苺のしあわせ

「うぃーうぃっしゅあめりくりすます、うぃーうぃっしゅあめりくりすます、あんどはっぴーにゅーいやー♪」
「………ご機嫌ですねアーティさん」
「そりゃあだって今日はクリスマスイブだよ? イブに恋人と一緒に過ごせるなんて幸せじゃないか!」



「…だからってそのイブに恋人に仕事を手伝わせるなんてどうかと思いますけどね!」


そう、今日はクリスマスイブ。イッシュ地方1の大都会ここヒウンシティはクリスマスムードで賑わっている。窓から外を見ればきらびやかなイルミネーション、いい雰囲気のカップル達。本当なら私だってその中にいるはずなのだ。なのに目の前には書類の山、山、山。肝心の恋人は隣で申し訳なさそうに、それでもにへらと笑っている。嗚呼、せっかくのイブに紙の束なんぞと戦わなくてはいけないなんて!


「ごめんねー名前ちゃん、ほんと終わらせるの忘れててさ…」


所謂ジムリーダーというのは公務員みたいなもので、ジムでの挑戦者とのバトル等の他にも、実はこういったデスクワークの仕事もあるらしい。しかしアーティさんは芸術活動とバトルに夢中でこっちは疎かになっていて、溜まりに溜まった書類を今日なぜかこの聖夜に必死になって片付けているわけだ。


「本当なんでわざわざクリスマスにやらなきゃいけないんですか」
「年内に片付けておかないと僕クビになっちゃうかもしれないんだよー」
「いっそクビになればいいんです」
「んうん、ひどいなあ!機嫌直してよー、ほらケーキだって一応用意してあるんだよ?」


大きいのは明日のお楽しみだよん!と言って白い箱から取り出したのは少し小さめの可愛らしいケーキだった。せっかくだから休憩にしようか、とアーティさんはそそくさと机の上に散らばった書類を退けスペースを取り、そこに皿にちょこんと乗せたケーキを置いた。
机に突っ伏していた状態でその様子を見ていると、さくっとフォークに刺したケーキの苺を私の眼前に差し出すアーティさん。苺と彼を交互に見る。アーティさんはにこにこして私を見つめていた。仕方なく苺をぱくりと口に含む。


「甘い?」
「どちらかと言えば甘ずっぱいです。ケーキの苺ってケーキの甘さを際立たせるためにあえてすっぱくしてるんですよ」
「へーそうなんだ! 知らなかったなあ」


にへらと笑い、彼自身もケーキを一口食べる。うん、甘い。そう言ったアーティさんは幸せそうで。その笑顔はなぜか安心出来て、胸の奥があったかくなる。アーティさんにつられて私も少し口角が上がる。まったく、敵わないなあ…この人には。

そういえばこの人は甘党なのだろうか、ジムをハチミツまみれにするくらいだし。などと考えていると再び眼前に差し出されたフォーク。なんの躊躇いも無く口に含めばクリームの甘さが口内に広がった。確かに甘い。


「ケーキ食べ終わったらまた再開だね」
「……はあ」
「溜め息つくと幸せが逃げるよ?」
「大丈夫です充分幸せですから」


なんて柄にもないことを呟けば、アーティさんは一瞬目を丸くしきょとんとしてから、うん、僕も幸せ。なんて言い出しすぐに微笑んだ。和やかな空気が流れる。ああ、なんだ気付けば結局私も私達なりに幸せなクリスマスを謳歌してるじゃないか。
こんなクリスマスも、たまには悪くないかもしれない。なんて思うのは、あなた限定なんですからね?


のしあわせ
君を待つ間、空を見上げた。