持つべきものは優しい幼馴染


華の金曜日。疲れた〜と首を回しながら、コンビニ袋を片手に帰路に着く。同僚に飲みに誘われたけど、今日は1人で飲みたい気分だったからコンビニで酎ハイとおつまみを買って。ネトフリでも見ながら一杯やろう〜なんの映画見よう〜なんて思ってたら自宅マンション前が何やら騒がしい。


『え、警察…?』


ちょっとした人だかりを抜けて、マンション前にいた警察官に『ここの住人なんですけど、』と恐る恐る伝えた。
なんと、私の家の隣人宅に空き巣が入ったらしい。今朝はなんともなかったから、日中に入ったのか。鑑識らしき人を横目にバクバクする心臓を押さえながら自宅のドアを開けた。


『え、いやいやいや、空き巣って…こっわ、』


私の独り言がいやに響く。隣人の留守中に空き巣が入ったため隣人は無傷だけど、部屋の中が荒らされていたらしい。駅から徒歩10分、1LDK、2階、オートロックなし。都内の割に私の給与でもやっていけそうな家賃だったけど、ここに住み始めて約3年。
「引っ越し」の文字が頭をよぎる。


『引っ越すとしてもなぁ、今と同じ条件でセキュリティよくするとなると家賃がなぁ…』


コンビニ袋をテーブルに雑に置いて座り込む。隣人宅に空き巣が入ったということは、私の家に入っていたとしてもおかしくない。一歩間違えれば我が家だったかもしれない。1人でいるとどんどん悪いことばかり考えてしまって固まっていたら、スマホがブブブ、と鈍い音を上げた。


『…真凛ちゃん!』
《おぉ、勢いがすごいな》


スマホの鈍い音は幼馴染の真凛ちゃんからの着信だった。すぐに出て真凛ちゃんの声を聞くと少し気持ちが落ち着く。


《今暇かな〜と思って連絡したんやけど》
『暇!暇!っていうか聞いてよ、うちの隣の家に空き巣入ってさ、』
《え、空き巣?!》
『そうなの、今なんかめっちゃ警察の人とか来てて…』
《奈那、今1人やろ?そんなとこおったら危ないやん》
『そうなんだけど〜…』


心配してくれる真凛ちゃんに半泣きで答える。なんだか落ち着かないし、今日だけでも漫喫に避難しようか考えていると、そうや!という真凛ちゃんの声。


《とりあえず週末だけでも過ごせる分の荷物まとめてウチおいで》
『え、いや、真凛ちゃん彼氏さんと住んでるじゃん!お邪魔できないって』
《彼氏、今日から月曜の朝まで出張で家おらんねん。だから気ぃ使わんでえぇよ》
『うっそ!いいの?』


えぇよ、と優しい彼女の声にホッと胸を撫で下ろす。去年、大阪から上京して当時遠距離だった彼氏さんと一緒に住んでいる真凛ちゃん。上京したのは私の方が先だったけど、真凛ちゃんがこちらへやってくると聞いた時はとっても嬉しかったことを思い出す。持つべきものは優しい幼馴染!


『荷物準備して、そっち向かうね』
《ゆっくりでえぇから、気をつけてな》
『ありがとう、じゃあまた後で』


電話を切って大きめの鞄に2日分の衣類を入れる。真凛ちゃんと話したからか、気持ちも落ち着いて冷静になれた。


『ちゃんと戸締りして、』


各部屋の窓の鍵を確認。飲むはずだった酎ハイが入ったコンビニ袋をまた手に持ち、自宅を出る前にちらっと時計をみる。
時刻は20:13。この隣人宅空き巣事件が、これからの私の人生を大きく揺るがすこととなるのを私はまだ知らない。




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