今日は朝からついてなかった。寝坊するしコケるし授業で全然わかんないとこ当てられるし。
でもようやく1日が終わった。帰宅部の私はHRが終われば後は帰るだけだ。こんなについてなかったのだから、少しくらい良いことがあってもいいんじゃないか。そんなことを思いながら、帰りの支度をし、鞄を持って教室を出る。

そういえば。ミーハーな友人が、今日は男テニで校内試合があるとかなんとか言っていた。HRが終わってすぐさま教室を飛び出して行った女子たちが何人かいた気がする。特に用事があるわけでもないし、気分転換に覗いてみるのもいいかもしれない。


テニスコートへ着くと、それはもうすごい人だかりが出来ていた。女子。女子。女子。男子もいるにはいるけれど。女子だらけのこういうのが苦手で、今までテニス部を見に来たことがなかった。

「あ。」

テニスコートを覗くと、見知った姿を見つけた。
あの離れたところからでも目立っている赤髪。きっと、去年同じクラスだった丸井くんだろう。どうやら今試合をしているようだ。相手の人もよくクラスで見かけたことがあった。確か、桑原くん。丸井くんと仲よさそうに話してるのを何度か見たことがある。

すると。続いていたラリーに終止符を打ったのは丸井くん。綺麗なフォームで返された球がネットに当たり、ネット上を転がって相手のコートに落ちる。

「…すごい。」

そう呟いてしまうほど、ほんとにすごかった。その後も、たくさんの技を出しどんどん点数を決めていく丸井くん。その凄さに、食い入るように見つめていた。
チェンジコートの声が掛かる。丸井くんがふとこちらを向いたとき、何かを見つけたかのように視線が止まった。目が合ったかのような錯覚に陥り、何故かドクンと心臓が鳴る。目が逸らせなくて固まっていると、何を思ったのか、丸井くんが、笑った。

「キャー!今の見た?丸井くんこっち見て笑ったよ!」
「やばい!かっこいー!」

隣に立っていた女子達の黄色い声に我に返る。
彼女たちを見ていたのか。ファンサービス?本当にアイドルみたいだ。

そして試合が終わる。どうやら丸井くんの勝利らしい。
最後の最後まですごい技の連続で、試合が終わった今でも立ち尽くしていた。
心臓がドクンドクンと早鐘を打つように鳴っている。
この感覚は、なんなんだろう。
丸井くんの姿が目に焼き付いて離れないのだ。
それは、まるで、まるで―――恋に落ちたかのような感覚だった。
今まで見たことのない、初めて見た彼の一面に、胸が苦しくなったのだ。

「あれ?名前来てたの?珍しい。」
「あ、うん…なんとなく。」

友人に声をかけられて振り返ると、きょとんとした顔をされた。

「どうしたの?顔真っ赤。」
「えっ」

驚いて自分の顔に手を当てると、すごく熱かった。
ほんとに、恋をしているかのような感覚に、余計に顔が熱くなる。

ついてなかった今日。
私は、赤髪の彼に、恋をした。




あの試合以来、友人について何度か男テニを見に行くようになった。彼女から様子がおかしいと質問攻めされ白状してから、事あるごとに丸井くんの話を出される。どういうつもりだ。
今日も友人に連れられ、コートへと向かう。
コートに着く手前で、部室からこちらに向かってきているであろう丸井くんを発見し、足が止まった。

「あれ。」
「……っ」

立ち尽くしている姿を丸井くんに発見されてしまい、内心すごくテンパっている中、丸井くんがこちらに向かって歩いてくる。友人は「先に行ってるね」とにやにやした表情を見せ先にコートへ行ってしまった。

「よう、苗字。」
「あ…ひ、久しぶり…?」
「久しぶり、でもないだろぃ?最近よく部活見に来てね?」
「う、うん…気づいてたんだね。」
「そりゃな。それにこの前の試合のとき、目合ったじゃん。」
「…あ…。」

あれは、私の方を見ていたのか。横にいた女子達ではなく。私を。その事実に胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚がした。

「にしても最近よく来るようになったな。
苗字今まで来たことなかったろぃ?」
「…うん」
「誰か目当てでも見つけたか?」
「え…っ」

図星。しかも本人に気付かれるなんて恥ずかしすぎる。丸井くん目当てだってことは気づかれてないかもしれないが、それでも。なんと答えたらいいのかわからずに目が泳いでいる私をおいて、丸井くんは言葉を続けた。

「あーあ。それが俺だったらいいんだけど。」
「えっ」
「…なーんてな。それじゃ、俺の天才的妙技、しっかり見て帰れよ。」

そう言ってコートへと向かう丸井くん。私はその姿を見送ることしかできなかった。彼の言葉がずっと頭の中でリピートしている。それが俺だったら、って、どういう意味、なの…?軽い冗談?それとも。それとも。
友人の元へと行くと、どうだった?とにやにやした顔で聞かれたが、特に何も。と答えておいた。



