「……俺、負けないから」
お弁当対決が決まった翌日のお昼休み。
今日はいつものように教室でエビちゃんと食べる日。
じゃんけんで負けてしまった私は、自動販売機に飲み物を買いに来ていた。


「エビちゃんがお茶で……私も普通のお茶でいっかー。いや、盆ジュースも捨てがたいな……」


迷った末、やはり和食な弁当に合うのは日本茶だろうと思い、硬貨を入れてお茶2つ購入。
ちなみに今日の瀬多くんお手製お弁当は、鶏の竜田揚げ、ごぼうとニンジンのきんぴら等……いつもと同じく栄養バランスの良い内容となっている。
……本当に毎日作ってきてくれている月森くんには頭が上がらない……今から戻って食べるのが楽しみです。はい。


「あれ? 藤田さん?」


しゃがんで下の取り出し口からペットボトルを取ろうとしていると、ふと頭の上から私を呼ぶ声。
上を見ると一条くんがこちらを見下ろしていた。


「やあ一条くん。飲み物買いに?」
「ああ。じゃんけんで負けちゃって…」


ペットボトルを手に、喋りながら立ち上がる。聞かれた一条くんは頭をかきながら苦笑いを浮かべていて。やはりどこも考えることは同じなようだ。


「あはは、私と同じだ。私もエビちゃんにじゃんけんで負けちゃってさー」
「そ、そうなんだ!」


何故か嬉しそうな一条くん。じゃんけんに負けたのになんで嬉しそうなんだろう……?
場所を開けるべく横に移動すると、彼は硬貨を入れ、私と同じお茶を3つ購入。


「……藤田さんってさ」
「ん?」
「2組の奴らと仲良いよね」


こちらを見ずに、自販機を見つめる彼にそう問われる。
何故急にそんな事を聞くのだろうと不思議に思ったが、素直に答える


「うん、仲良いよ。たまにみんなでお昼食べたりするし。あとテレ…じゃなくて、放課後みんなで集まったりするしね」


うっかり、テレビの世界のことを話してしまいそうになった……危ない危ない。


「…瀬多、とは?」
「瀬多くん? まあ、仲は良いんじゃないかなあ…? たまーにそれ女の子にする態度!?って時もあるけど、なんだかんだ私のこと心配してくれてるし、頼りになるし…」


思い出すのは、瀬多くんがお弁当を作ってきてくれるキッカケになった日や、風邪で寝込んでる時に家に看病しに来てくれた日など…
なんだかこの数週間、瀬多くんと接する日が多かった気がする。


「あ……あのさ! 藤田さん!!」
「え、は、はい?」


凄い勢いでこちらに振り向く一条くんに思わず一歩後ずさってしまう。
こちらをじっと見つめる一条くんは、何かを決意したような、そんな表情だった。


「あの……その、迷惑じゃなかったら、でいいんだけど…」
「う、うん」
「今度……俺の作った弁当も食べてみてもらってもいいですか…!」
「…え?」


真剣な眼差しで見つめられるもんだから、一体何を言われるのかと身構えていたら。お弁当……?


「瀬多には遠く及ばないかもしれないけど、俺頑張って作るから……駄目、かな?」
「えっ、いや駄目じゃないよ!全然!」
「本当!? よっしゃ…!!」


ガッツポーズをして一条くんは喜んだ。いやいや、断るわけがない!むしろこっちがガッツポーズしたいくらい!
なんだろう、最近いろんな人の作ったお弁当を食べる機会が着実に増えてきてる…やっぱり私にもモテ期到来なのかな!?お弁当の!


「そっか、一条くんって料理できるんだー」
「うん。俺一人暮らし中だから、たまに自分で弁当作ってきてるんだ」
「そうなんだ! 凄いねー!」


なんと…瀬多くんに、一条くんまで……
身近な所に2人も弁当男子がいた事に驚き、そして同時に一条くんと同じく一人暮らしなのに、まともなお弁当どころかまともな料理をあまり作ったことがない自分に劣等感が募る。女子としてそれで良いのか自分…!
……今度また瀬多くんに料理教わろうかな。


「…あ、でもなんで私に?」
「え、えっ…とそれは…」


私の一言で一瞬ビシリと表情が固まる一条くん。


「そ、その……ちょっと誰かに食べてもらって、感想…とか、知りたくなってさ」
「……でもそれなら、別に私じゃなくても長瀬くんとか他の適任者が、」


彼なら私より一条くんと仲が良いし、喜んで引き受けてくれそうなのになと、その様子を想像していた私は、急にがしりと肩を掴まれ我に帰る。


「藤田さんじゃなきゃ駄目なんだ!」
「えっ!?」


私じゃなきゃ駄目ってどういう……って顔近い近い!!
私の両肩を掴み、さっきのような真剣な表情で詰め寄られれば、彼の整った顔がすぐ目の前にあって。突然の至近距離に思わず顔に熱が集まるのが分かった。
そんな私を見て今更その事実に気づいたのか、顔を真っ赤にした途端掴んでいた手を離し数歩後ずさる一条くん。


「ご、ごごごごめん!!!」
「い、いや、謝らなくても……」
「と、とにかく!今度作ってくるから!じゃ、じゃあまた!」
「あっ、一条く、……行っちゃった」


こちらを振り返らずにペットボトルを抱え走っていく一条くんを、残された私は呆然と立ち尽くしたまま見送った。



(瀬多視点)

「お待たせッ…!」

お昼休みの屋上。今日は部活仲間である一条と長瀬と俺の3人で昼食を食べに来ていた。
じゃんけんに負けて3人分の飲み物を買いに行っていた一条が、勢いよく屋上の扉を開けて駆け寄って来る。走ってきたのか、肩で息をして顔は少し紅潮している。

「一条遅いぞー」
「悪い悪い」


一条からペットボトルを受け取って、俺が作った竜田揚げをうまいうまいと言いながら頬張る長瀬を横に見、俺も食事を再開する。
今日の弁当のおかずは、一条のリクエストで竜田揚げだ。……今頃、あいつもこれを食べている頃だろうか。

「うま!やっぱお前、料理の才能あるよなー!」
「そうか? ……ありがとう」
「……でも、さ」


嬉しそうに食べていた様子から一転、箸で摘まんだ竜田揚げをしげしげと見たあと、今度は俺を見る一条。


「……俺、負けないから」
「……?」


真剣な様子で、何かを呟く一条のその声は小さく俺の耳には届かなくて。その後、長瀬と談笑したりといつもの一条に戻ったので、その時の俺は特に気にも留めなかった。



(一条くんのお弁当も楽しみだなー)
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君を待つ間、空を見上げた。