『くあっ…んー…眠』



んーっ、と伸びをして心地よい布団に再び蹲る…出たくないなぁ…ああでも今日も仕事行かないといけないんだよね…やだなぁ。
悶々と現実と向き合わなければならない事にウンザリしていると追い討ちをかけるように窓に張り付いた蝉がミーンミーン!!と自己主張を始めた。
ウルセェ!!!!と思わず枕をぶん投げた私は悪くないはず。


顔を洗ったりして、少しだけ目を覚ました私はノロノロと着替えたりしながら今日見た夢を思い出して居た。

いやぁ、幸せな夢だった。最近ハマっているゲームのキャラが出てきて色々話をして居た。最高かよ。
次元超えたいわ〜なんてニヤニヤして居たら既に10分以上経っていて、ちょっと時間がヤバい!
急いで用意した私はバタバタと慌しく家を出る事になった。





そういう日に限って一日中付いてないというね。
転けるわ、ストッキングは伝線するわ、仕事でミスるわ、怒られるわでもうヘトヘトでござるよ。

はぁ〜〜と深い溜息を零し、何とか足を動かしていたのだが、考え事をしていたせいかふと気が付いた時には見知らぬ所に立っていた。
まじかよ、最後の最後で迷子になるのかよ、やめろよ。
こんな時は地図だ!と携帯のアプリを開こうとすればまさかの圏外で現在地がわからないとな?
おいおい、嘘だろ?ていうか今時電波来ないとかある?

人に尋ねようにも周りには人っ子ひとりいないでは無いか。
…あんなに煩わしく思っていた蝉の声も聞こえない。
やだ怖いじゃないの。ホラー耐性とかないんですが…

流石にこれはおかしいのでは?と思い始めた所で目の前から歩いて来る人がいた。
ラッキー!と話しかけようとした所で、少し様子がおかしい事に気が付いた。

そんなに距離があるわけでも無いのに、顔がわからない。
フラフラとした足取りだがソレは確実に私へと近づいて来ていて、違和感に気が付いた瞬間に背中がゾワリと震える。
人間の本能というのか何なのか、アレは近づくと不味い奴だ。

そう思った私は必死に来た道を駆け戻る。
ハァハァ、と息を切らしながらちらっと背後を見ると先程と何ら変わらない位置で歩いて来ているソレに恐怖が膨れ上がる。
ただでさえフラフラと覚束ない足取りなのに、全力疾走してる私と距離が離れないとか意味がわからない。

どうしよう、怖い…怖い怖い怖い!
誰か、誰か助けて…本当まじ怖い…!!!

チラチラと背後を見ながら走る私もそろそろ体力が限界で。
少しだけ緩んだスピードに背後の何かが笑った様な気がして、全身が粟立ち血の気が引く。


うわ、うわうわうわ、これなんかやばい!!

思わず振り向こうとした時、不意に声が聞こえて来た。




「振り向くな!!!!少し先の右手に階段がある!そこを駆け上がれ!!!」




声が誰かなんて分かるほど余裕は無かったけれど、何処か聞き覚えのあるその声を天の助けとばかりに信じた私は最後の力を振り絞って言われた通りに駆け抜けた。



階段の先にあったのは小さな神社で、鳥居を潜り抜けた所で空気が変わったのを感じて、体力の限界と安堵からなのか足の力が抜けてドサっと座り込んだ。
ハァハァ、と肩で息をしながら何だったんだ?と振り返ろうとしたら急にパッと視界が暗くなった。



『え、な、なに!?』

「全く。キミというやつは…振り向くなと言っただろう?」


先程と同じ声が聞こえて、少しだけ落ち着いた私は視界を覆うものが人の手だという事に気が付いた。


「もう!鶴丸ばっかりズルイんだけど!」

「ははっ、すまんすまん。」


ん?まって、落ち着いて来たけど違う意味で混乱して来たぞ?鶴丸?鶴丸って言った?うそ、でも、言われてみればこえは、え?


『つる、まる…くになが、?』


ポトリと零した言葉に、クスリと笑みが零され視界が急に明るくなった。
突然の変化に眩む目をパチパチと動かすと目の前には夢にまで見たゲームの中の神様が微笑んでいた。


「ああ、そうだ。キミの鶴丸国永だ。どうだ驚いたか?」

『え?は、…え?』


いやん、超美形。…いやいや、そうじゃなくてだね。
は?なに?私これ夢かな?


