彼女になったからって


お母さんに味見してもらって合格点ももらった。可愛くラッピングも出来た。…後は、渡すだけ!

「名前〜、おはよー」
「お、おはよ!」
「…どうしたの?ソワソワして」
「え、なん、でも〜」
「……あやしいなぁ〜」

友達の愛美が私の顔をまじまじ見てくる。入学してからずっと友達してるけど、愛美に隠し事は出来ない。隠しててもすぐバレる。…私は顔に出やすいらしい…。

「…そのうち分かるよ」
「ふ〜ん」

腑に落ちないと言う顔で自分の席へ戻った愛美。
後5分でHRが始まる。そろそろ朝練を終えたメンバーが来るはずだけど…ってか、どのタイミングで渡せばいい?会ってすぐ渡すべき?それとも部活前?食後のおやつに…?

「おはよーさん」
「え、あ、仁王!おはよー!」

いつの間にか朝練を終えた仁王が自分の席についていた。
…あれ?丸井は?
そう思って彼の席を見ると、自分の席に座って女子と話をしている。
…そうだよね。彼女になったからって向こうから挨拶してくれるって訳じゃないんだよね。

「どうした?浮かない顔して」
「…別に、なんでもない」
「そういやお前さん、丸井と付き合うよーになったらしいのー」
「えっ?!だ、誰に聞いたの?」
「本人」
「ぅえ?!」

丸井が私の事を?
ちょっと、いや、大分嬉しかったが、その後の話を聞いてなんだって思った。
後輩の切原君って子が丸井に彼女と別れたらしいッスねー!次は誰が彼女になるんスかねーって言ったら、ケロッとして私の名前を出したらしい。
そういう流れだったのね。なんか、色々期待して損した。期待するだけ無駄だって、分かってたけどさ。

「で、ちゃんと持ってきたんか?差し入れ」
「持ってきましたとも!夜中2時までかかってラッピングしたんだから」
「ほ〜気合十分じゃの〜。ま、頑張りんしゃい」
「…うん……ついでに、聞いていい?」
「…なん」
「いつ渡せばいいかな?」
「自分で考えんしゃい」

そう言ってコツンと叩かれた。
ちぇっ。ちょっとくらいアドバイスしてくれてもいいじゃん!
心の中で悪態をついたところで担任が入ってきてHR開始となった。



***



そして私はドキドキしながらその後を過ごした。だけど、私の期待と反して、本当に何もなかった様に日常が過ぎていって――

「起立。礼」
「「「さようならー」」」

放課後になっちゃった。休み時間も、昼休みも、丸井は友達と一緒に話したり遊んだりして、こっちに目もくれなかった。

「はぁ〜〜〜」
「大きい溜め息じゃのー」
「だってさ〜…」

うな垂れてる私を見て、仁王がククッと喉を鳴らして笑った。
こっちは笑い事じゃないんだよ!真剣にちょっとへこんでるんだよ!

「ブン太の彼女になったからって受身になったらいかんぜよ」
「え?」
「お前さんからモーションかけんと、アイツには近づけんよ?」

そうか…そうだよね!私が頑張らないと、丸井が見てくれるわけないよね!!

「うん!ありがとう、仁王!」
「この礼は高いぜよ」
「え…まじでか」
「おーい、仁王!先行ってるぞー!」

半分廊下に出た体を斜めに傾け、丸井が仁王に声を掛けた。

「ほれ、行ってきんしゃい」
「…うん!」

私は鞄の中に入ったクッキーを手に持ち、丸井の下へ走った。

「ま、丸井!」
「ん?」

振り返った丸井の姿がカッコイイなんて思ってドキッとしながら、手にあるクッキーを差し出した。

「これ、昨日言ってたやつ!」
「おぉ!サンキュー。丁度腹減ってたんだよな」

ひょいとラッピングされた包みを取り、その場でいきなり開けだした。

「おっ、クッキーじゃん!美味そ〜」

パクッと一口食べる丸井。ドキドキしながら、彼の顔色を伺う。
さぁ…どうだ?!

「ん、うまい!」
「ほ、本当?!」
「おぅ!明日も楽しみにしてんな〜」
「ぉ、おう!」

返事が女じゃね〜なんて笑われたけど、丸井がクッキーを美味しいって言ってくれて全く気にしなかった。

「あと、さ」
「ん?」
「バイトない日は、部活観に行ってもいい?」
「お〜、別にいいけど?でも騒ぐなよ。騒ぐと真田がうるせぇから」
「う、うん!大丈夫!微動だにせず見物させてもらう!」
「それはそれで怖ぇって」

変な奴って笑って、丸井は部活に向かった。
変な奴だろうが何だろうが構いやしない。丸井が笑いかけてくれたから、私はそれだけで幸せなんだもん!

「よーし!今日も頑張って作るぞー!」

オー!と一人声を上げた。



***



『マジでか?!』
「マジ…です、はい…」

その日の夜、バイトから帰ると愛美から電話があった。料理しない私が放課後丸井に差し入れしたのを見て怪しいと思い、もしかして…と電話したらしい。
事の経緯を話すと、大きな溜め息を吐いて呆れ声で言った。

『あんた、それだけはしたくないな〜って言ってなかったっけ。どーせ直ぐ別れる事になるからって』
「そう…なんだけどさ、なんか、流れでポロッと…ね」

アハハと空笑いをすると、バカと切り捨てられた。

『知らないよ〜泣きをみても。ただでさえ名前は料理下手なんだし、他の人より切り捨てられる可能性高いんだよ?』
「うん…それは重々承知しとおります…」

自然とベッドで寝転がっていた体勢が正座に変わり、頭をうなだれた。痛い所をザクザクと付かれ、トホホと惨めになっていく。
やっぱ早まったかなぁ〜…。

『ま、でも――』
「…ん?」
『名前は、他にいい所いっぱい持ってるから…頑張ってみな?料理下手でも好きになってもらえるように』
「…愛美」

優しく言ってくれた愛美。いつもそうなんだ。愛美は冷静に意見を言ってくれる。いい所も悪い所も。それは、私を思って言ってくれてるって分かるから、何を言われても受け入れられるんだ。
ありがとう…愛美。

『ふられたら、やけ食いくらい付き合ってあげるよ。もち、あんたの奢りでね!』
「…そうならない様に頑張ります」
『ふふっ、そうしな。あたしも少しは協力してあげるからさ』
「…ありがとっ。頼りにさせてもらいまっす!」

二人で笑って、その後他愛ない話に花をさかせた。気づけばもうすぐ0時。
やばっ!差し入れ作らないとっ!!
私は急いでキッチンへと駆け下りた。

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