「こーら不良ピアスくん!」
「まーた煩いのが来ましたわ」
「ちょっと!煩いってなによ!校則違反なそのピアス引っこ抜くわよ!!」
「これ俺の体の一部なんで取れへんっすわ。
それよりその短すぎるスカート丈のが校則違反やとおもいますけど?」
「生意気!ほんと生意気!!」
「あー名前さん声でかすぎて鼓膜破れるわ。
なんも聞こえへんなったらどうしてくれるんすか。」
「もう!いいから早く準備してよ!
ずっとそこいると私の仕事できないでしょ!」
「はいはい。小煩い小姑みたいっすわ。」
「ざ〜い〜ぜ〜ん〜〜〜〜!!!!!!」
いつもの放課後いつもの部活。そしていつものように生意気すぎる後輩、財前光。マネージャーで先輩である私を敬うことは全くなく、ほぼ毎日こうして言い合いをしている。
今日も今日とて、この個性豊かな四天宝寺テニス部の中で断トツ生意気毒舌クールガイ(?)財前光と、東京生まれの紅一点マネージャー苗字名前の戦いのゴングが鳴り響く……
私の頭の中でだけだが。
皆が打ち合いの練習をしてる中、私はいつものように、この大量の洗濯物と大量のスポドリ作りに励む。かなりの体力勝負。か弱い女子が1人でこんなにも働くなんて。なんて健気なマネージャーなんだ私は。
…自分で言ってちょっと虚しくなってきた。誰か褒めてくれ。
出来たばかりのスポドリをコート付近にいる部員の元へと持っていく。相変わらず重い。ほんと重い。ムキムキになったらどうしてくれるんだ。マネージャーやり出してから絶対前より腕ごつくなったと思う…悲しい。くそう。
「はいはーい、スポドリですよー取りにきてー。」
「あら!ありがとう名前ちゃ〜ん!」
「いいのよ小春ちゃん!」
「相変わらず可愛いわね〜!」
「小春浮気か!」
相変わらずなダブルスコンビだなと思いながら、取りに来た部員に次々とスポドリを渡していく。だいぶ減ったな。
後、取りに来てないのは…謙也と財前、と、目の前のコートで打ち合いしてる2人を見て確認する。
いつもあんなに生意気で毒舌で可愛げのない財前は、テニスをしてるときはとんでもなくかっこいい。確かに見た目もまぁ、イケメンな方だと思うけど…生意気じゃなかったらなー。…と言っても、こんなに言い合いしつつ、微かな恋心を抱いてるのは私の方だが。
微か、というのは、私の中でのわずかな抵抗である。
「名前ー」
「っ…!?な、なに…?」
どうやったら奴のデレを見れるんだろうか、と眺めながらバカなことを考えていたら、白石が近付いてきてることに気付かず、名前を呼ばれてちょっとびっくりした。
「オサムちゃんと3人でちょっと打ち合わせあるから部室来てやー。」
「はいよー。」
残ってる2人分のスポドリを近くにいた銀に託して、白石について部室へ向かった。
打ち合わせも終わり、白石と話しながらコートへと戻ると、打ち合いが終わりベンチに腰掛けてスポドリを飲んでる財前がいた。その横ではいつものように喋り続けている謙也がいて、相変わらずスルーな財前に苦笑した。謙也のメンタルどうなってんだ。すごいな。
財前がこちらに気付き、目が合った。
あれ?なんか…いつもより機嫌が悪い気がする。ほんの少しだけど、そんな気がした。
「おー、どこ言ってたんや?2人して。」
「デートやデート。」
「はぁ!?ちょ、お前らそんな関係やったん!?」
「…謙也アホなの?」
「アホってなんやねん!」
白石のこんなあからさまな冗談を本気で捉えて驚く辺りほんとアホだと思う。まぁ、それが謙也のいい所ではあるけど。
「ほんまアホやなーそんな野暮なこと聞いたらあかんで。こいつ恥ずかしがりやなんやから。」
「ちょ、白石……いい加減に、」
「おーほな、謙也に俺と名前の関係じーっくり教えたるわ。」
「は…?」
「お、おおう…!?」
そう言って白石は謙也を連れてどこかへ行ってしまった。全然意味がわからない。てか打ち合わせって普通に言ったらよくない?謙也からかうにしてもタチ悪いでしょ。しかも、まぁ全然気にしてないと思うけど、財前の目の前でそんな話するとか、白石後でしばく。
「…部活中に、部長とマネがデートしよるなんて、随分呑気なんすね。」
「ちょっと、財前まで何言ってんの?あんなの冗談に決まって…」
「ほーん?」
「…なんかすごい機嫌悪くない?」
「別に。なんもないっスけど。」
「うっそだー!絶対機嫌悪い。いつもよりツンツンしてるもん。」
「なんすかそれ…」
「わかった!私がいなかったから寂しかったとかー…」
あまりにも財前の機嫌が悪いから、少しでも紛らわせようと冗談を言ったが、そっぽを向いたままの財前は全く反応をしない…あれ、これってもしかして、ちょっと図星だったりする…?
「え、まさかほんとに…」
「煩いっスわ。」
「え、え?財前が?やだ、ちょっと、かわいいとこあるじゃん?」
「…寂しいとか思ってへんしな。」
「じゃあなによー」
かなりレアな財前のデレが見れそうな予感に舞い上がった私は、調子に乗って畳み掛けるようにそっぽを向き続ける財前の顔を覗き込む。
刹那。ぐいっと手を引かれる感覚。わっと声にならない声が出たのも束の間、私の唇に、財前のそれが触れた。
ゆっくりと離れていく唇。下から見上げてくるその表情はすごく真剣で、財前とキスをしたんだと頭が理解した途端、私の心臓の音がドクンドクンと響く。
「…っ、…」
「…寂しかったんやなくて、部長に嫉妬しただけっスわ。」
「は…?し、嫉妬…!?」
「俺にスポドリ渡さんと部長とどっか行きよるし、楽しそうに話しながら帰ってくるし?」
「な、何言って…」
「なぁ、名前先輩?」
「は、はい…!?」
先輩なんてほとんど呼んだことない癖に、ほんの少し甘えたような顔をする財前が、憎たらしくて、可愛くて、かっこよくて、その破壊力に死にそうになっていると、私の髪を耳にかけるような仕草をして、流れるように財前の左手が私の頬に触れた。
「……もっかいキスしていいっスか?」
「え…!?は、ざ、財前…!?」
「嫌なら嫌ってはよ言わな、するで?」
「ちょ、まっ、なに…!?」
「時間切れや」
「…っ…!」
頬から後頭部に回った手に引き寄せられ、私はまた、財前とキスをした。
財前のデレが見たいなんて考えていた数時間前の自分に教えてやりたい。
嫉妬(?)からの、デレが来るかと思いきや通り越してしまうんだということを。
「好きやで?名前先輩?」
「〜〜〜っ…わ、私、も…」
「知っとる。」
「ば、ばか…っ…!」
「そんなん言うんわこの口っスか?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
攻略したのかされたのか。
これからどうなっていくのか。
ただ、今わかることは、
そんなことを考える余裕もない程に、
目の前の彼に翻弄されているということ。
きみ攻略マニュアル
fin.
7万打&10周年企画
back