16
今日の昼ミーティングは滞りなく終わった。
まぁ、またちょっと言い合いみたいなのはあったけど…。
「苗字くん。ちょっといいですか?」
ミーティングが終わり、席を立った時木手君に声を掛けられた。
「何?木手君」
「山菜図鑑とキノコ図鑑を貸して頂きたいんです」
「あー、採取に行くの?」
「ええ。ビタミン不足を補う必要がありますからね」
「じゃあ持ってくるから、広場で待っててくれるかな?」
「わかりました」
私は駆け足で管理小屋へ向かった。本棚に置いてある図鑑を1冊ずつ取って、また駆け足で広場へ向かう。
「おまたせ〜!」
「いえ。ありがとうございます」
広場に着くと、3人は既に揃って待っていた。
「さぁ!山菜取りにレッツゴー!」
「…まさか、キミも行く気ですか?」
「うん、勿論!」
「…はぁ〜…懲りない人ですね」
「まぁいいやっし、永四郎。手伝ってもらおうぜ」
「くぬひゃーも…わったーの仲間さ」
私の頭と肩に2人の手がポンと置かれた。
仲間――私は嬉しくて笑って木手君を見ると、彼も仕方ないと言う顔で行こうと言ってくれた。
***
森に入って数十分。少し開けた場所を拠点とすることにした。
「苗字。キノコ図鑑っての貸してくれ。わん、キノコ探すから」
「はい、どうぞ!」
図鑑を差し出された平古場君の手に差し出した。
「気をつけなさいよ、平古場君。我々はキノコに関してはシロウトなんですから」
「わかってるって」
「んじゃ、わんは山菜探すぜ。図鑑貸してくれ」
「はいっ」
「サンキュ」
「では、それぞれ手分けして探しましょう」
「はーい!」
3方向に分かれて森に入っていった皆。
…さて、私も食料探しに行きますか!!
私も皆の後を追って森の中へと向かった――。
***
…あっ、あそこにしゃがんでるの、平古場君だ。確か、キノコ探してるんだよね?
「平古場君、何か見つかった?」
「おー!苗字。見てくれ、見事な毒キノコだ!」
平古場君が指した先には、ピンクの丸い笠を被ったキノコ…。
「って、それもの凄く有名な毒キノコじゃない!採っちゃダメだよ!!」
「…んな、力一杯怒らなくても…」
「毒キノコは胞子だって危険なんだから。はいっ!手、洗って!」
私は持っていた水の入ったペットボトルの蓋を開け、平古場君に差し出した。
「へーい…ぃやー、怒ると怖いのな…」
「命に関わる事だよ!当たり前でしょ!!」
「わぁーった、わぁーった。わんが悪かったって」
「…もぅ…」
私がちょろちょろ流す水で手を濯いだ平古場君は、またキノコを探して別の場所に移動した。
…後の2人は何してるんだろう…?
「おーい、苗字!ちょっと来ちみ!」
少し離れた茂みの奥で甲斐君が手招きをしてる。私は足場に注意しながら甲斐君の下へ駆け寄った。
「何?何か見つけた?」
「うりっ、こんなもんがあった」
「…あっ、ワサビだね!」
「おう、野生のワサビってちっこいのな」
「でも凄く香りがつんとくるね」
ワサビを1つ取り、鼻先にもってきた。擦ってもないのに、ワサビの香りがして少し目にくる。
「…ワサビがあればお刺身が美味しくなるね」
「だるな。やっぱ刺身にはワサビがねーと。天然物は違うさ」
「よかったね。いいもの見つかって」
私は笑って持っていたワサビを甲斐君に渡した。
私も何か探そう!皆の役に立ちたいし!
甲斐君にまた後でって言って、私はいいものがないか歩きながら辺りを見渡した。
うーん…結構歩いたけど…何も見つからないなぁ〜。
そう思いながら歩いてた私は、ふと足を止めた。
「…あれ?…これって…」
「何かありましたか?苗字くん」
「あっ、木手君!うん、これゴーヤじゃない?」
「そんなバカな。野生のゴーヤーなど………ありますね、確かに」
鼻で笑ってた木手君が、目を丸くしてまじまじとゴーヤを見つめてる。
「やっぱりゴーヤだよね?採って帰る?」
「さて、どうしたものでしょうね」
「え?」
「ウチのメンバーはゴーヤー嫌いが多いのでね」
「あ〜、平古場君嫌いっぽかったね。甲斐君も嫌いなの?」
「ええ」
そうなんだ…甲斐君情報ゲットだね!
