さっさと決めちゃいましょう


「今から海原祭のチーム分け、団員決め、クラスの出し物を決めたいと思います」
「さっさと決めて、さっさと終わらせようぜ〜」

へーいとか隣の子とお喋りしながらも皆話聞いてくれてる。こういう行事には積極的な子が集まってるみたいで、すんなり決められそうだ!去年のクラスはなかなかで委員の子が大変そうだったもん…。

「じゃあ、まずチーム分けをします。じゃあ…適当に男女3、2か2、3でくっついて〜!決まったメンバーから私に言って下さい。早く決まったチームからAからE決めてもらうから!他のクラスの子とどのチームになるか約束してたらさっさと決めてね〜。あ、応援団員も一緒に決めちゃって〜!」

そう言うとガタガタと椅子から立ち上がり、仲のいい子が集まってチーム作りを始めた。

「名前は勿論、私とでしょ?」
「もっちろん!!あとは…」

丸井のいるチームとくっつく事ができれば!!

「名前〜!私達B班ね!」
「もう決まったの?早っ!メンバーは?」
「えっとね〜」

手元にあった紙に言われた名前を書き込む。
相川。日下部。宮下。高峰。まる――丸井?!

「この5人で!団員は日下部と丸井ね」
「…ぉう…りょ〜かい…」

撃沈。…ま、そうだよね。丸井、人気だもんね…。
報告してくれた日下部さんはルンルンしながらチームの下へ戻っていった。丸井と同じ団員…か…羨ましい…!!

「…どんまい」
「ま〜な〜み〜〜」

今すぐ泣き付きたいけど、次々決まったよ〜って言う声にせっせとプリントに名前を書いていった。

「後は、Aチームだけか。えっと〜、残ってるのは?」
「お前らの2人と、俺ら2人…と、仁王だな」
「え?!仁王?」

まさか!あの仁王が売れ残ってるなんて!!…そういえば丸井のチームに入ってなかったな。絶対一緒になるとか思ってたのに。
そう思って仁王に視線を向けてみた。…余ってる理由がわかったよ。彼、寝てるよ。あたしも眠いのにのん気に机に突っ伏して寝てるよ。寝起きは低血圧な事をクラスのほとんどの子が知ってるから誰も声かけなかったんだね。

「一応仁王に報告した方がいいよな。…苗字、行ってこいよ」
「え?!何で私が?」
「お前実行委員だろ」
「滝田も実行いいんでしょうが!!」
「例え苗字でも男より女に起こされた方が仁王も気分いいはずだ!!」
「なんだよその苗字でもって!!」

滝田にグンと体を押され、あたしはいそいそと熟睡してる仁王の机に向かった。

「…お〜い…にお〜く〜ん」

控えめな声で名前を呼んで肩をツンツンとする…が、反応は返ってこない。

「…仁王〜、仁王様〜詐欺師殿〜」

何度も名前を連呼していると、突っ伏してた顔が横に傾けられ視線があたしを捉えた。

「仁王。体育祭のチーム、Aチームに決まったけど…いいかな〜?」
「……いいとも〜〜」

おぉ!!寝起きのカスカス声でノッてくれたよ!!寝ぼけてるのか?…とりあえず、ご機嫌斜め…って感じではないご様子でホッとした。小走りで教卓まで行って仁王のOKが出た事を伝えた。後は、団員決めだね!

「誰団員行く?」
「はい!あたし行く!!」

張り切って手を上げたのは、私!だって、去年の見て凄い感動したんだもん。絶対団員になりたい!!

「でも団員になったら放課後練習とかあるよ?参加できるの?」
「大丈夫!本格的に練習あるのは来月からだから、シフト調整すれば出れる!」

応援頑張って、絶対金券取るんだもんね!

「じゃあ、俺らのチームからは苗字って事で異論なし?」
「な〜し!」
「お前に聞いてねぇよ」

滝田のツッコミは相変わらず鋭いな。関西出身とか、じゃないよね?

「じゃあ、体育祭のチーム分けと団員は決まったんで、次、文化祭の出し物決めまーす。何かやりたい事ありますか?」

滝田が進行を始めてくれたので、あたしは黒板に板書する事にした。白のチョークを持って皆が言う出し物を箇条書きしていく。

「俺、甘味屋がいいな〜。ケーキやクレープとか…甘いモンがあれば何でもいい」
「却下だ」
「なんでだよぃ!」
「お前、絶対つまみ食いするだろ?だからダメだ」

温かく見守っていた担任が却下を出してきた。確かに…丸井は絶対つまみ食いしそう。しかも半端じゃない量を食ってしまいそう。そう思うと何だか可笑しくてクスクスと笑ってしまった。
その後、お化け屋敷やたこ焼きやとか喫茶店とか、いかにも文化祭って感じの出し物が上がってきた。でも他のクラスも同じ様なものだと思うから、かぶると抽選になってまた決め直しとかになっちゃうしな〜。

「…あ、写真館とかは?」
「写真館?」
「うん!色んな学校の制服とか、キャラのコスとか、ほら!うちのクラスレイヤーの子多いしさ!…衣装貸してくれたりする?」

近くにいたレイヤーの里田さんに聞いてみた。いきなり話を振られて驚き気味の里田さんは汚さなければOK、と快く許可も出してくれた。

「後は背景を書いて、プリクラ感覚で写真を撮る。一着につきいくらって値段つけて写真に撮って。画像はパソコンからネットで送れば印刷代かからないし」

おぉ〜っ!と結構いい反応をしてくれてる!

