青と黄に挟まれて
迷宮から帰ってきた後。私は文化祭で賑わう異世界の八十神高校の校舎の中を、私はぶらぶらと歩いていた。
「はあー…お腹すいたなぁ。何食べよう」
リーダーとサブリーダーの提案で皆それぞれ自由に校内を散策することになり、ちょうど迷宮の探索やシャドウとの戦いで動き回ってお腹が空いていたので、何か食べようかと屋上のフードコートに向かった。
フードコートには食べ物屋の屋台がいっぱい出ていて、歩くだけでもいい匂いが漂ってくる。……空腹時にはもう堪らない。
さて、何を食べようかな。焼きそば、タコ焼き、お好み焼き、アメリカンドッグ……うーん……これだけ食べ物屋が沢山あると迷っちゃう。そういえば、玲ちゃんが食べてたアメリカンドッグ美味しそうだったなぁ。あ、あっちにはクレープやチョコバナナもある…デザートで後で食べようかな。
どれを食べようか迷っていた時、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「何か、食べるの? 僕も一緒に食べてもいいかな」
「あっ、有里くん。うん、いいよ」
振り向くと、後ろにいたのは同じ月光館学園高等部2年で、私達特別課外活動部…通称S.E.E.Sのリーダー、有里湊くんだった。有里くんもお腹すいたのかな?
一緒に屋台を見ながら廊下を歩く。やっぱりどれも美味しそうだ。
「名前、何食べる?」
「うーん、今アメリカンドッグかタコ焼きで迷ってるんだ… 有里くんは、どっち食べたい?」
「僕は、名前の食べたい物が食べたいな」
そう言って優しく微笑む有里くん。……さすが月光館学園のカリスマ王子。こんな風に微笑まれたら女の子はイチコロだ。不覚にも、私もときめいてしまった。
有里くんの笑顔に見とれていると、ふと私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がして周りを見渡すと、文化祭で賑わう生徒達をかき分けて誰かがこちらに駆け寄ってきた。
「名前!」
「あれ、瀬多…くん?」
向こうからやってきたのは、もう1人のリーダー…八十神高校2年で、特別捜査隊のリーダー。瀬多総司くんだ。急いでどうしたんだろう。
「ここにいたのか…探したよ」
「えっ、何か急な用事でもあった?」
「いや、名前と校内一緒に回りたいと思って」
爽やかスマイルでさらりとそう言う瀬多くん。……い、イケメンオーラが笑顔から滲み出てる…!有里くんとはまた違った魅力があって、八高でもさぞモテるんだろうなあ…
今度は瀬多くんの笑顔に見とれていると、隣にいた有里くんが、私と瀬多くんの間に入って何故か私を背に隠すようにした。長い前髪の下から見えた顔は、どこか不機嫌そうだ。
「……悪いけど、名前は今僕と回ってるんだ」
「俺も仲間に入れてくれ。…名前、いいだろ?」
「え、うん。いいよ。みんなで回った方が楽しいよね」
私がそう言うと、瀬多くんは満足そうに微笑みながら頷いた。けれどそんな彼とは対照的に、有里くんはさらに不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
……あ、あれ、この二人ってこんなに仲悪かったっけ…いつも迷宮の探索ではお互い助けあって良きリーダーなのにな…
そうして私と有里くんと瀬多くんの3人で回ることになったのだけど、私を挟んで二人が静かに睨み合っていて、とても居た堪れない雰囲気だ…
「あ、ほ、ほら! 一緒にアメリカンドッグ食べよう!」
なんとかこの状況を打破しようと、ちょうど通りかかったアメリカンドッグ屋さんに寄って、3人分のアメリカンドッグを買う。
近くにあったテーブル席に先に私が座ると、二人は私を挟んで隣に座ってきた。……結局状況変わってない!