「しかし、ここでゴーヤーが手に入るとはね」
「多分栽培されてたのが野生化したんだろうね〜」
「…採って帰るのは止めて、このままにしておきましょう。必要になったら、…俺が採りに来ます」
木手君の眼鏡が白く光って、口元をニヤッとさせた…。
「…木手君…何か企んでるでしょう…」
「気のせいでしょう」
とか言いつつ、その笑みは明らかに怪しいよ!…ごめん、甲斐君…平古場君。私、余計なことしちゃったかも…。
「さあ、我々も採取の続きをしましょう」
「はーい!」
そう言って私と木手君は、それぞれ逆の方向へ足を進めていった。
***
ないなぁ〜。皆結構採って行っちゃったのかな?マメに採取行ってるみたいだし…何か〜〜何か〜…ん?…あれは!
「みーーつけた!」
私は一本の木に駆け寄り、上を見上げた。
「大きな声だな、ぃやー。何見つけたんば?」
茂みの中から姿を現したのは平古場君だった。
「ほら、バナナがあったよ!」
「おっ、マジかよ。バナナだ、本当に」
「何だ、何だ?」
「バナナがあったんですか?」
どこからともなく集まってきた甲斐君と木手君。
私…そんなに大きな声で叫んでたかな?
「大っきなバナナだね!」
「本当だ…」
「栽培されていたものが、そのままになっていたんでしょうかね」
「バナナとはいいもん見つけたな」
平古場君が私の頭を撫でながら言った。
「栄養・カロリーとも豊富です。これがあれば食事もかなり改善されます」
「量も多いさー。100本以上あるんじゃねぇか?」
「お手柄です、苗字くん」
「偶然だよ!」
「偶然でも何でも見つけたんだから偉いさー」
甲斐君が私の横に立って笑ってくれた。
よかった…皆の…甲斐君の役に立つことが出来て…。
「よし、わんがいっちょ登って採ってくる!」
「気をつけてね!」
「任せとけ!」
木に登った平古場君が落とすバナナを下で甲斐君がキャッチして木手君に渡してる。
…私も皆に採って行こうかな?食後のデザートに!
そう思ってちょっと離れた所にあった木の下に立った。
…うん!これ位の木なら私も登れる!昔はよく木登りしたしね。
私は腕をまくり、木に登り始めた。
「これだけ採ればいいでしょう」
「結構採れたな〜。凛!もういいぞー!」
「分かったさー!」
「…ん?彼女はどこに行きました?」
「えっ?……ってあそこさ!ー、おーい!苗字、何してるば!」
下を見ると3人がこっちを見上げてる。
「皆にも採って行こうと思って!」
「危ないですよ!」
「降りて来いよ!」
「大丈夫!昔は木登り得意だったんだから」
「いいから、早く降りて来い!わんが採ってやるから!」
心配そうに甲斐君が叫んでる。…大丈夫なんだけどな…。でも、ああ言ってくれてるし、とりあえず降りようかな…。
降りようと枝に足を掛けた時だった。枝が音を立てて折れ、私は足場を失った――
「うわぁっ!!」
「苗字ッッ!!」
後ろを向いたまま地面に落ちて行く私を下で待っていた甲斐君が受け止めてくれてた。
……ふぅ…なんとか助かった。
「ぃやー、大丈夫か?!」
「あっ、うん!大丈夫!」
「って、苗字、腕怪我してるさ」
「えっ?…」
平古場君が私の右手を指してる。
見ると、落ちる時に木でかすったのか皮が切れ、そこから真っ赤な血が流れていた。
「!!」
「結構深い傷のようですね」
「とにかく止血するさ!」
「ダメッッ!!」
「?!」
いきなり出した私の大きな声に驚いて、3人とも止まった。
「なっ、何言ってるば?」
「…大丈夫だから。触らないで……」
「大丈夫じゃあらんに!」
「いいから!!」
怒った様に言った私に、皆面食らって見てる。
「…大丈夫…本当に。…私、先戻るね」
「っっ苗字?!」
私はロッジに向かって走って行った。擦り切れた傷口をしっかりと押さえて――。
「どうしたんだ…あにひゃー」
「…彼女らしくないですね。…あんなに取り乱して」
「……」
呆然として、苗字の去った方を見てる3人。いったい…彼女に何が起きたのかと――。
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