『ゆめ…?』

「む、夢じゃあ無いぞ。まぁ俺たちも主に会えるなんて思って居なかったけどな!」

『うわっ、』


ガバッ!と抱きつかれ、反射的に抱き留めたが、その手に伝わる体温や布の感触、鎖が鎖骨に当たり少し痛い感じが余りにも鮮明で頭がくらくらする。
混乱していると鶴丸の背後から誰かが鶴丸に拳骨を落とした。


「痛いっ!!」

「ちょっと!俺だって主に可愛がって欲しいんだから抜け駆けしないでよね!」

『え、あ、きよ…みつ?』

「うわ、ヤバい!俺主に名前呼んでもらっちゃった!えへへ、そうだよ。主の初期刀の加州清光!」

『ウチのきよみちゅ可愛い…むり…世界一可愛い…』


とりあえずどうなってんのか訳がわからないので説明を乞うと、清光が詳しく話してくれた。


「あのね、俺たちの本丸には指示だけ来て審神者って存在は来た事ないんだよね。もちろん主もきた覚えないでしょ?」

『うん』

「けど確かに存在してたんだ。こんのすけからは世界が違うから来れないって言われてたから諦めてたんだけど、主が変なのに憑かれちゃって一時的に主の住んでる所とは違う隠り世みたいな所に入り込んじゃったんだよね。それで、危険を察知した俺たちがみんなで神域を作って無理矢理繋げた訳。」

『へ、へぇ…』


オカルト耐性無いって言ったな。
私のSAN値はピンチだ。白目むきそう。
なんだよ憑かれてって!!こえええよ!!!
てかまって、それって、どうなの、


『え、私今神隠しされてる?』

「そうだねぇ。」

「まぁでも変なのに捕まるより俺たちの所に来る方が良いだろう?」

『そ、それはまぁ、そうだけど…』


なんて言っていると、鳥居の向こうからぞろぞろと刀剣達が出てきて…まって、眼福だけど!!イケメンしかいないけど!!やだ!!キャパオーバーだよ!!


「あ、主さま!無事でなによりです!」

『ごこちゃん…!!本物も可愛い…!!』

「やぁ、主。ふふ、悪い鬼はスパッと斬っちゃったからね。」

「流石は兄者だな!主も無事で良かった」

『髭切、膝丸…』

「ふむ、相見えるのは初めてだが存外主は可愛らしい女子だったのだなぁ。」

「まぁゴリゴリの殿方よりは女子の方がフワフワでよろしいのでは無いですかな?」

「ふむ、それもそうだな。」

「「はっはっはっはっ、」」

『うわっ、三日月に一期が毒されてる…!』

「主、無事で良かった。」

「全く、心配しましたよー!」

『わぁああ、ばみたそぉおおお!!ずおも心配ありがとう…!』


その後も皆と話して、一通り名前を呼んだ所で鶴丸にポンポンと頭をなでられた。


「なにもこんな日にこんな目に合わなくても良いのになぁ。」

『こんな日?』

「え?今日主の誕生日なんでしょ?おめでとう!」

「お、おめでとうございます!主さま!」


口々におめでとう!と言葉を貰って、ハッ!と気が付いた。そうだ、今日私の誕生日だった。


「…キミ、今の今まで忘れてたのか?」

『あ、あははは!いやぁ、すっかり忘れてた…てか皆はなんで知ってるの?』

「はは、大将を助けようと画策して居た時になぁ、こんのすけが言ってたんだ”あの方もご自身の誕生日に死にかけ無くても良いのに!”ってな。」

『ぶはっ!薬研こんのすけのモノマネ似てないね!…それにしてもゲームに誕生日入力なんてなかったのにこんのすけがなんで知ってるの…怖すぎかよ…』


こんのすけの闇が深い事を再確認した私はこれからのことが気になった。


『ね、私これからどうなるの?』

「主は俺たちの本丸で一緒に生活するんだよっ!……て本当は言いたい所なんだけどね」

『清光…?』


苦々しく微笑む清光に首を傾げていると、皆複雑そうな顔をしていて。
その中でも鶴丸は酷く寂しそうに見えた。


「…僕が説明するよ。」

『石切丸…』

「主の世界と僕たちの世界はそもそもの軸が違うんだ。今は主が元いた世界と僕達がいた世界と両方の狭間に居るからなんとか存在して居るんだけれど、何方か片方に違う世界の物を入れてしまうと消滅してしまうんだ。神だろうと人だろうとね。此処も全員で作った神域とはいえ、そう長くはもたない。…もう分かるね?」


