「ねぇ、」
「な…なに…?」
「なんで逃げるの。」
「それは、越前が近づいてきてるからじゃ…」


私は今、ピンチな状況に置かれている。



「近づいたらダメなんだ?」
「あの…そういうわけじゃ、ない…けど、」


後輩の越前リョーマに告白され付き合うようになったのは、つい2週間前のこと。
部活が休みの今日、越前が私の部屋に来たいと言ったから呼んだのだが、気がつけば、ベッドの上で壁際まで追いやられ、どんどん近づいてきている状態。
絶対に顔は赤くなってるだろうし、目も泳いでるだろう。
初めてのこんな状況にどうしたらいいのかわからず戸惑いを隠せない。

何故こんなことになったんだ。


「顔、真っ赤だけど。」
「じ…自覚、ある…。」
「ふーん」

そう言ってイタズラな、生意気な顔で笑うから、余計に胸が煩く高鳴ってきて、また顔に熱が集まってくるんだ。
こいつ…絶対わざとだ。絶対。


越前が何故私に好きだと言ってきたのかはいまだにわからない。
唐突すぎて、頭が混乱したし。
でも、彼は告白した後から、私に積極的に迫ってくるようになった。
生意気で、クールな癖に強引で、そんな越前に私は、どんどん惹かれていっている。
付き合い出してから、もっともっと。
これは、思うつぼだな。


「ねぇ、キス、するよ?」
「な、なんで聞くの?!」
「いきなりするなって言ったのは、先輩だったと思うけど?」
「……ソウデスネ。」
「いいから、黙ってよ。」
「え、ち…ぜん…、」

心臓の音が煩くて、声が震えた。
すると、唇が触れそうになる直前で、越前が止まった。

「……あのさ、ずっと思ってたんだけど、」
「へ…?な、なに…?」
「いつまで、越前って呼ぶ気なの?」
「………………え。」


越前って…呼んじゃだめなのか。
付き合ってる、から…?
でも呼び慣れたこの呼び名から変えるのも、なんだか緊張する。


「えっと………越前くん、とか…?」
「…それ、本気で言ってる?」
「ほ、本気、だけど…?」
「普通は、下の名前呼ぶでしょ。」
「下の…名前…、」
「呼んでよ…俺の名前。……ねぇ、名前。」
「………っ、」


そんな目で見られたら、
真剣な、でも少し切なそうな、
そんな声で名前を呼ばれたら、

心臓が、爆発しそうになる―――




「……、ま……」
「何…?」


ドキドキと心臓が高鳴る。胸が締め付けられる。
息苦しい。絞り出すように出した声は、酷く震えてる。


―――まだ、伝えられてなかった。

惹かれていってるのには気付いていたけど、まだはっきりと言葉に出来なくて。
気持ちをちゃんと、伝えられてなかったから。

でも、こんなにも心臓が煩いのは、好きってこと、だから。

だから…伝えたいから。




「りょ、ま……リョーマ、

……好き、だよ。」


「――――っ…!」


リョーマが、すごく驚いたような顔をした。
だけどすぐに、ほっとしたような、少し呆れたような、それでもすごく嬉しそうな。
そんな表情をして、抱き締めてくれたから。

なんだか嬉しくなって、
私も、リョーマを抱き締め返した。




今までの、少し強引なのとは違う、
優しいぬくもりに、
唇に触れる感触に、

まだ冷めないドキドキと、
あったかい幸せを感じながら、

そっと目を閉じた。





この胸の高鳴りは、


幸せの音。




こんなにも、貴方が好きです。



fin.



相互記念、遠山様へ。