3人共無言で黙々とアメリカンドッグを食べていると、ふと視線を感じた。
左隣の瀬多くんが、食べるのを止めてこちらをじっと見つめてくる。
「……瀬多くん、どしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「うん。アメリカンドッグの欠片が付いてる」
「えっ、どこ?」
「ここ」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
瀬多くんの顔が近付いたかと思うと、左の頬に柔らかい感触がして…
え…あ、れ?
「ごちそうさま」
「……え」
唇をぺろりと舐めて、不敵に笑う瀬多くんを見て、やっと何が起こったか分かった。
ぼんっと音が立つくらい顔が火照って、まともに彼の顔が見れない。
い、今のって、やっぱり、き、ききき…!!
「………名前、」
「え、わっ!? あ、有里くん?」
顔が熱くて恥ずかしくて俯いていると、今までずっと無言だった右隣の有里くんに左肩に手を置かれたと思ったら、いきなりぐいっと引き寄せられた。
ただでさえ隣同士で距離が近かったのに、引き寄せられて有里くんにぴったりくっつく形になり、距離がゼロになる。
驚いて彼を見上げると、くっついたことで顔が更に近くにあり、さっきの瀬多くんとのこともあって、また顔が一層熱くなった。
「あ、あの、有里くん、ち、近」
「名前」
「は、ハイ!」
「……名前は、僕達のことどう思ってる?」
「え」
二人に真剣な表情で見つめられて、返答に困る。
どう……と言われましても。
「えっと、仲間であり良き友達だと……私は思ってるよ?」
「………」
「………」
二人は私の答えを聞いた後、数秒間を置いてから深いため息を吐いた。
「……名前は鈍いからなぁ。僕からのアプローチも全然分かってくれないし…」
「……なるほどな、有里の苦労が良く分かった」
「え、え?」
全く話が分からず、二人の顔を交互に見る。
二人だけでなんか納得してるし…!
「……名前、この際もうハッキリ君も分かるように言うけど」
「え、は、はい」
「僕達二人は、君の事恋愛の意味で好きで、付き合いたいと思ってる」
「……………え?」
思いもしなかった事実に、一瞬頭が真っ白になる。
二人が私を…好き?
………え?
えええええ!?
そんな私をそっちのけで、両隣の二人は私を挟んで真剣な表情で見つめ合った。
ふと頬に手が添えられ我に返ると目の前には有里くんの顔が……
か、顔…! 目と鼻の先に…!
「……僕はずっと前から名前のことが好きなんだ。……つい最近出会った君に、名前は渡さない」
「え、ええっ!?」
ずっと前から!?
そんな事全然知らなくて、驚きで目を見開いた。
だって有里くんは、同じクラスで、同じ寮に住むS.E.E.Sの仲間で、友達で…
最初は物静かでクールな印象だったけど、とても優しくて、頼もしくて…
……私は友達だと思ってずっと接してきたけど、彼はずっと友達じゃなくて、異性として見てきたってこと…!?
有里くんからの告白に混乱していると、そっ、と左手に何かが触れた。
手に触れたのは瀬多くんだった。彼は私の手を優しく掴むと、手の甲に恭しくキスを落とす。
「俺は、君達と迷宮で会った時、名前を見て一目惚れしたんだ。確かに君達とはこの前出会ったばっかりだけど、この気持ちは本物だ。…俺だって、譲れない」
手の甲に口づけたまま月森くんはそう話した。彼が喋るたび、唇が動いてくすぐったい。
こちらを見上げる瀬多くんの目は真剣で、本当に好きなんだって、私でも分かった。分かってしまった。
…二人に迫られて、もう私の頬はいつ火が出ても不思議じゃないくらい熱い。
心臓が、さっきからうるさく鳴っていて…… あああもう、この二人は私を殺す気だろうか…!
「名前。僕か瀬多、片方選んでほしい」
「え、選ぶ…!?」
「うん。僕か、」
「俺、」
さあ、どっちを選ぶ?
三角関係のはじまりはじまり
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