「じゃあさ、追加料金払ってくれたら、お目当てのあの人とツーショット!とかどう?例えば〜、丸井とか仁王君とかさ!」

日下部さんの提案に周りの女の子はいいね〜!なんて言ってるけど…。あたしも一瞬、そんなシステムあったら追加料金いくら払ってでも撮りたい!!とか思ったけど。
でも…一応、一応!か、のじょって立場からすると…複雑…。

「それは面倒だなぁ。仁王も絶対逃げるぜ?」

だるそうにそう言った丸井を見て、ホッとしたりちょっと残念だったり微妙な心境。
その後女子達が頑張って説得してたけど、丸井はYESと言わず、仁王は眠りこけたままなので半ば諦めかけてた頃―。

「じゃあ、帝國ホテルのデザートバイキングの無料券!!これでどうだ!!」

一人の女子が2枚の券を丸井の前に差し出した。それは上品な紙に帝國ホテルデザートバイキング招待券と書かれた文字が。

「おぉッ!まじかよ!あそこのバイキングめっちゃ高いのにどうしたんだよ!」
「知り合いのツテで貰ったんだ!どう?これならやってくれる?」
「やるやる!!」

まじでかぁーーー!!
なんかデザートバイキングの無料券とか聞こえた時点でそうなるとは思ってたけどさ!…これって…餌付け?彼女地位やばい感じ?たった2日で?

「まっ、丸井だけでも大分収穫ありそうだし…じゃあそんな感じでクラスの出し物は写真館でいいか〜?」

滝田話を締めくくっちゃったよ!もう決定じゃん。文化祭…丸井とちょっとは一緒にいれるかな?とか淡い夢を抱いていたけど…それは叶いそうにない…。

「名前〜。大丈夫か〜?」
「…うん…だいじょばない」
「だいじょばないって…。あ〜、あれよ!文化祭までにもっと丸井との関係を深めちゃえばいいだけじゃん!ね?今、丸井の彼女はあんたなんだしさ!」

小声で愛美が元気付けてくれた。
そうか…うん、そうだよね!これで諦めちゃ付き合ってもらった意味ないもんね!
文化祭まであと二ヶ月近くあるんだし…それまでにもっと仲良くなればいいんだ!

「よし!頑張る!!」
「おぉ〜苗字、やる気満々だな〜!先生期待してるぞ〜」

思いの外大きな声だったらしく、文化祭を頑張ると勘違いした先生がハッハッハなんて笑いながら肩をバンバン叩いてきた。他の皆もあたしの発言にキョトン状態。
うん…頑張るよ!!海原祭も恋愛も!!



***



HRで決めなきゃいけない事は全て決まった。後は用紙に清書して来週の委員会に出すだけか。

「じゃあまた明日ね!」
「うん!部活ファイトー!」

バイトまでは…うん、まだ時間あるしさっさと清書すませちゃお!後回しにすると忘れそうだし。

「苗字さん。冷蔵庫に入れてるシュークリームどうするの?」

シュー…あっ!そうだ、忘れてた!家庭科部の冷蔵庫に入れさせてもらってたんだ!

「ごめん!今すぐ取りに行くよ!」

慌ててその子と一緒に家庭科部室へ預けてたシュークリームを取りに行った。…って丸井もう部活行っちゃった?!
ダッシュで教室に戻ったけど、丸井の席はもぬけの殻。
やば!追いかけなきゃ!!
清書しようと出してたプリントや諸々を鞄に詰め、テニス部の部室へ向かった。部室に着く前に追いついて渡したい!部活見学に来たギャラリーの視線とか怖いし…。
シュークリームが崩れない様に気を配りながら階段を駆け足で下りていく。下足箱へ向かう生徒の波をかき分けて、部室棟へ向かうと赤髪と銀髪の二人を発見!!

「ま、丸井ー!」

ガムをプゥーっと膨らませながら振り返る姿に、やっぱりカッコイイなとか思いながら、二人に駆け寄った。

「こ…これ、しゅ、…クリーム!」
「おぉ〜…って、何でそんな息切れしてんだよ」
「ちょっと…教室から、ダッシュしたら…」

帰宅部にはちょっときついっす!
苦笑しながら差し出したシュークリームの包みを受け取ってくれた。

「お前、ちょっと体力つけた方がいいぜ?応援団入ったんだろぃ」
「え?…あ、うん、入ったけど…何で知って、?」
「お前叫んでただろ?」

あれ?そんな叫んでたっけか?

「団の練習、半端ねぇらしいし」
「そっか…うん!そだね!とりあえず、教室からダッシュして息切れしないくらいには頑張る…!」
「基準そこかよ」

なんか…何か普通に会話してるよ!彼氏彼女…って感じの会話じゃないけど、何か凄く会話してる感じがする!

「お前さん、今日はずいぶんゆっくりなんじゃの」
「え?」

仁王に言われて腕時計を見れば…やばい!バイトぎりぎりだ!

「あ、私帰るね!二人とも部活頑張って!」

じゃっ!っと手を上げて駐輪場に向かった。あ…明日部活観に行くって言っといた方がよかったかな?でも引き返して聞くのもな…。でも前に行っていいって言ってくれたし。よーし!明日の為に差し入れのお菓子頑張って作らなきゃ!!
一人ニヤニヤしながら駐輪場への道を急いだ。

しおり
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