初!部活見学


「うわ〜…相変わらず見学者多っ!」

コートのフェンスから少し離れた場所で小さな声でレギュラー陣の練習を見学してる女子、女子、女子。真田君がいるからか皆邪魔しない様にしてるんだね。あの中なら私も混ざれるかな?いや…やっぱやめとこう。視線が怖い。絶対あそこにいるのほとんどがファンクラブのメンバーだろうし。
差し入れのプリン10個入った箱を持ち直し、ファンクラブ軍団から少し離れた場所の植木横に背を預け、皆が頑張っている姿を見た。今はレギュラー陣がコートでストローク練習をしてる。
練習の筈なのにボールのスピードとか凄く早い。それを軽々とやってるみんなはさすがレギュラーって感じ!あ、丸井だ!
ガムをプクーっと膨らませボールを打つ姿は、フィルターがかかってるのかすっごいキラキラ光って見える。
やっぱかっこいいなぁ〜、丸井。あのカッコイイ人の彼女なんだよね、私。…一応、今のところ…。いつ入れ替わるかもしれない危うい位置。いつまで彼女って立場でいれるなかな。それまでに、この距離は…少しは縮んでくれるのかな…?

「はぁ〜…んぁああ!!くよくよしない!!頑張るんだろ、名前ッ!」

フンッ!と鼻息を勢いよく吐くと、再びコートに視線を落とした。



***



「…練習お疲れ様で〜っす」
「おぉ。お前いたの?」
「おう。微動だにせず木陰から見学させていただきました」
「それただの変質者だからな」

部活終わってコートから出てくる丸井に声をかけた。遠くで見てるファンクラブの視線が痛い。すっごい刺さってる感じがする。でも着替える前に声かけるとしたら今のタイミングしかなかったんだよ!

「今日はプリンを作ってみました!」
「プリン!いいねぇ〜!」
「一応、多めに作ってきたから、他のみんなとどうぞ。あ、ゴミは回収するからその辺で待っててもいい?」

そのまま一緒に帰れたらいいなぁ〜なんて野望を込めて、ゴミ理由にこの場に留まろうとするあたしの目論見はどうでる?!軽く言ってみたけど、内心バクバクです。

「別にゴミとか適当に捨てとくし、余ったら俺持って帰るしよ」

それは遠まわしの拒否か?!確かにあたしもそう返すかもしれないけどさ…。

「本人が持って帰るって言うんじゃし、待っててもろたらええじゃろ」

仁王〜〜!!ナイスな助け舟!グッジョブ!

「ふ〜ん。じゃあその辺で待ってろぃ」

視線で指した花壇の近くに立ち、彼らが部室へ入って行くのを見送った。
プリン食べてくれてるかな?味見はしたから大丈夫だと思うけど…口に合わなかったらどうしよう…。
ソワソワして立ち尽くしてると、数人の女子がこっちへやってくるのが視界の端で確認できた。
やばい…なんか、いや〜な予感しかしない。

「ねぇ。もしかして丸井くんと付き合ってるの?」
「…まあ」

そう言えば、あんたなんかが〜みたいな感じで笑い始めた。
はいはい、分かってますよ〜あんた達が言いたい事は。

「まぁ、頑張ってね〜」

あっさり言ってその場を離れていく女子集団。
あれだね。あんた達すぐ別れるだろうって思ってそう言ったんだろう。ライバルとさえ思われてない。漫画とかなら女子のネチネチした嫌味とか嫌がらせがあるもんだろ!もっとかかってこいや!!…いや、やっぱかかってこないで。ネチネチした嫌がらせとか勘弁。
それから10分程して部室の扉が開いた。眼鏡をかけ、それではお先に失礼します、と丁寧に中のメンバーに声をかけたのは柳生君だ。

「苗字さん、ですよね?」
「あ、うん。そうだけど」
「プリン頂きました。とても美味しかったです。ありがとうございました」

頭まで下げて言ってくれた彼は、さすがジェントルマンと呼ばれるだけあるなぁ!って心の中で感心した。

「そんな!こっちこそ食べてもらってどうもありがとう!」

私の言葉が可笑しかったのだろうか。彼は少しキョトンとして、でもすぐ笑顔でではっと言って去っていった。
わざわざプリンのお礼を言ってくれるなんて…やっぱり紳士だなぁ。…なんであの人が仁王とペア組んでるんだろう?謎だ。何か弱みでも握られてるのか?

