なんだって幸せ

それは、バレンタインの数日前 完二くんと一緒に帰った時のこと。


「14日はスッッゲーもん作りますから!!期待しててくださいッス!!」


と、やる気に満ちた笑顔で鼻息も荒く張り切っていた完二くん。
……今では、その時の一言が私の悩みの種になっていました。


「乙女心が分かってないよねー完二くんも」
「でもそこが完二くんらしいんじゃないかな」


苦笑いを浮かべる千枝ちゃんと雪子ちゃん。
今はお昼休みの時間。三人で机をくっつけあいお弁当を広げる。相変わらず千枝ちゃんのお弁当は色合いの5分の3が茶色だった。
本当は完二くんにお昼は誘われていたのだけれど、今日は断って女子三人教室で食べている。
というのも、二人に話を聞いてもらうためだった。


所謂、私と完二くんは恋人同士である。
お昼はどちらかから誘いに行くし、放課後も大体一緒に帰る。お互いの家に遊びに行ったこともある。ちなみに染物屋のお母さんには公認済だったりする。
手を繋いだり、ハグしたり、キスは………ま、まだだけど、それなりにスキンシップしているし、そばにいるとドキドキして、出来るだけ一緒にいたいと思う異性も完二くんだけである。
まあ早い話とにかく私は完二くんが好きで、完二くんも私を好いてくれる。(ここまで話して千枝ちゃんにノロケか!と怒られてしまった)

だからこそ恋人のイベントで有名なバレンタインデーには、私もチョコを贈りたいと思った。すると完二くんは自分も私のためにチョコを作ると言ってくれた。勿論彼の好意は嬉しい。だけど彼はそのコワモテな外見とは裏腹に手先がめちゃくちゃ器用だ。そして意外に料理も上手い。前に彼が作ってきてくれたお弁当は絶品だった。(しかもキャラ弁というやつですごく可愛かった……)
それに比べ、私は不器用だしお世辞にも料理が上手いとは言えない。流石に食べた相手を気絶させるまでじゃあない…とは思うけれど、とにかく料理は苦手な部類だ。

正直、私のチョコより完二くんのチョコの方が絶対美味しく素晴らしい出来になるのは最早分かりきっていて、それは彼女として女のプライドが許せないと言うか、なんともいえないもやもやした気持ちに苛まれている。


「いっそ私が男で完二くんが女の子だったら良かったのに……」
「は?」


そうしたらこんなに悩むことはなかったのだと愚痴を零したら、千枝ちゃんに呆れた顔を向けられた。


「でも作るんでしょ?」
「……一応、ね」
「別にそんなに気にしなくても、名前ちゃんのチョコなら喜んで受け取ってくれると思うよ?」
「うん、分かってる」


分かってるけど、やっぱり私自身プライドが邪魔をしてもやもやしてしまう。
千枝ちゃんのやっぱりノロケじゃん!というツッコミも耳を通り過ぎ、私はお弁当の卵焼きをつついた。




そして、来たる2月14日、バレンタインデー。


「その、渡したい物があるんすけど、学校じゃあれなんで俺の家行かねッスか…?」


という完二くんの申し出により、今私は染物屋の完二くんの部屋にいる。部屋の主は準備してくるッスと言って部屋を出て行ってしまった。
完二くんの部屋には前に訪れたことがあるが、バレンタインという日だけあって少々緊張する。
私はそっと自分の鞄に触れた。中には昨日頑張って作ったクッキーが入っている。考えた末チョコチップクッキーにした。クッキーなら前に何度か作ったことがあったので少々自信がある。ちょっと形は歪になってしまったけれど。


「お待たせしたッス!!」


完二くんが部屋に戻ってくると、その手には大きな……なんとチョコレートケーキが皿に鎮座していた。丸々1ホールだった。私が驚いている間にも、完二君は器用にケーキを切り分け私に差し出してくれた。私はフォークで一口分切って口に運ぶ。


「……美味しい」
「本当ッスか!?」
「嘘なんか付かないよ、本当に美味しい」


照れくさそうに頭を掻きながら名前先輩にそう言われると嬉しいぜ!と嬉しそうにはにかむ完二くん。もう一口分切って口に運ぶ。うん、やっぱり美味しい。


「で、その……名前先輩からは?」


その一言で甘いチョコレートでほわほわと浮かんでいた私の気分はまるで崖っぷちに立たされたような気分になった。
確かに私も用意した。けど……まずこのケーキに勝てるはずがない。
彼女のより彼氏の作った方が美味しいとか…それはどうだろう…ちらりと鞄に目をやり、いっそ作れなかったとごまかそうかと思ったけれど、しかし完二くんがあまりにも期待に満ちた表情で見つめてくるので出さずにはいられなかった。


「は、はいこれ…」
「あざーっす!!!」


私から包みを受け取った完二くんはまるで子供の様に嬉しそうでラッピングのリボンをほどいていく。
出てきたのはもちろん私の作った少し歪な形のクッキー。
完二くんはひとつ取るとなんと一口でぱくりと食べてしまった。


「ど、どう…?」
「美味え!」
「ほ、本当?」
「嘘なんかつかねッスよ」
「でも完二くんのケーキより美味しくないよ…」
「…先輩、阿呆ッスか?」
「あ、あほ…!?」


俯き加減になっていた顔を上げれば完二くんと目が合う。


「先輩が一生懸命作ったクッキーが不味いわけないじゃないッスか。俺が作ったケーキなんかより美味いッス!」
「そ、そうかな…?」
「そうッス!」


喜んでクッキーを平らげていく完二くんを見ていて、心のもやもやが晴れていく。
確かに形は歪だし、このケーキなんかより全然見劣りしちゃうけど…完二くんが喜んでくれてるなら、いいや。
なんか女のプライドがーとか考えてたのが馬鹿みたい。その人が喜んでくれるなら、なんだっていいのにね。

同じように、きっとこのケーキには完二くんの私への想いが詰まってるからこんなに美味しいんだ。
完二くんの隣で、もう一口ケーキを食べた。


「うん、おいしい」



君が作ってくれたものなら、
なんだって幸せ
君を待つ間、空を見上げた。