「ねぇ名前チャン、」
「なんですか?」
「こっち来て。」
「………はい。」

にこにこと、いつもの何を考えているかわからないような笑みを浮かべてこちらを見ている白蘭さん。
どうせ断ったら酷い目に合うのは分かりきっている。
だから渋々白蘭さんの元へ行くと、引き寄せられ、椅子に座っている白蘭さんの膝の上に座る体勢になってしまった。距離が近い。

「あの…なんのご用でしょうか…」
「んー?名前チャンに触れたかっただけだよ?」

そう言った白蘭さんに引き寄せられ、あっという間にキスをされる。深くなっていくキスに、どんどん息が苦しくなって、押し返すと少しだけ離れた白蘭さんが、またにやりと笑った。

「ねぇ名前チャン」
「今度はなんですか…」
「僕のこと、裏切らないよね?」
「え…?」

内心でドクリと心臓がなる。出来るだけ悟られないようにと平常心を保っているが、この人の前ではそんなものはないに等しいかもしれない。

「僕から離れて、元の場所に帰るなんて、言わないよね?」

いつものような笑顔ではない。目が笑っていない。
この人は最初から気付いていたんだ。
私が潜り込んでいたスパイだということに。

体がふっと浮いた後、背中に硬い感触。風景ががらりと変わった。
視界に映るのは真っ白な壁と、笑っている白蘭さん。

「どうして、って顔、してるよ?気付いてないと思ってた?」
「………別に。」
「素直じゃないなぁ。可愛いけどね。」

また触れた唇が徐々に下へと下がっていく。
抵抗することも出来ずにされるがままでいる私。
肩下に鈍い痛みが走る。
まるで自分の所有物だとでもいうように、印をつけられたのだ。

「……私を、殺さないんですか?」
「殺して欲しい?」
「………。」
「ねぇ、僕は名前チャンを愛してるよ。」
「……っ、なん…」
「だから、殺してなんてあげないよ。
君は、僕のモノだからね。
僕を裏切って逃げるっていうなら、殺しちゃうかもしれないけど…
そんなことできるはずがない。
君も、僕のことを愛してるでしょう?」
「……っ……!」

ドクンと心臓が音を立て、体中に熱が広がる。
わかっていた。ただ、受け入れないようにしていただけ。
敵である彼に、淡い恋心を抱いてしまっていた、なんて。

全てを見透かしたような瞳が私を捕らえる。
彼の元を離れることなんて、とうの昔に出来なくなっていたんだ。




アネモネの恋



陥れるために近付いた。けど。

囚われ、陥れられていたのは、

私の方。





fin.