泣き出す心臓
10月 5日
今日、初めて学校をサボった。
普段なら私も寮のみんなも、学校に行っている時間。ましてや私が今立っているのは出入りを禁止されている巌戸台分寮の屋上だ。ここには勿論、私しかいない。とにかく1人になりたかったから、都合がいい。
10月にもなると、やはり肌寒く、冷たい風が制服から伸びた足に突き刺さる。でも、今はそんなことはどうでもよかった。
「荒垣、せんぱい」
その人の名前を呟くだけで、何かが首までせり上がってきて、それは涙となって私の目から零れ落ちた。
一旦零れだすと、次から次へと、まるでダムが決壊したかのように目から流れ出す。荒垣先輩、荒垣せんぱい、あらがきせんぱい、込み上げてきた気持ちのままにその名前を呼ぶ。それに呼応するように涙も止まることを知らず、やがて苦しくなってきて嗚咽も混じってきた。
「うっ…うぇ…あらがき、せんぱ…っひく……」
きっと、今の私の顔は人生で最悪と言っていいほど鼻水と涙に塗れて汚いだろう。
見上げれば悲しいほど青いあおい空が目に染みる。
その空の青が、先輩と一緒に歩いた日の空の青と重なって。
「…っう、うわ、あぁぁあああ…!!」
感情を抑えられなくなって、子供の様に泣きじゃくった。
頭の中を駆け巡るのは、いつかの先輩の優しい顔や困った顔や怒った顔。
そして、血の海の中倒れ、これでいいと呟き弱弱しく微笑む荒垣先輩の、顔。
「っあ、ああああ…!!うわあぁああああ…!」
その声が、
「……よう」
その表情が、
「よし、散歩行くか、コロちゃん。……お前も、行くか?」
その優しさが、
「ったく……しゃーねーな、夕飯作ってやる。言っとくがこれっきりだからな」
その厳しさが、
「馬鹿野郎!!一人で突っ走ってんじゃねえ!何かあったら遅せえだろうが!」
その全てが、大好きだった。
泣きじゃくりながら、私の目で、耳で、手で。今はもういない荒垣先輩の存在を感じたいと必死に願うけど。それはもう、永遠に叶わない夢なんだ。
ねえ、こんな情けない私だけど
大好き、でした。荒垣先輩。
せめてこの声が、あなたに届きますように。
泣き出す心臓、
ふるえる声帯
::片思いのまま終わる恋
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