今日も部活が終わった。出待ちをするとか言い出した友人に引っ張られ、何故か校門の方へと連れてこられた。出待ちって…ほんとにアイドルみたい。用意していたんであろうプレゼントを持って待っている彼女が、なんだか可愛かった。

「あ、きた!」

お目当ての部員が来たようで、彼女は駆け寄っていく。
その後ろから、見慣れた赤髪が見えた。

「あ……」


その声が聞こえたのか否か。丸井くんが私に気付いたようで、こちらに歩いてくる。

「どうしたんだ?」
「あ、友達に引っ張られて…」
「なるほどね。」
「お、お疲れ様。」
「さーんきゅ。どうだった?ちゃんと見てたか?」
「う、うん。」

私が頷いたことに満足したように、丸井くんが笑う。
その笑顔が、すごく眩しかった。

「あ、あの」
「んー?」
「さっきの話、なんだけど…」
「さっき?」
「その…目当てが、どうとか…」
「あーそれね。」

ちゃんと、伝えようと思った。恥ずかしいし、少し声が震えるけど、ちゃんと。ちゃんと伝えなくちゃって、そう思ったのだ。

「あの…私、丸井くんのこと、見に行ってるんだよ…?」
「…え」

少し驚いたように、丸井くんは大きな目をぱちぱちと瞬きさせていた。そして少し照れたように頭をかく丸井くん。段々と恥ずかしくなってきて少し俯いていると、何故か丸井くんとの距離が縮まった。驚いて顔をあげれば、真剣そうな顔の丸井くんがいて、頭がフリーズした。

「そんなこと言われっと、すげー期待するぜ?」
「…き、たい…?」
「俺のこと、見に来てくれてんだろぃ?」
「う、うん…」
「それって、俺のこと、少しでも好きってこと、だよな?」
「え…っ」

ふわりと、ぬくもりに包まれる。
丸井くんに、抱きしめられていた。
まばらだとしても人がいる校門で、何故か私は丸井くんに抱きしめられている。心臓が爆発しそうなほどに鳴っているし、手に汗が滲んでくる。どうしよう。

「ま、るい…くん…?」
「俺さ、ずっと好きだったんだけど。」
「え…?」
「だから、苗字のこと。去年から好きだったんだって。」
「…え、えええ?」
「そんなに驚くかよ。」
「だ、だって、そんなに話したことなかった…よね…?」
「あー…まぁそうかも。」
「ほ、本当の話…?」
「ここまでして嘘つくような人間に見える?」
「そんなこと、ないけど…」

抱きしめられた腕から少しだけ解放されると、至近距離で丸井くんに見つめられる。

「本気で、お前のこと、好きなんだけど。」

そう言った丸井くんの表情は、"初めて見た丸井くん"だった。
真剣で、だけど少し切なそうで、その表情がやたら色っぽくて私の頭は大パニックだ。

「わ、私、も…」
「…うん…なに…?」

消え入りそうなほど小さくて震える声に、丸井くんは言葉を促すように答える。

「私、も…この前、丸井くんのテニス、見てから…その…えっと…」

上手く言葉が出てこない。至近距離で見つめられたままだし凄まじい羞恥心で頭が回らない。もうここまで言えば絶対にわかるはずなのに、丸井くんはずっと私を見つめている。

「ちゃんと言わねーと、キスすんぞ。」
「……え、ええ?!」

そう言って額をこつんとくっつけられ、更に距離が縮まる。本当にキスされるんじゃないかってくらいの距離。そ、外なのに、人いるのに、って、そういう問題でもなくて。

「す、すき…丸井くんのことが、大好きで…!」

言い終わる前に塞がれた唇。言葉を呑み込まれるかのように何度も深く重なる唇にただ翻弄される。
唇が離れると、丸井くんにもう一度強く抱きしめられた。

「ちゃ、ちゃんと言ったのに…」
「あんなこと言われて、しないで済むわけないだろぃ?」
「う、嘘つきだ…!」
「しねぇなんて一言も言ってねぇけど。
それとも、嫌だったか…?」

そんな言い方ズルい。私は丸井くんの肩に顔を埋めながら顔を横に振った。


「貴様らいつまでやっている!!こんな所で、破廉恥な…!!!」

突然の怒声に驚きぱっと離れて振り返ると、たくさんの人。
テニス部御一行様が勢揃いしている。
一部始終見られていたんだと気付き、恥ずかしさのあまり泣きそうになった。

「ちぇ。まぁなんにせよ、両想いっつーことで。」

丸井くんに肩を抱かれる。
顔を上げると、丸井くんが眩しいほどの笑顔で、笑った。



私の知らないたくさんの君に



何度も恋をする。





fin.



5万打&8周年企画



back