バイト先に来ちゃいました


「いらっしゃ…!」
「いらっしゃいました〜!」
「頑張って働いてっか?」

いらっしゃった!本当にいらっしゃったよ!!
今日、愛美に私のバイト先のサラダバー無料券をあげたら―

「そのサラダバーってデザートも付いてんのか?」

って丸井が聞いてくるもんだから、付いてるって言えばさ〜…。

「それもうねぇの?」
「あるよ?」

無言で手を出してきた。よこせって事ですね、わかります。

「あげてもいいけど…私がバイトの時は絶対来ないでね?」
「なんでだよぃ」
「恥ずかしいからに決まってるでしょ!」

わかったよ〜って言ってたじゃないか!全然分かってない!寧ろ、敢て来てやったよみたいな顔してるよ。
丸井だけじゃなく、切原君と…え〜と、桑原君…だっけ?と、仁王と幸村君!!確かに無料券1枚で5人までいけるけど、テニス部ご一行様で、しかも幸村君が来るなんて!!なんか…丸井がいるのも緊張するけど…幸村君いるのも緊張する。なんだろう、別の意味で?見えない圧力的な何か?

「席、空いてね〜の?」
「…今、ご案内します。…5名様、6番テーブルご案内でーす!」
「「いらっしゃいませ〜」」
「いらっしゃいました〜」

小さな声で切原君が可笑しそうに言った。
席に案内して、人数分のお冷と食器を持っていった。

「ちゃんと店員してんだな」
「当たり前です。…バイトの時に来ないでって言ったのに…」
「お前がいつバイト入ってるか知らねえし」

そうですけど…教えてないですけど…。

「苗字さん、ここでバイトしてるんだ。偉いね」

おっとー!幸村君から労いの言葉をいただきました!

「それにその制服、よく似合ってるよ」
「えっ?!」

不意打ちです!幸村君にそんな天使な笑顔で言われたら…どう返したらいいの?!

「ねぇ、丸井もそう思うだろ?」

笑顔のまま、丸井にそう言った幸村君。

「まぁ…似合ってるんじゃねぇ?」
「!!」

似合ってる…と?!今、似合ってるって言ってくれた?!

「じゃあ、とりあえずサラダバー人数分と、俺は〜」

何事もない様に注文を言い始めた丸井。だけど、私の頭は花畑。注文をギリギリ聞き取り、顔があっついまま厨房へ向かった。
やばいやばい。めっちゃ嬉しい!嬉しすぎてなんか歩き回りたいどうしよう。

「…苗字」
「へっ?なに?」
「お前、何ニヤニヤしてんの?気味悪ぃんだけど」
「気味悪いってなによ!…でも許す。今気分いいから」
「え?何で」
「フフフ…」
「…やっぱ気味悪ぃ」

同じバイトの真崎君にどん引きされたけど、治まらないんだよ!さっきの丸井の似合ってるフレーズを思い出すと口角が自然と上がっちゃうんだよ。
よーし!バイト張り切るぞぉお!!



***



「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「おそろいで〜す」
「ごゆっくりどうぞ〜」

注文した料理を全部運んできたあいつはそのまま仕事に戻っていった。

「丸井の彼女、楽しい子だね」
「楽しいか?」
「あ、それ俺も思います!何か、見てて飽きないっスよね」
「そうか?」

まあ、確かに飽きはしなさそうだな。いっつも忙しない感じだし。

「仕事も活き活きしてて楽しそうだね」

笑顔で客に料理を運ぶ苗字。
確かに、楽しそうではあるな。バイトしてるやつは大体ダルいとか面倒だとか言うけど、あいつはそうでもなさそうだ。

「お姉ちゃん!スプーンください」
「あれ?スプーンなかったかな?ごめんね〜!ちょっと待っててね。…はい、どうぞ!」
「ありがと〜」

子どもにも体を屈めて笑顔で接している。ああいうの見てると印象良いよな。店員の対応悪いと料理美味くても行く気にならねーし。

「丸井先輩、彼女見すぎ」
「見惚れてるんじゃろ?」
「ばーか。んなんじゃね〜よぃ」

たまたまだよ、たまたま。
そう自分に言い聞かせて食事に集中する事にした。


***



「なあ、あの6番の客いるじゃん。あれって苗字の学校のやつ?」
「うん、そうだよ?それが何?」
「あの髪赤いやつ、すげぇな!デザートバー、尋常じゃねーくらい食ってる」
「あ〜、あいつの胃袋は糖分で出来てるからね」

真崎君が視線で指した先は丸井達が座ってるテーブル。時間制限のあるデザートバー。その時間ぎりぎりまで食べまくるつもりなんだろうな。デザートカップ、何個使ってキープしてるんだ。

「知り合い?」
「あ〜…同じクラス」

彼女だよ!って言いたかったけど…まだ、言い切れる自信はありません。

「ふぅ〜ん」
「……なんだよ、その顔は」

すっげぇニヤニヤしてる。目がニヤニヤしてる。

「お前、あいつ好きだろ?」
「えっ?!」

びっくりした。いきなりズバッと言われて言葉が何も浮かばないよ。

「だから今日のお前気持ち悪いのか」
「何で気持ち悪いんだよ!おかしいでしょうよ!」
「いつも以上に張り切ってるし、始終顔がにやけてる」
「…そんなに顔にでてるかな…?」

手で両頬をマッサージしてニヤけてるって言う顔をほぐしてみる。

「じゃあ、今日はあいつにいいトコ見せないとな!」
「お、おう!はりきるよ!!」
「じゃあ、ホールは宜しく」
「え、ちょっ、ふざけんなー!」

この時間帯にサボろうとかするなぁーー!!



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