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私達が戻る途中に木手君に会って見た事を話すと、もう一度その場所に行ってみると言って、森の奥へ進んで行った。
甲斐君は足怪我してるから、そのままロッジまで戻る事に。
ロッジの前に着いて、階段に甲斐君を座らせ足首をみた。
「足どう?」
「もう大丈夫だって。ぃやーが肩貸してくれたお蔭で痛みも引いたさー」
「そっか。よかった!でも、今日は無理しないでね?」
「わかったよ」
私は甲斐君の横に座った。怪我をした甲斐君を一人にする訳にもいかないし、なにより…私が…もう少し甲斐君と一緒に居たいと思ったから。
「ねぇ、甲斐君」
「ん?ぬーが?」
「甲斐君が首から下げてるのって、指輪だよね?」
甲斐君の胸元にキラリと銀色に光る指輪を指差して聞いた。
「おお、そうだけど。これがどうかしたば?」
「あ〜…彼女いるのかな〜っと思ってさ」
「彼女?!」
思いの外ビックリした反応をする甲斐君。私、変なこと聞いた?
「うっ、うん。…指輪持ってるから彼女とお揃いなのかなって思って…」
「違う違う!これはただの趣味!」
「あっ、そうなの?てっきりいるとばかり思ってた」
そっか…甲斐君、彼女いないんだ…。
「…そう言う苗字はいないのか?いきが」
「えっ?いきが?」
「…あー…彼氏…いるのか?」
「彼氏はいないよ!…それに今は…――」
「…今は?」
今は…人を好きになってはいけない…。…そう、そうだけど……。
言葉を止めた私を甲斐君が不思議そうに見てる。私は笑顔で顔を横にふった。
「…ううん、なんでもない!」
「…そっか」
2人、遠くに見える夕日を見た。
もうすぐ夕食の時間だ……その時間までは………このままで――
***
それから少しして木手君、平古場君が探索から帰って来た。
2人も帰って来たし、私は夕食の準備を手伝う為、食堂へ向かった。去り際に、甲斐君がまたミーティングの時にな…って言ってくれた。甲斐君から言ってくれたのは初めてだったから、凄く嬉しくて、食堂に着いた時準備をしてた辻本さんにどうしたのか?って問い詰められて大変だった。
私ってすぐ顔に出ちゃうんだな…。
夕食も終わって、比嘉中の皆も揃った。
景吾が中央に立ち、夕方のミーティングが始まった。
今日探索に行った人達の報告が始まった。
佐伯さんが灯台を、天根さんが海岸に打ち上げられたトランクに入ってた缶詰、不二君が鳴き砂の海岸。黒羽さんがサンゴ礁、亜久津さんが湖、ジローちゃんが温泉を発見した。
温泉入りたい!でもちょっと遠い所にあるから、気軽に行けないって聞いてちょっと残念…。
「それで比嘉中。お前らは何か見つけたのか」
景吾の言葉に体が少しビクッとしてしまった。
…木手君…何て言うんだろう……。
「そうですね…少々興味深いものを」
「ほう、何だ?」
「報告する程の事ではありませんよ。今は、まだ…ね」
「フン…含みのある言い方しやがって…まぁいい。これで全員だな。ミーティングは以上だ。解散」
私は静かにホッと溜息を付いて席を立った。
木手君…言わなかった。…今はまだ…言うときじゃない…って事?確かに、今言っても何の証拠もないし……でもこのままだと、どんどん状況が悪化しそうな予感がする。やっぱり…景吾に話した方がいいのかな…でも、…そしたら比嘉中の皆と……甲斐君と――。
「名前」
「ひっっ!…な、何?景吾」
「…何故そこまで驚く必要がある」
考え事をしてる時に急に話掛けられたら、多少なりとも驚くよ。まぁ、さっきのは自分でも驚きすぎだと思うけど…。
「べ、別に、なんでもないよ?」
「…そうか」
「で、何?」
「あぁ。ジローが探索で見つけた温泉があるだるだろ。日頃の疲れを取る為に、今から学校ごとに分かれて温泉を利用する事にした」
「あっ!いいねぇ、行きたい行きたい!」
「もちろんお前も連れて行ってやる」
この島に来て、体洗い流すのは水ばっかりだったから久しぶりにお風呂に入れるなー!嬉しい!
「辻本と小日向も呼んどけ」
「うん!勿論!…ところで景吾…」
「何だ」
「まさか…混浴とか言わないよね…」
「当たり前だ。温泉は2ヶ所ある。離れてるから心配するな」
だよね〜。榊先生の島だもんね…それ位は考えてるか。
「良かった。じゃあ、2人誘ってくるよ」
管理小屋へ行き、辻本さんと小日向さんに温泉に行くと話したら辻本さんは飛んで喜んだ。小日向さんも照れながら喜んでるみたい。私達はどんな温泉だろうと話をしながら用意を急いだ。
***
準備に結構時間かかっちゃったな…女の子なんだもん仕方ないけどさ。皆待っててくれてるかな?
