審神者になって少し経った頃。
だいぶ刀剣男士も増えて来て、なんとか出陣やら遠征やらの勝手を覚えて来た。

そんな毎日を本丸で過ごして居た私は少し前から気になって居たことがある。


それは…


「えっ、小指に紐が絡む…ですか?」

『うん。刀剣男士達には見えてないみたいでね。左手の小指に絡みついて来て、何回か切ってみたり解いたりしてみたんだけど気が付いたら絡まってて…こんのすけならわかるかと思って…』


そう、この指に絡みつく糸。それが何なのか、皆目検討が付かない。気が付いたら絡まっているものだから妙に気になってしまっていた。
そこで、政府の式神でもある管狐のこんのすけに聞いてみた次第だ。


「…私にも見えてはおりませんので、ハッキリとは言えませんが。」

『言えませんが?』

「小指は昔から契りを交わしたり、心臓と繋がっているなど色々と言われております。…審神者様の時代でも運命の赤い糸など聞いた事がありませんか?」

『お、それならあるよ』

「まさしくそれでしょう。この糸は貴女様の事を恋慕しておられる刀剣男士の方がおられる…という事でしょうね。」



その言葉に私は心底驚いた。
刀剣男士程の見目麗しい神様に恋慕されている?冗談はよせ歌舞伎役者みたいな顔しやがって狐野郎。
絶世の美女でもないし、特に戦上手でもなければ、普通に暴言も吐くし、所作が美しい訳でもない。


『それって主を失いたくないっていう刀としての気持ちじゃないの?』

「それはないでしょうね。そこ迄形がハッキリとして居るのならその刀剣も自覚があるのでしょう。」


こうも断言するという事は其処は確定なのだろうなぁ。
質問に答えてくれたこんのすけに礼を伝えて、私はいつも通りの生活に戻ることにした。




…けどやっぱり、相手が気になってしまうもので。
こんのすけには止められていたが、そっとその糸を辿ってみた。
今思えば何故切ったり解いたりはしていたのにそれを辿ってみようと思わなかったのか。

長い糸を追い掛けながら本丸内を行ったり来たり。
この糸の先に有るのは果たして…

なんて壮大な妄想とも言ってもいい事を考えながらボーッと歩いていた時だった。


「わっ!!!!」

『うわぁあぁあぁ!!!?』

「ははっ!どうだ?驚いたか?いやぁ、君はいつもいい反応をしてくれる」


ドクドクと上がる心拍を宥めながら目の前に突然現れた真っ白を睨む。
鶴丸国永…山城の刀工である五条国永の作
その人世、いや刃生は長いものだ。
審神者界隈ではびっくりジジイだの驚きマンだの色々と言われて居るように人を驚かせたり、驚きを求めることに関しては殊更アクティブになる。

彼を顕現した時は余りの美しさと儚さにそれはそれは驚いたものだ。…付け加えるならば、不覚にも好みで、トキめいたのは私のみぞ知る事だ。


「ん?どうした君、ボーッとして」

『うわぁ!ち、近いから!離れ…て………えっ?』


キョトンとして顔を覗き込んできた鶴丸から慌てて後退るときにはた、と気が付いてしまった。
鶴丸の小指のそれ…


「どうかしたのか?」

『つ、鶴丸のそれ…』


鶴丸の小指に絡まっている糸を辿ると、見事に私の小指に辿り着いた。
え、え!?


「ん?ああ…なんだやっと気が付いたのか?まぁ君はいつも切ったり解いたりしていたからな。」


アレには流石の俺も驚いたぜ!とケラケラ笑う鶴丸をただ呆然と眺めることしか出来なくて。
どうしたらいいのか分からなくなった。


「なぁ、君。この糸の意味分かっているんだろう?」


普通に笑っていた顔から急にニヤリとした笑いに変わったかと思うと一瞬の間に抱き締められた。
その頃には私の思考回路はもはやパンク寸前で。
鶴丸いい匂いだなーとか、襟足綺麗だなーとか、鎖が当たって少しくすぐったいなーとか、現実逃避を始めていた。


「主、俺は刀としても主の事を好いている。だがなぁ、それ以上に人の身と心を貰った”男”として君の事がどうしようもなく欲しいと思ってしまったんだ。」

『…鶴丸…?』

「これが人の子が言う愛とやらなんだな。君に恋慕してからというもの、嬉しくなったり落ち込んだり…それから嫉妬を覚えてなぁ。あれはどうにも難儀な感情だ。」



だが、その全てが君を思う俺の心なのだと思うと愛おしくてたまらなくなるんだ。
そう零した鶴丸の声はとても真剣で誠実で。
ぎゅうっと腕に力が込められる事でそれが余計に伝わるものだから、私も誠心誠意返さないと。
現実逃避ばかりしていたら失礼だしね。


『鶴丸、私は美人でもないし女子力高い訳でもないし、お淑やかでも大和撫子でもないよ?』

「はは、そんな事関係無いさ。今の君だから俺は好きになったんだ。それに君は俺から見れば一等に愛らしいがな。」

『…私は人間で、鶴丸は神様だよ?私は一人老いていくんだよ?』

「ああ。それでもいい。たとえ君がおばあさんになろうとも俺はずっと君だけを愛そう。それに俺とて神の端くれだからな。君を老いさせない事もできるし、俺の姿を少しいじる事も出来る。共に老いて俺を君の墓に入れてくれ。」

『また鶴丸欲しさに暴かれるかもしれないよ?』

「君の時代に戦いは無いんだろう?刀を欲しがる物好きは居ないさ。…で、君はどうなんだ?俺を好いてくれては居ないのか?」

『…その聞き方はズルいよね』

「ああ、ちゃんと言ってくれないと分からんからなぁ?」

『鶴丸、―――。』



ぽとりとそれを零したら、鶴丸は顔をふにゃっと綻ばせて、先程以上に抱きついてきた。
その背中にはハラハラと誉桜が止まる事なく溢れて居て、私の心にもじんわりと暖かいものが漂って居た。


「ああ、こんなに嬉しいことは無いな。君の80年程の残りの人生きっと驚きに溢れさせよう。」

『はは、大袈裟だなぁ。驚きは程々にしないと寿命が縮むよ』

「そうなのか!?」


こりゃ驚いた!と言わんばかりに目を見開いたかと思うとオロオロし始めてこれまででどれくらい寿命が縮んだんだ!?と泣きそうになり始めた。
ああ、コロコロとよく表情が変わる。

本当飽きないし、可愛いし、カッコイイし……


鶴丸、好きよ







END









K先生より突然送られてきましたよ!!ええ!!!
最近刀剣沼にずるずる引っ張られつつあります!!
沼怖いよ!!!鶴かわいい!!はぁかわいい!!

Kちゃんありがとうございました!!!



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