箱庭の薔薇とペンギン


目を閉じていても分かる、永井の匂いや仕草。


ここまでになった俺は、狂っているのか……これが普通なのか。



いつも、少しの背徳感と大きな快楽の波間に二人は揺れて愛は深まって行く。

そんな、愉楽とも悦楽とも取れないような感情が、胸に渦巻く。


それと同時に、抜けられない罠のような底無しの沼のようなものが足枷となって、自由を奪われる。



でも、決してこれを悔いている訳ではない。


これが俺たちの愛なのだから……例え許されないことでも。








「うぅ、寒い……」


そう言いながら、肩を縮こまして体を摩っている永井。

暖房をつけているとはいえ今年の厳冬は予想以上にキツいようだった。


「寒いか?」


「寒いですよー」


と言いながら、俺の隣にすり寄ってくる。

まるで、猫みたいな可愛い小動物だ。


そうなると、邪な考えも健全ならば出てくる訳で。



「じゃあさ、永井……」


ずいっと横に身を乗り出し、下から隣に居る永井の顔を覗き込むように顔を近付ける。


「な、何ですか?」


怯えたような顔色に変わる。

こういう表情を向けられると、余計に攻めたくなる。


「こうすれば良いんだよ……」


言い終わると永井の薄く色付いた形の良い唇へと自分の唇を重ねる。


「んっ……」


永井の口の端から、甘い吐息が漏れる。


優しく永井を押し倒して、更に激しく口付けを落としていく。

口内に舌を入れ、閉じられた歯列をなぞって行く。
すると、受け入れたのか口が開かれていく。


すかさず、永井の舌を絡み取る。

絡めると逃れようとするが、そう簡単に逃がしてはやらない。


無理矢理永井の後頭部を手で押さえて、より強く吸う。



その時には、もう抵抗する様子は見られなかった。


「んっ……ぅん」


苦しそうな声を出し、俺の服を弱々しく掴んできた。

目には、生理的な涙を浮かべている。


唇を離してやると、二人の唾液が混じり合ったものが永井の口の端から流れる。


「苦しかったか? ……ごめんな」



「はぁ、はぁ……だい、じょうぶ……です」


紅く染まった頬に、潤んだ熱っぽい目。



何かに反するような感情が合わさり、殊更俺を煽情してならない。

相手が求めてくるならば、其に応える。


当たり前のことが、欲望に因り当たり前の意思で無くなり本能と化していく──。


俺は永井の邪魔な衣服を取り払う。


普段から日に晒されない服の中の肌は、眩しい位に白かった。


今すぐにでも犯してやりたい感情を抑えて、胸の飾りへと吸い付く。



「……ひゃっ! あっ……いゃ」



声に構わず、胸の中心の豆粒を不規則に転がしたり舌を尖らせ潰したりして、空いた手でもう片方を弄っていく。


時折、指で弾いてやる。


「……んぁっ! 沖田さんっ」


すると、さっきよりも格段に甘美な声になった。



何もかも麻痺したような錯覚に陥った気分だった。

脳内麻薬のようなものに身体を攪拌されているような。


頭に霧がかかって、ぼんやりとしてくる。



そこで、口を離す。


露になったのは幼さの残る顔立ちに濡れた艶っぽい唇、俺より華奢で無駄の無い細身の身体に、俺に吸われて咲いた紅い華。



「沖田さん……?」



そう言いながら小首を傾げる永井。



その仕草が、どれだけ俺を欲情させているのか、自覚はないのだろうか?


まぁ、永井に限って自覚アリなんて事は無いのだろうが。





そうすると、益々歯止めが効かなくなる。


「……永井、お前感じてんのか? ここ、キツそうだけど?」


そう言うと、ズボンの上からでも分かるまでに主張している永井のソレを優しく掴む。


手のひらに包むと、とても早く脈打っているのが感じられる。


「んっ……!」


「随分と硬くなってんじゃん」


自分でも、段々と口角が上がっていくのが分かる。


「キツいだろう? 脱がしてやるよ」


俺は永井のズボンへと手をかけ脱がす。


グレーの下着は膨らみを持ち、先程からの刺激で先走りが出て染みを作っていた。


「こんなに濡れてるぞ……」



敏感な先端を指で押す。


「だ、だって……んあぁッ! ……おき、たさんが」


下着をずらすと、熱を持った永井自身が現れた。

ソレは、引き締まった永井の下腹部に付きそうなくらいに反り立っている。
上へ行く程赤みを帯びて、一筋また一筋と白い液体が下へと流れていく。


「あ、ぁ……」



限界なのは見て分かった。

そして、唾液を溜めた口にその肉棒を含む。

始めは、裏筋を優しく舐めとっていく。


先走りの汁が垂れていて、何とも言えないような輝きを放っている。


舌で先端を押してやると悩ましい声を上げ、背中を反らしながら腰を浮かせた。


その反動で丁度口の奥に当たり、永井は半身を捩った。



「ぃやあッ! ……沖田、さんっ」


そこで先をつつきながら根本を持ち上下に動かすと俺の頭を押さえ、より激しく求めた。


それに応えて、更に激しく上下運動を続けていく。



室内には暖房と自分達の欲望の熱気が篭り、ジュプ……ジュプと厭らしい水音が響く。




「ぁんっ……も、ヤバイです……! んんッ! いゃッ……イ、キそうで、すッ」


両手で俺の頭を強く押さえ、何とも言えず苦いものを目一杯口の中に吐き出した。

そうして間も無く口のなかはドロッとした粘液で一杯になるが、すぐにそれを飲み込む。



肩を上下させ、荒々しく息をする永井を安静にさせるべく横にさせる。









ようやく落ち着いたのか、永井が口を開く。



「ご、ごめんなさい……」


しかしそれは、謝罪だった。


「口ん中出したのは、気にするなよな。若いってこった。でも、俺の方こそ……ごめんな」



衝動というか本能的にしてしまった為かどうしても善行とは言えず、謝らざるを得ない。



「そんな。沖田さんだから……良いんですよ」


「そうか、ありがとな」


「いいえ。逆に……嬉しいですよ」



そう言った永井は、恥ずかしそうに赤い顔を伏せた。それがまたなんとも言えず、可愛かった。





「じゃあ、第2ラウンドでもいくか?」



「え? ……えええぇぇーっ!!」







確かに俺達の関係は、壊れてしまえば直ぐにバラバラになってしまう。


そんな風に不安定で覚束無いようなものなのかもしれない。

でも、それ以上に俺は永井を愛している。


それは、堅実であり堅固な事実だ。





そして俺は、この幸福な時を後悔してしまわないようにただただ願い、今や腕の中で俺の体に顔を埋めて静かな寝息を立てる永井の柔らかな髪に優しくキスを落とした。







fin.




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