私達が広場へ着くと、中央に比嘉中の3人が待っていた。
ミーティングでしか比嘉中と接した事がない辻本さんは、少し不安そうな顔をしる。
私が大丈夫だからって背中をポンと叩き、一緒に3人の下まで駆け寄った。
「木手君!平古場君!甲斐君!」
「やっと来ましたね」
私は一番最初に駆け寄って、後ろに辻本さん、小日向さん。
「あなた達は俺達の班と行く事になりました。本当は跡部くんの所と行くはずだったのですが、君達がなかなか来ないので、先に行ってしまいましたよ」
「あははっ、ごめんね〜。宜しくね」
「宜しくお願いします!」
「お願いします」
私の後に続いて頭を下げる2人。
「では、そろそろ行きましょうか」
木手君の後ろに付いて、私達は歩いた。
***
やっぱり日が落ちると真っ暗。結構見慣れた林の中も、こう暗いと怖いよね…。
「辻本さん、小日向さん大丈夫?」
「あっ、平気です!」
「大丈夫です」
「足元に気をつけてね。怪我したら大変だから」
「そう言ってる苗字が一番危なっかしいさー。ぃやー、どんくさいからな」
後ろを向いて言ってた私の横に、甲斐君が来て釘をさした。
「むっ、さっき足挫いた人に言われたくありませんよーだ!」
「あれは、ぃやーを助けたからだろ!」
「あれ?そうだったかな?」
「…ぃやー…」
「あはははっ」
「何してるんですか。早くしないと置いて行きますよ」
少し離れた所に止まって、木手君と平古場君が待っている。
私は辻本さんと小日向さんに声をかけ、木手君達のもとへ向かった。
「…足、もう治った?」
「おぉ。もう平気さ」
「そっか、良かった。……さっきはふざけたけどさ…」
「…?」
私は甲斐君の顔をみて小さく言った。
「…ありがとうね」
「……おぅ」
***
あれから少しして温泉の場所まで到着した。2つの露天風呂の間には、ちゃんと見えないように柵が作られている。
私達は分かれて、柵を挟んだ場所で着替えを始めた。
「わぁ〜、きもちいい〜〜〜!!」
「お風呂久しぶりですね!」
「温かいですね」
タオルを巻いて、ゆっくりと湯船に浸かる。温度もちょうどいいし、水平線が一望できるし、そらにはいっぱいの星。
「何か向こうから話し声が聞こえますね。楽しそう」
「本当だ」
「あたし、ミーティングでしか比嘉中の皆さんと接したことなかったけど、いい人達みたいですね」
私は辻本さんの言葉にうんと頷いた。
「それに…苗字さん。なんだか甲斐さんといい雰囲気だったじゃないですか?」
「えぇ?!」
辻本さんが私の横に来て、ニヤニヤして言った。
「隠しても無駄ですよ〜!だって、甲斐さんと話してる時の苗字さん、すっごく優しくて可愛い顔してましたもん」
「それ、私も思いました」
辻本さんと反対側に小日向さんがよって来る。
「えっ、そ、そんなことは――」
「認めちゃったらどうですか?…甲斐さんの事好きなんですよね?」
「――っ」
分かってた…多分、結構前からだよね――。
目を瞑って、想い描くのは…いつでも…甲斐君なんだ。好きになっては…いけないと思っていたけど…やっぱり、この気持ち――止めることなんて出来ないよね。
私はコクンと頷いた。
辻本さんと小日向さんが頑張れって私を励ましてくれた。
…でも、…頑張って……報われるの…かな?
私は空を見上げた。
「……星が…いっぱいだね…」
私の呟いた言葉に、2人も顔を上げた。
「本当だ…きれい」
「東京じゃ、こんなに沢山見れませんからね…」
「…ねぇ、2人とも『星に願いを』って曲知ってる?」
空を見上げたまま、2人に問いかけた。
「知ってます!音楽の時間でやりました」
「…あの歌を歌いながら願いを唱えると、…その歌が星まで願いを届けてくれるんだって」
「うわ〜、素敵ですね!」
「じゃあ、ちょっとやってみましょうよ!」
元気よく辻本さんが言った。小日向さんは少し恥ずかしがってたけど、3人手を取って目を瞑って…歌った――。
星よ―――
どうか、私の願いを――もっと…一緒に…彼と――
***
「なかなかいい泉質の温泉の様ですね」
「沖縄には温泉が少ないからなぁ」
「わん、天然の温泉に入るのは初めてさー」
服を脱いで、わったーは温泉に入った。この島に来て、温泉に入れるなんて思ってなかったさ。
「でーじ気持ちいいやっさ」
「よーし、一丁泳いでみるか」
「やめなさいよ、平古場君。温泉はゆっくりと浸かるものです」
「へいへい。誰も見てないのに永四郎はお硬い事で」
「不知火の奴はいたら湯の中に潜ってるんだろうな」
「ハハ、あにひゃーならやりそうだ。ついでに言うと、田仁志がいたら湯があふれちまったろうな」
「アッハハ、言えてるな」
そんな他愛もない話をしていたら、柵の向こう側から歌が聞こえて来た。
「…これは『星に願いを』ですね」
「苗字、じゅんに歌うまさよー」
「…だな…」
わんは、目を瞑ってその歌を聴いた。なんだか…聞いてるだけで、胸が高鳴るのが分かる。あにひゃーの歌は…じゅんに心地良い…。
「…裕次郎…聞き惚れてるさ」
「そ、そんな事ねぇよ!」
「隠しても無駄ですよ。君たちを見てればサルでも分かります」
「………」
わんは目の下まで湯船に使って、視線を反らした。
「まぁ、苗字はいい奴だしなー」
「甲斐君が惚れるのも分かりますね」
「ッ木手、まさかぃやー、苗字の事…」
「勘違いしないで下さい。そう言う意味ではありませんよ」
勢いよく顔を出したわんに、不敵に笑う木手。
わんは恥ずかしくなって、今度は頭まで湯船につけた。
「あははは、裕次郎がね〜」
「甲斐君…潜るとのぼせますよ…」
目を閉じると…水の戯れる音と…かすかに聞こえる苗字の声――。
その声が…わんを満たしてくれる…。
こんな気持ちになるなんて…思ってなかった。苗字に出逢えて――じゅんに良かったさ。
この合宿に…少しは感謝しても…いいかもな…。
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