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 私があの人に手を引かれ歩いている頃、私は彼が兄であると認識していた。事実、彼と私は互いに兄妹であると認識している。だが、私は彼を見れば見るほど、兄ではないのではないかと思うのだ。
 似ていると思っていた顔が、全然似ていないものに見える。

 私が似ていると思うのは、ガラス玉のような瞳だけだ。

 あの人の友人、私の話し相手でもある彼が死んでしまったという。その時、あの人の、兄の、ガラス玉の瞳が、初めて私を映す。

「幸、一緒にこの組織を抜けよう」

 その顔は、少しだけ、私に似ていたように思う。

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