心とココア
地元では人気のサーキット場が
数日限定でロードレース専用練習場として解放されることを知った俺は、
1人出かける準備をしていた。
サーキット場につくと
すでに沢山の選手が練習に励んでいた。
いそいそと自分のバイクもスタンバイし、
いざ参ろうと決意したとき。
どこかで見たようなユニフォームがちらりと視界にとまった。
迷わず自転車を漕いで
目的の人物を追走する。
ちょうど横並びになって
やっとのことで一声かけてみた。
「こんにちは、御堂筋くん。」
御堂筋君は首だけを器用にこちらに回して
なにかを測るように俺の全身を上下にくまなくみてくる。
「なんや、箱学の新商品ちゃんやないの。」
いつのまにかつけられたヘンテコなあだ名に苦笑してみせる。
「御堂筋君は1人できたの?ここ、静岡なんだけど。」
京都伏見、とかかれた薄紫のユニフォームがどことなく違和感を放っていた。
「ボクゥがどこに居ようと、関係あらへん。ほっといてもらえる?」
「でも、遠いから。遅くまでは練習しないつもりなの?」
車体を寄せて御堂筋くんに詰め寄ると
嫌、とばかりに速度を上げられて離されてしまった。
「勝負しようよ。」
負けじとペダルを回して
御堂筋君のよこに再び自転車を寄せる。
俺の言葉を聞いた御堂筋君は一瞬嫌そうな顔をしてみせたが何かを思いついたのか子供のようにイタズラな笑みを浮かべた。
「ええよー。ほならおたくが負けたらどうするつもり?」
「負けたら?んーそうだねぇ、じゃぁー」
ポソポソと聞こえるか聞こえないかわからない声で御堂筋君に囁くと
思っていたのとは違う以外な反応をした。
「キッモ!信じられんわ〜!」
「え!?なんでよ。」
みるみるうちに顔が赤くなり、
顔を背けられてしまった。
「なんで照れるの!?」
「照れて、ない。」
「普通に俺んち泊まっていけばって。言っただけじゃん。」
そう、帰るのに苦労するだろう彼の事を思ってよければ近場の俺の家に泊まっていけばいいと軽い気持ちで提案したつもりが
どうやら困らせたらしい。
「し、知らん男泊めたらあかんよ!」
「いや、知り合いじゃん。」
返す言葉が出ないのか
呆然とする彼が可笑しくて
つい笑ってしまった。
「ってか、勝負とかいいよ。せっかくだし泊まっていって。」
「せやから、ボクゥはー」
「御堂筋くんが来てくれたら嬉しいよ。色々話せたらいいなって思ってたし。」
「は、話.....\\」
がくりとうなだれてしまった御堂筋くんは急にブレーキをかけて自転車を降りてしまった。
気を悪くさせたのかな、
正直彼のことはあまり知らない。
大阪のレースで一線交えたことがあり俺としてはかなり好印象だった。
面白い話し方だし、
なにより、真剣勝負にかける思いが他の選手とは比べものにならない。
本心からの誘いだったのだが、
困らせるつもりも嫌な気持ちにさせるつもりもなかったのにな。
「御堂筋くん、ごめん、俺ー」
去っていく彼の背中に声をかけた時だった。
彼がくるりとこちらに振りかえった。
「しょうもない、けどー、行ってやってもええよ。」
「.....御堂筋くん!」
「準備するから、少し走ってきたらええよ。まだ来たばかりなんやろ。」
照れ隠しなのかこちらに目線はむけなかった御堂筋くんだが
俺はわかった!と
大きな声で返事をして
何周かの練習を終えた。
ーーーーーーーーーーーーーー
どうしてこうなったんや....。
計画もなく浮かれて遠出してきた先に
こんな上手い話が転がってるなんて。
「御堂筋くんは硬い枕と、柔い枕どっちがいい??」
突然に二つの枕を手渡されて
余計に思考の整理がつかない。
「ボクゥはなんでも...」
「じゃ、青いほう使おうか!」
いつのまにかこの、箱根学園の新商品と勝手に読んでいる真白白川の家に上がっている自分がいた。
大阪のレースで