…そっか。折角会えたけどみんなと一緒には居られないんだな…寂しいけど戻らなきゃね。


『ん。みんなが助けてくれて嬉しかったよ。最低の1日だったのに最高の誕生日になっちゃった!ありがとうね。出陣とか内番とか宜しくね。』

「…あ、あるじぃ…」

「っ、な、泣くなよ清光!!ブスがブスになるぞ!」

「っ、るっさいなぁ!お前も、泣いてんじゃん!」


清光と安定につられたのか、みんなぐすぐすと泣き始め、私も目がウルウルとしてきた。


「主よ、そろそろ時間が無い。機会があればまた会える、その時まで俺たちを忘れるで無いぞ」

「さっ、はやくいってください!あんないはアレがしてくれますよ!」

「ぬしさまが迷われぬよう、目印に狐火を灯しております故安心してくだされ。」

「ガハハハ!達者でな主よ!」

『うん、ありがとう!三日月もいまつるちゃんも、小狐丸も岩融もあんまり無茶しないようにね!』



皆とお別れして鳥居の前まで行くとそこには鶴丸が待って居た。


「…いくか。此処から先は振り返るなよ。」

『う、うん。』


逸れないように…と出された手を恐る恐る握り返す。
フワッと笑って鶴丸と私は歩き始めた。

真っ暗な道の左右に小さな光が点々と燃えて居る。
小狐丸の言っていた狐火とやらか。なるほどこれは迷いそうだ。


「なぁ、主」

『ん?』

「俺はキミに会うずっと前からキミを慕っていた…と言ったら嘘だと思うか?」

『…如何だろうね。でも…』

「ん?」

『私は鶴丸がうちの本丸に来た時からずっと好きだよ。清光とかは初期刀だから思い入れは強いけど…やっぱり特別なんだよね。…一目惚れみたいなものだもの。』

「…そうか。」



そのままなんと無く気まずい沈黙が続いていたが、そろそろ道の終わりが見えて来た。
光が溢れるそこを抜ければ恐らく二度と会えはしないんだろうな…と何処かで思った。


隣で鶴丸が立ち止まって、私の腕はクンッとつんのめる。
そのまま鶴丸は背後からギュッと抱きしめて来た。



「キミが好きだ。ずっとずっと恋焦がれ、やっと会えた今日、もっと好きになった。世界の隔たりがこんなにも憎らしい。」

『…っ、』

「…はは、すまない。困らせる気は無いんだ。君には生きていて欲しいからな。…こんなものしか無いがこれをやろう。」


チャリと音を立てて鶴丸の首についていたチョーカーが私の首に付けられた。


『これ、』

「まぁ俺からの誕生日の贈り物だと思ってくれ。御守りがわりにはなるさ。…また会えたらいいな。」

『…ありがとう。鶴丸。』

「ああ。さあ、戻りな。振り向くんじゃ無いぞ。」

『うん。』


トン、と背中を押され後一歩というところで立ち止まる。


『鶴丸、またね。』















強烈な光に包まれギュッと目を閉じていた私がフッ、と目を開けるとそこは玄関の前だった。
おお、凄い!と思いつつもなんだか白昼夢でも見ていた気分になる。
鍵を開けて靴を脱いで、ふと鏡を見ると私の首には金色のチョーカーが揺れていて目を見開いた。


夢、じゃなかった…?


急いでゲームを開くと、驚くことに全員桜が舞い近侍の鶴丸の立ち絵からチョーカーが無くなっていた。


夢の様な1日だったその日はずっと忘れられない誕生日として、後の私の大切な思い出となるのだが。
この時だけは嬉しさと虚しさで苦しくてわんわんと子供の様に泣いてしまったのだった。















数十年後…


アレからというもの肌身離さずチョーカーを持ち歩いていた私はとても幸せな人生を送ってきた。
そして恐らく今日私は死ぬのだろうなぁ…

ふふ、とても穏やかな気分だ。

シワシワになった手の上にチャリ、と音を立ててチョーカーを置いた。
私の大切な大切な宝物。


『今まで守ってくれてありがとうねぇ…』

「…当然だろう?なんたって俺の主なんだからなぁ」

『まぁ!鶴丸が居るわ!』

「よっ!待たせたな。迎えにきたぜ俺の愛しい人。」

『ふふ、もうおばあちゃんになっちゃった』

「関係ないさ。キミは今も綺麗だぜ?」

『あら、熱烈ね。』



クスリと笑って、私は眠りについた。







END












K先生より那智の誕生日祝いでいただきました…!
ありがたや…!!!
はぁんお鶴…好き…てか清光かわいすぎて死にそう世界一かわいい清光…
てか皆大好きよ…うっう…
ちょっぴりホラーできゅんとする素敵なプレゼント、ありがとうございました!!



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