抜けたパズルのピース


恭也の目を通すと、こんなに綺麗なものが見えるんだ。

初めて逢った時、恭也だけが違う光に包まれてた。


……村の奴らとは違う、暖かい光。



世話係と家族以外とは接することが禁じられてい彼女にとって、彼のその光はとても眩しく見えた。


訳分かんないよ、と恭也は優しく笑って見せる。


そんな笑顔を向けられたのは初めてで、胸が高鳴るのを感じた。
この気持ちは何だろうと思いながら彼と行動を共にしている内に、その存在はどんどん大きくなっていった。

しかし彼女は神の花嫁として、いつまでもこうしていられるはずはなかった。


全部、消して!
この村も、あいつらも全部……!



そう叫ぶ彼女の声を聞きながら恭也は飛び起き、辺りを見渡す。

「……美耶子ッ!」

どうやら夢でも見ていたようで、目を覚ましたのは荒廃した村の中にある小屋の中だった。

その夢はここに来てから狂ってしまった、俺の運命のように救いようのないもので、思わず彼女の名前を叫んでしまった。

そして気付く。

それでも、全ては終わった。

だから、神の花嫁として捧げられた美耶子は居ない。

もう二度と会えないのだと恭也は力なく項垂れていると、ふと声が聞こえた気がした。


『恭也、私はここに居るよ』


それは幻聴だったかもしれないし、あるいは空耳であったかもしれなかったけれど、確かに聞こえたのだ。


『ずっと、傍に居るって約束したから』


顔を上げると美耶子がそこにいて、微笑んでくれていたような気がした。

「美耶子……居るのか?」

恭也には見えていないようだが、彼女はしっかりと彼を見つめている。

『居るよ。だから心配しないで。いつでも、恭也と一緒だよ』

安心させるように優しく言うと、彼は嬉しそうな顔をしていた。

それを見て美耶子は思う。


あぁやっぱり私達は似ているな、と。
姿形は違っても、心の在り方が似ている。


それが何だかとても心地良かった。

「……美耶子、ありがとな!」

少し照れ臭そうに素直な感謝の言葉を口にすると、彼女は笑っていた。


『恭也……私も、嬉しかった。あの時私の手を取ってくれたこと、一緒に頑張ってくれるって言ってくれて』


そう言ってくれた彼女に恭也は、ただ黙ってその話を聞いていた。
その言葉の一つひとつが胸に染み込んでいくのを感じながら。


『ありがとう』


そう言った彼女の声音はどこか寂しげで、恭也はその言葉を噛み締めるように受け止めると力強く応える。

これから先どんな苦難があっても二人で乗り越えようと誓い合うかのように。

「美耶子……これからも、俺と一緒に居てくれよ!」

真剣な眼差しを向ける彼に、美耶子は一瞬驚いた表情を見せた後すぐに笑顔になり、答える。

『うん。ずっと一緒に居るね』

すると恭也は背中に温かな何かを感じると同時に、傍にいるであろう彼女が今まで以上に愛おしくなった。


そして彼は前を向き、煙が燻る村を勢いよく駆け出した。


決意を新たにする彼の目には強い意志が宿っており、迷いなど微塵もなかった。


全てを終わらせる彼の闘いは、始まったばかりだった。



例え、カタチが無くても
例え、見えなくても
一緒だと誓った時から、二人は独りぼっちじゃない。


迷う時はピースを埋め合わせるように、ゆっくり歩いていけばいい。



もし進めなくなったら、そう、約束を思い出して。







fin.

----------
この二人には、爽やかな恋が似合うと私は思う。




- 2 -
← prev back next →