「もう全部嫌だ」
道端に座りこんで項垂れる加茂憲紀を前にして、#name#は笑った。
「加茂がそんなこと言いだすとかやっぱマジで終わりかなこの国」
「君ならどうする?これまでの自分の行いが信じられなくなって、これからどうすればいいか分からなくなった時に、君ならどうするんだ」
「とりあえず立って、もう行くよ」
「……」
「うーん、酒かなあ」
「酒?」
「そうなっちゃったら飲んで忘れるに限るよ」
「君は未成年だろう……」
#name#は加茂の腕を引っ張りあげて立たせる。
「どうせ真希と合流するまでに腹ごしらえしなきゃだし。この辺まだインフラ生きててよかったね。あっちにコンビニあったよ」
#name#は加茂の手を引いてコンビニまで歩いていく。
「酒と、つまみは適当でいいや。私の分もよろしく。千円あげる。お釣りとっといていいから元気出して」
加茂は手に握らされた千円札を持って覚束ない足取りでコンビニに入店し、十五分ほどで店から出てきた。
「手ぶらじゃん」
「売ってもらえなかった……」
「え、制服のまんまじゃん。じゃあ無理だよ!脱ぐんだよそれを!」
「なるほど」
「しゃあねえなあ、貸して」
#name#は千円札を取り戻して、代わりにコンビニに入っていった。
五分ほどが経過して、レジ袋を提げた#name#が店から出てきた。
「買えた買えた。つまみチキンでよかった?さっきの公園に座るとこあったよね。一杯やろうぜ」
二人はコンビニへ行く途中で通り過ぎた公園へと引き返す。
ベンチを見つけて横並びに座る。頭上の木々は赤と黄色に色付いていた。
#name#は袋からワンカップを二本取りだした。
プルトップに指をかけて蓋を開け、一本を加茂に手渡す。
「乾杯」
ワンカップの瓶は鈍い音を立てた。
「あ〜これこれ、これよ。寒いし熱燗ならもっと良いんだけどねえ」
加茂は慎重に日本酒に口をつける。
「お酒飲むの初めて?」
「初めてだ」
「どう?」
「どう、とは」
「なんかこう、酔ってきた?」
「よく分からない。少し暑くなってきたような気はするが、あまり大きな変化はないな」
「けっこう強いのかな。つまみあるよ。さけチもあるから。ゆっくり飲もうね」

#name#はホットスナックのチキンを齧る。
「真面目だよね加茂は。悪いことする気分はどうだい」
「悪いこと」
加茂は独り言のように繰り返してから、くつくつと笑った。
ワンカップは半分まで減っていた。
「意外と笑い上戸?」
「そうかもしれない。なんだか気分がよくなってきた」
「いいじゃん」
「いいな。もう、どうでもいい」
「いいじゃん。その調子だ。元気だして」
#name#は袋からペットボトルを取りだした。
「お水あるからね。お酒を飲んだらおんなじ量の水を飲むんだよ。そしたら悪酔いしないから」
「分かった」
加茂は冷えた水を飲んで、また少し笑った。
「元気でてきた?」
「うん。元気だ。気分を入れかえて……私は頑張るから……」
「だから頑張ったらだめなんだって。ほらお水もう一口」


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