ひとすくいの
「足立さん誕生日おめでとうございます」
「……そっか、今日僕誕生日だっけ」
誕生日なんてすっかり忘れてたよ、と乾いた笑いを浮かべる目の前の男。それは、いつかの頼りない、でもどこか柔らかい笑みに似ていて、しかしまるで吐く息の様に力無かった。
「まあ流石にケーキは準備できませんでしたけど」
「持って来たって食べれないでしょ」
ガラス一枚越しの、会話。
去年の春の連続殺人事件の犯人として同僚の足立さんが捕まって、約一ヶ月が過ぎた。
私は突き付けられた真実をゆっくり咀嚼し理解する間もなく、事後処理などとにかく忙しさに流された。
本当は下っ端の私なんかが簡単に、まだ捕まったばかりの犯人と面会なんて出来るわけがないのだけれど、堂島さんに協力してもらい、私は警察関係者として特別に面会することが出来て、今ここにいる。
一ヶ月ぶりに会った足立さんは意外と元気そうだった。捕まった時そのまま病院に送られたって聞いたけれど、憎まれ口を叩くぐらいには回復したらしい。
でも、部屋に入ってきたときの彼の目は、死んでいた。
「いや、足立さんの目の前でケーキ一人で全部食べてやろうと思ってたんですけどね」
「君ねぇ…」
「今度はちゃんと二人で一緒にケーキ食べましょう」
「…………」
「約束してください」
足立さんはそのまま黙りこみ、目線を私からあさっての方向に向けた。
そんな約束この人がしてくれるはずがないと最初から思っていた。叶うかも分からないから。
私はこの人を救いたかったのかもしれない。かといって、この人の罪を庇う気は毛頭無い。
ただ、自分のしたことに悔んで行く先の見えない闇の中にいるのなら、私が希望の光になりたいと、そう思った。
希望なんて綺麗事だと思われそうだけど、今のこの人には必要だと思ったのだ。
足立さんは黙りこんだまま、とうとう面会の時間が終わってしまった。
仕方なく私は椅子から立ち上がり、部屋の扉に手をかける。
「……考えとくよ」
驚いて振り向くと、そこには眉を八の字にして伏し目がちに、けれど柔らかく微笑む、記憶の中と同じ足立さんの姿があった。
ひとすくいの明日と傷のあと
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