「じゃあ、お先ッス!」
「また明日な〜!」

元気な声が聞こえて部室の方を見れば、切原君と丸井、仁王が出て来た所だった。

「あ!苗字先輩!プリンあざーっす!」
「結構旨かったぜ。幸村君達がありがとうってさ」

そんな!幸村君にまでお礼言われてしまったよ!とりあえず、ホッ。丸井のお口に合ったようでよかった!
プリンの残骸をホイと渡され、それを受け取るとじゃあな〜と言って丸井は去ろうとした。
えっ!まじで?!そのまま帰っちゃう感じなの?私が声かけるべき?でも、本当に用事とかあったら…。

「あれ?丸井先輩、彼女と帰んないんスか?」

切原くぅーーん!ナイスです!!君ナイスです!!

「あ?だって今からゲーセン行こうって言ったのお前だろぃ?」
「彼女も一緒に行けばいいじゃないですか、ねぇ、仁王先輩」
「ま、嫌じゃなけりゃな」

3人が私を見た。そんなの、私の答えは一択だよ。

「嫌なんて!邪魔じゃなければ私も行っていいかな?」
「じゃあ、行くか〜」

よっしゃーー!!
心の中でガッツポーズをして彼らの後ろをついて歩いた。



***



「ちょっ!ハメは卑怯だー!」
「これも技の一つだよ。はい、お前終了〜」
「うわぁ〜!負けたー!」

格闘ゲームであたしのキャラはフルボッコにされた。
ちくしょ〜…やっぱ適当打ちじゃダメか。でもコマンドとか苦手なんだよね〜。
でも…なんか、カップルしてない?!一緒に格闘ゲームしてワーキャー言ってるの…なんかいい感じじゃない?!

「苗字先輩って、ゲーム出来る人なんすね〜」
「うち両親がゲーム好きだからね〜」
「なんかイイっすね、ゲーム好きの女の人って!」
「そうかな?」
「そうっスよ!俺がゲーム好きだから、興味ない奴が彼女だと面倒っスもん」

まぁね〜。趣味違うとそんな風に感じる人もいるよね。…丸井の趣味って何なんだろう?
丸井に視線を向けると、携帯の画面を見ながら仁王と何やら話をしている。

「ねぇ、切原君」
「なんスか?」
「丸井の趣味って何かな?」
「丸井先輩の趣味?確か、ホテルのバイキングに行くこととか言ってたっスよ?」
「…だよね〜」

やっぱ『食』だよね〜。何となく予想はしてたけどさ。でも、それなら私も一緒だもんね!お菓子大好きだし、食べること好きだし!…だけど、作るのは苦手なんだよね〜…毎日作ってたら自然と慣れてくるものなのかな?う〜ん…。

「苗字先輩って、面白いっスね」
「面白い?」
「顔コロコロ変わるから、見てて飽きない」
「…それは褒め言葉?」
「そのつもりっスよ?今までの丸井先輩の彼女ん中だったら一番好印象」
「ほんと?!」
「ほんとっスよ。今までの丸井先輩の彼女って何か目が怖いんスよね。なんつーの、邪魔すんなみたいな目で見るんスよね、俺らの事」
「へぇ〜」

女は執着心が強い人多いからね。妬み嫉みはでるよね〜。

「でも、苗字先輩はそんな感じしないんで」

ニコッとして言ってくれた彼が、メンバーにデビルなんて呼ばれてるとは信じがたい!私には天使に見えて仕方がないのだが!!

「って事で、俺なんか喉渇いちゃったんスけど〜」
「……」

あれか。こんだけ褒めたんだから奢ってね的な遠まわしな恐喝ですか?天使の笑顔なのに…先の尖った尻尾が見えるよ。前言撤回。天使じゃない。小悪魔です。
結局切原君にジュース奢ったら、俺にも奢れって言われて丸井と仁王にも奢るハメになった。…なんて奴らだ…。

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