ちょっと面白そうなザクがいるなと絡んでしまったことを後悔した。
誰かん家で泊まるなんて
仲良しごっこみたいで
吐きそうやわ。
鬱々とした気持ちでいると
それに気づいた新商品ちゃんが
顔を覗きながら心配そうな顔をしていた。
「なにかしんぱいごと?」
大きな黒い瞳が揺れる。
その瞳がどうやろボクゥの鼓動を早めているらしい。
「ほ、ほっといてくれる?!ボクゥはこっちで寝るから!!!」
急な大声ぬ
新商品ちゃんは驚いた顔で
少し黙っていた。
「そっちで寝るの?俺はいいけど。」
「へ?」
よく見るとボクゥの指差した先はこの部屋の主のベッド。
つまり新商品ちゃんのいつも使ってるベッド。
ごくりと思わず喉を鳴らしてしまった。
「せっかく布団ひたんだけど、まぁいいや!一緒のベッドいけるかな。」
ぱしぱし、とベッドの上に枕を丁寧に二つ並べた新商品ちゃんは少し嬉しそうにみえた。
結局、よそ様のベッドに上がり込んで寝転んで見るが熟睡などできるはずもない。
なにより、身長に合わないサイズのベッドから足先が出ているのもきになる。
「ねれそう?御堂筋くん。」
すでに眠気がきているのか
とろんとした表情がすぐ真横でボクゥの名前を呼んでいる。
めっちゃ、かわええ。
大阪のレースが終わった後
メットを取った新商品ちゃんが
あまりにも可愛らしい男で
心を奪われたばかりだった。
ついつい朝コンビニで売られていた天使のキャラクターがついた新商品からなぞらえて
新商品ちゃんなんてあだ名をつけて呼んでしまうほど気に入っていた。
「ボクゥもう、死んでもええよ。」
「んー...」
いつの間にか安らかな寝息が聴こえてきた。
なんや、もう寝たん。
いやでもこれは至福の時{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}
くっそかわええ寝顔を独り占めや。
というか、ちゅー....
ちゅーできる距離やないの。
それか、もうここでいっそのこと既成事実を作り上げて無理くり恋人にしてしまうのもありやなー。
ピピピ
とんでもない思考にはまっていた時、
枕元にあった携帯画面が光り出した。
「新商品ちゃん、携帯鳴っとるよ〜...おーい。」
声かけに一切反応せず
熟睡している。
「しょ、しょうがないからボクゥがでてあげようか〜....??」
いつもは存在しない善意が
ボクゥの背中を押した。
携帯画面の名前をみずに
手早く通話状態にかえる。
「あっ、寝てたか。悪かったな。」
まったく知らない男の声が漏れて
はた、と携帯を持つ手が止まる。
だれかわからへん。
寝とるって言えばええか。
めずらしくボクゥの天使が悪魔を押し付けて
優しく微笑んでいる気がした。
「いまはー」
「やっぱり付き合ってるんだし、毎日電話くらいはしたいなって思っ、」
「「え?」」
どちらともなく疑問の声が漏れた。
「だれだ、白川じゃないな。」
電話の主は警戒を強め始め
先程とはかわってかなりキツめの声色でこちらを問い詰めてきた。
それよりも心の悪魔が完全に天使を殺して前のめりに出てきてしまってる。
なんていったか、この相手は
「付きおうてる、って新商品ちゃんのこと」
独特の訛りに反応したのか
すぐさま返事がきた。
「その声、話し方。御堂筋だな。」
どうやら自分を知る人物らしい。
予想では箱根学園の先輩のザクだろう。
「質問、してるにはボクゥなんやけど。」
「....なんでそこにいるか知らないが、白川と俺は恋人同士だ。何かしたら許さない。」
きっぱりと宣言されてしまい
ボクゥの思考の中で悪魔がやたら嬉しそうに笑ってる気がした。
「何もせえへん。」
「え?」
「善意で泊めてもらってるだけや。踏みにじったりせえへん。」
「善意?え、お前、御堂筋だろう?」
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