「やだ。」
「やだって…」
そりゃあ確かに、そういうのあんま好きそうではないし、
いくら恋人とは言え私の言うこと素直に聞くタイプでもない。
生意気で、テニスのこと以外ではクールな彼のことだ。
そりゃ、そりゃ断られることは想定していたけれども、でも、譲りたくない気持ちがあるのだ。
「どーしても、どーしてもだめ?」
「…なんでそんなの撮りたいのかわからないんすけど。」
「だって…記念日だよ?思い出に、撮りたいの。」
「………。」
今日は付き合い初めて半年記念日だ。
だから記念にプリクラのひとつやふたつ撮りたいと思う微かな乙女心が私にもあるわけで。
プリクラどころか、写真すらほとんど撮ったことがないというのに。
恋人の写真を持っていたい、なんてこと、リョーマは思いもしないのかもしれないけれども。
…なんだか虚しくなってきた。
「…もう、いいよ。」
「……はぁ。仕方ないっすね。」
「いいって、無理しなくて。」
「先輩、撮りたいんでしょ?」
「……………う」
「今日だけっすよ。」
「……うん!」
なんだか嬉しくなってきてにやけてると、にやけすぎって言って頭小突かれた。こいつ絶対私のこと年上だと思ってない。
ゲームセンターの一角。キラキラしてて、女の子がたくさんいる独特な雰囲気。
その中を無表情で歩く彼、越前リョーマは浮いてる。
「どれにするの。早く決めてくれない?」
「あ、うん。えーと、これにしよ!」
「はいはい。」
空いているプリクラ機の中へ入り、荷物を置いてお金を入れる。手順に沿って画面をタッチしていく。
プリクラ機から『撮影するよー!』という声が聞こえ、無難にピースする私と、無表情のリョーマ。
…やっぱり楽しくなかったかな…。
「あの、リョーマ…なんかごめん。」
「なんで謝ってんの」
「だって…」
「ほら、撮影続いてるんじゃない?」
「う、うん。」
落ち込んでしまって、作り笑いのような私の笑顔が写る。
せっかくの、記念日なのに。こんなんじゃダメだ、と立ち直り、楽しもうと決めた。
その時。
突然腕を引かれ、体がよろめく。
え、と口から思わず漏れた声が消されるように、唇を塞がれた。
至近距離にはリョーマの顔があって、キスしてるってわかった瞬間、聞こえたフラッシュ音。撮影が続いている。
慌てて離れようとリョーマの体を押すも、逆に強く抱きしめられてしまい、更に深くなっていくキスに頭がフリーズしそうになる。
力が抜けて崩れそうになる私を支えてくれる腕が少したくましくてときめく。
彼に翻弄されたまま何度かフラッシュ音が聞こえ、どうやら撮影が終わったようだ。
ゆっくりと離れた唇。
少しにやりと笑ったリョーマは本当に生意気な顔をしている。
きっと私は顔が真っ赤になっているだろうし、キスのせいで力が抜けて足元が少しフラついているというのに。
「何赤くなってるの?」
「だ、誰のせいだと…!」
「さぁね」
―――結局撮影された半分はさっきのキスがばっちりと収められていて、目の当たりにしてしまった落書きの時から更に恥ずかしさのあまり、顔の熱が引かない。
横を歩くリョーマは特に何事もなかったような態度をとっている。
だけど、少しだけ機嫌が良さそうだ。
「結構楽しかったんじゃない?」
「え…っ」
「プリクラ。また撮ってあげてもいーよ。」
「ば、バカじゃないの…!」
にやりと生意気に笑うリョーマ。
そういう私はきっと顔は赤いままだし、それを見てリョーマがまた面白そうに笑う。
でもそんな楽しそうな笑顔を見てしまったら、許すしかないのだ。
生意気な彼に振り回されてしまうけど、結局許してしまう私は、相当彼に甘いのかもしれない。
はじめての、ちゅープリ。
でも今度は普通に撮りたい。
fin.
5万打&8周年企画
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