんだかそわそわしてしまうのだ。
「先輩はさ、」
「ん?」
沈黙を破ったのは越前。越前の方を向くと、意外と距離が近くて反射的に少し引いてしまう。近すぎてびっくりした。
「……先輩は、鈍いよね。」
「……………は?」
突然何を言い出すかと思いきや、いきなり鈍いと言われるなんて予想外で、軽くパニックを起こしそうだ。
「…どういう意味?」
「俺がこうやって誘ってる意味とか、ずっと待ってた意味とか、わかってないよね。」
「え?まぁ…わかんない、けど…」
「……はぁ。」
あ、そうやってあからさまにため息つかれるの傷つくよ?わからないものはわからない。教えてくれないと、わかるわけがないじゃない。
わからなさすぎてこっちはそわそわしているんだぞ。
言ってくれないとわからない、と伝えようと口を開こうとしたとき、越前に手を引かれて、さっきよりも至近距離になり、越前の顔が間近にある。
あまりの近さに恥ずかしさが募り顔が熱くなっていく。
「名前先輩は、俺のことどう思ってる?」
「ど、どうって…」
こんな距離でそんな質問をしてくるのは反則じゃないだろうか。こんな状況、1つの考えしか思いつかないけど、そんなはずはないだろう。でも。でも。混乱しすぎて頭がパンクしそうだ。
「俺、先輩が好きだよ。」
その表情は本当に真剣で、思わず見とれてしまうほどにカッコよく思えて。先ほどまでそわそわしていた感情が、まるでその一言で魔法にでもかかったかのように心臓が早鐘を打ち始めて張り裂けそうになる。
「ほ…本気…?」
「嘘だと思う?」
「あの、その、」
想像もしていなかった。
越前が私を好きなんて、今の今まで考えたこともなかったのだ。
「俺と、付き合ってくれない?」
越前を好きかどうかも考えたことがなかったのに、今までにないほどにドキドキしている。
越前以外何も考えられないくらいに脳内は支配されているし、さっき髪に触れた優しい手とか、手を握られた感覚、引き寄せられた腕の強さ、おでこがくっついてしまうほどの至近距離で見える真剣な表情、全てが、私の感情を捕らえてくる。
微かに頷くと、越前が嬉しそうに、微かに笑った。
今まで以上に近づいた越前の唇が、触れた。
生意気な魔法使い
これはきっと、恋の魔法。
なんてね?
fin.
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