「お姉さんの声、すっげー綺麗」
お客様にそんなことを言われたのは初めてだ。


私は舞台役者になるため、高校を卒業して1人暮らしを始めた。そしてすぐに大好きな劇団の所属オーディションを受け見事所属を果たした。そこまでは良かった。
劇団に入ったからといってすぐに役が貰えるわけでもなく、ただひたすら稽古してバイトする毎日をおくっていた。
今日は土曜日。いつものように朝6時からコンビニでバイトして、その後12時からファミレスでバイト。でも、赤髪の少年に話しかけられたのはそれが初めてだった。


私は状況を把握しきれずハンドスキャナーを持ったまま少年の顔を見ていた。
この制服って…立海大の中等部、かな?私立のいいとこの坊ちゃんがナンパ?新手の変態?何にせよ怖い。

「おねーさん、レジ混んでンだけど」
「へ?あ…も、申し訳ございませんでした!」
赤髪の少年の言葉で我に返り、少年の後ろに2人並んでいるのが目に入った。急いでハンドスキャナーでバーコードを読み取る。
「98円が1点、115円が1点、合計2点で213円です」
「んー…はい。んでさ、お姉さんなんでそんなに綺麗な声してんの?」
「250円お預かり致します。さぁ、何ででしょうね。37円お返しと、レシートでございます」
「あ、レシートいらねィ。ありがとー」
「ありがとうございました。お待たせしました、お次のお客様どうぞー」
次のお客様のレジをしながら自動ドアを抜け外に出る赤髪の少年の後ろ姿を横目で追う。
あの子うちのコンビニでよくガム買っていってくれる子だよね…?まぁ、そんなことどうでもいいや。後もう少しでコンビニバイトの退勤時間だ。次のファミレスバイトまでに何を食べようかと考えながら、残りのお客様のレジを終えた。


「あー声が綺麗なお姉さんじゃん。このファミレスでも働いてんの?」
「今朝の立海大の子…。何名様ですか?」
赤髪の少年は「4人!」と言いながら指を4本立てる。こら、ガムはペッしてからきなさい。
禁煙席に案内している間、彼の名前を知った。教えられた、の表現の方が正しいかもしれない。
メニューはすでに決まっていたようで、席に着くなりドリンクバーを4人分、それと丸井君はチョコレートパフェを頼んだ。
「俺のチョコレートパフェ、丹精込めて作ってくれよィ。苗字さん」
赤髪の少年改め、丸井君は手をヒラヒラと私に向かって振る。
私は営業用の笑顔と言葉でそれを返し彼らのテーブルを離れた。
イチゴシロップと称してタバスコをぶち込んでやろうかな。とか思ってないよ、多分ね。

マニュアル通り作り終えたチョコレートパフェを丸井君の前まで持っていく。その時突然手首を掴まれ「ありがと、苗字さん!ところで苗字さん上がり何時?」と、言ってくるもんだからその場で固まってしまった。
掴まれた手を振り払えず動けないでいると、丸井君の隣に座っていたスキンヘッドの男の子が丸井君の頭を叩いた。
「おいブン太、いい加減にしろよ!お姉さん困ってるだろ!!」
彼は少し怒った口調で丸井君を注意すると、丸井君は素直に私の手を解放する。
やや困った表情でスキン君は頭を下げ、そして丸井君の頭を押さえつけて無理矢理頭を下げさせた 。
「少し驚いただけで気にしてないですよ。ごゆっくり」
私は軽く頭を下げてテーブルを離れてバックヤードへ入る。
突然のことに驚いたからかな、通常よりも脈が早い気がする。顔もなんだか熱い、かも。
今日は寄り道せずにまっすぐ家に帰って、薬を飲んで寝よう。


夕飯時の時間帯は慌ただしかったがなんとかこなし、他のスタッフには申し訳ないけれど早めに上がらせてもらった。
更衣室で私服に着替え店を出る。と、駐車場にある車止めブロックに座っている赤髪が見えた。
その赤髪は立ち上がり私の方へと駆け寄ってくる。私の知り合いに赤髪を持つ人なんて1人しかいない。
「苗字さん!へへっ、お疲れ様でっす」
「ちょっと…中学生はこんな時間まで外にいちゃダメなのよ?」
目の前にはキラキラ輝く笑顔を私に向ける丸井ブン太がいる。
「苗字さんと一緒に帰りたかったから待ってたんだよィ」
「誰も待っててなんて言ってないんだけど」
あしらないながら自宅への道を歩く。
彼は「冷てェなー」と言いながらも私の後をついてくる。

「なー、苗字さんは何でバイト掛け持ちしてんの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「気になったから」
「別に気にするようなことでもないとおもうけど…」
「気になるんだよィ」
私が全て言い切る前に。私の言葉を遮るように、丸井君は言葉を続ける。

「苗字さんのこと、すっげー気になる。もっと知りたいし、俺のことも知ってほしい。だから、苗字さんの色んなこと教えて」
後ろをついて歩いていたはずの丸井君はいつの間にか私の横を歩いていた。

「私たち言葉を交わしたのは今日が初めてなんだよ?」
「苗字さんのこと見てた。声をかけた今日よりも、ずっと前から」
驚いた。まさか見られていたなんて。
丸井君は伏し目がちに私を見ている。反応を伺っているようだ。
「見られてるなんて思ってなかったからビックリしたよ。もっと早く声をかけてくれたら良かったのに」
私は当たり障りのない言葉を丸井君に返す。でもその返しが気に食わないのか顔を曇らせてしまった。
いつまでたっても機嫌が良くならないので名前を呼んでみるも反応はない。私のせいで生まれてしまったけど、こんな沈黙の中を帰るなんて耐えきれない。
早く家に着け。と、心で念じた時、丸井君がゆっくり喋りだした。

「気になってるから、話しかけられなかった。でも…今日で苗字さんが俺のレジしてくれたの10回目で…って知ってた?」
私が首を横に振ると丸井君は「知らねェか」と少し残念そうな顔で笑った。
「まぁ、10回もレジしてくれてんだから、顔ぐらい覚えてくれてるかなーって思ってたんだよィ。んで、声かけたの」
そんなに丸井君のレジしてたかな。でも本人がそう言ってるならそうなんだろう。
チラッと見ると耳まで赤くしている彼が目に入ってきた。かと思うと、彼と視線が絡んだ。
瞬間、私の胸は早鐘のように激しく鼓動を打ち始めた。

今わかった。手首を掴まれて脈が早くなったことも、顔が熱くなったことも。これは薬じゃどうにもならない感情なのだと。
意識しだすと頬が心持ち暖かくなってきた気がした。私の顔は明らかに赤くなっているだろう。
すると丸井君はするりと私の手をとり優しく握った。
まるで指先を通して気持ちを伝えているみたいだった。
それに応えるように、私も優しく彼の手を握り返した。





(んで、なんで苗字さんは声が綺麗なの?)
(目指してるから…役者)
(すっげー!女優さん!!)
(まだ女優じゃないんだけど…)




fin.










相互記念できなか様よりいただきました!

まさかの!まさかの!
自分自身に近いヒロイン設定で焦る焦るww
あああああああもうほんと、死んだ。死んだよ。
なんなのなんなのブン太かわいいよつらいよ好きよ
ブン太やばいよありがとうきなか大好きよ!!

相互もブン太もありがとうございました!



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