※女体化





「おっはよー!朝だよー!起きてー!」
ある朝目覚めると見知らぬ美少女が私の上に乗っかっていた。お、重い。でかい。背の高い美少女、美女?がそこにいた。
「鍵……」
「何?」
 昨日の夜は自室の鍵をしっかり締めて一人で就寝したはずだ。職業柄防犯意識は高いつもりである。酒も飲んでいなかったしましてや女の子を連れこんではいない。私のベッドに寝転ぶ不法侵入の美女、誰なんだ。手足がすらっとして長くて、背がでかくて、170……180cm以上はあるかな、全部でかくて、大変にナイスバディで黒いタイトなワンピースが似合っている。顔はめちゃくちゃかわいい。ナイスバディとギャップのある童顔系だ。ロングの髪はさらさらで、純白で、睫毛までが真っ白で、大きな水色の瞳がこちらを覗きこんでくる。
「…………五条悟?」
「君のかわいいスイートハニー五条悟だよ」
 昨日までの記憶が正しければ五条悟は男性だったはずだ。私のかわいいスイートハニーでもない同僚の背がでかい男。背丈と、全体的な色味しか合ってない。我ながらよく気がついたな。当たってほしくなかったけど。嫌な予感しかしない。
「なんで……女の子……?になってるんですか……?」
「いや〜昨日の任務でヤバい呪具を手に入れちゃってね。封印する前に貰っちゃった。これなんだけど」
 頭部の無い人型の石像が布団の上に置かれる。ヤバいやつだ。手のひらにすっぽり収まるサイズのそれは禍々しい呪力を放っていた。この人なんでこれ持って平気な顔ができるんだ。
「なんか明治初期の邪教の遺産なんだって。両性具有神を崇めてたとかそういうの。とにかくこの呪具には性転換の作用があって、僕はこれを使ってグットルッキングガイからグッドルッキングガールになりました。具体的にどうやったかというと」
「分かったんでそれしまってください」
 美女、五条さんは適当にあしらわれて不満そうな顔をする。美人って目を顰めても美人だな。
「いや……分からないな……リスクとかないんですか?元に戻れるんですか?」
「リスクなんか僕にあるわけないじゃん。いつでも戻れるし」
「だからってなんでわざわざこんな悪ふざけを……他人の部屋で……寝起きドッキリなら教え子の男子高校生に突撃した方が面白くないですか?」
「すごいこと言うね。教え子に手出したりしないし。僕教師だよ?」
 腰まで届くロングヘアがかき上げられる。甘い匂いがした。わざわざ香水つけてきたのかな。メイクも。唇が透明なピンクで。どきどきしてきた。
「#name#が言ったんじゃん。五条さんが女だったらなって」
「えっ、私そんなこと言いました?」
「この前の飲み会で言ってた。#name#が酔ってゲロ吐いて潰れた時のやつ。五条悟が女だったらな〜って。タッパがデカくて金持ちでツラの良い女とか最高じゃん付き合いてえ〜〜って」
この前の飲み会の事は酔ってゲロ吐いて潰れたから覚えてない。私はそんなひどいことを言っていたのか?
 改めて五条さんの姿を見る。確かに私のタイプど真ん中だった。頭の中の理想がそのまま抜け出てきたみたいだ。背が高くてすらっとしてて、はっきりした顔立ちの女の子。滅茶苦茶な言動も、奔放なお姉さんって感じで悪くない。寝起きに押しかけてくるとか。奔放なお姉さんに振りまわされたい。五条悟の性格って外側が美女なら良いスパイスになるんだ。知らなかった。
「付き合ってよ。僕が女ならいいんでしょ?」
「つきあう?」
 目の前の五条さんは一転の曇りもない笑顔で笑っている。天才の戯れはよく分からない。わざとらしく長い脚を組み換える度に甘い香水の匂いがして気が狂いそうになる。
「あなたは五条悟でしょう」
「そうだけど」
「あなたは五条悟なんですよ」
「うん。だから何?」
「あなたは五条悟なんだから、ずっとそのままいられるわけじゃないんですよ。今にも新しい任務が、五条悟にしかできない任務があったらすぐに元に戻って現場に出向かなきゃいけないんです。ずっとそのままいてくれるわけじゃない。あなたは魅力的ですよ。でもすぐに消えてしまう人とは一緒にいられない。ずっとあるわけじゃないものを見せびらかしてからかわないでください。……その、以前の私の言葉が気に障ったのなら謝ります。撤回します。だからもう」
「えっ?別にずっとこのままでいいよ?」
「えっ?そんなわけないじゃないですか」
「ここに来る前に試しに特級の任務受けてきたけど問題なかったよ。呪力操作も違和感なし。身長はほとんど変わってないから身体操作もすぐに慣れた」
 あっさりと言う。天才って天才だなあ。
「五条家が大事な跡取り息子を手放すと思いますか?」
「僕の意思が五条家の意思だから。まあ干渉がめんどくさかったら次の跡取り作ればいいじゃん。男の僕は嫌いなんだったらこの呪具で#name#の方にちんちん生やして僕が産めば解決。そういうのもできるんだよ」
「待って待って待ってこれ以上情報を追加しないで」
 頭を抱えた。
「もしかして本気で私と付き合いたいんですか?」
「だからさっきから言ってるじゃん」
「なんで……」
「好きだから」
「好き!?」
「好きだよ」
「初耳です」
「今初めて言ったからね」
 あれだけ上機嫌だった五条さんは黙って目をそらしてしまった。ビスクドールのような頬が僅かに赤く染まっている。睫毛が長い。瞬きの音が聞こえそうだ。
かわいい。甘い匂いがする。私たちはいったいどうなってしまうんだろう?


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