嘘つきの味方
あれから藤田氏に有無を言わせず、拘留され事情聴取された。
あの人は私が津守家の養子に入った小夜さんに似ている子供としての認識しかなかったからな…
おかげで、未来から来たなど信じられるか!と言われてしまった。
藤田氏曰く、陰陽師はこの時代には存在していないと言うし…この時代に陰陽師がいないなら現代の芦屋や土御門はなんなのだ、という話だ。
可能性としてありえるならば、この世界自体が私の居た世界とは別の世界。所謂平行世界、というやつなのではないだろうか。
または、陰陽師が世間から姿を眩ませているとか。
だが、その必要性が理解出来ないし謎だ。
ちなみに、翠さんは私が藤田氏に連れてかれる時に非難はしたが権力には叶わず…といったところだった。
そんな回想をしている私は絶賛逃走中である。
埒が明かないし、カツ丼が出てこないのは取り調べではない!と式神を駆使し逃げてきた次第だ。
そうえば、私が藤田氏に尋問されてる間にミケは何処かに行ってしまった。
全く、薄情な奴だ。
にしても…
「此処は何処なの、」
私は式神のトラに跨って何も考えずに突っ走ってきてしまった…今では自分のいる場所さえ分からない。
リポートするなら何方様の屋敷の屋根の上といった感じか。
式神であるトラは常人には見えない。
だから、人目を避けて移動する必要があった。
そもそもトラが視えたらそれはそれで問題なのだ。
だって、トラは文字通り寅だから。
「トラ、ありがとう。」
彼の背から下り、やや大きめな通りへ出た。トラには私の式神が待機する異界へと戻ってもらった。
この通りは繁華街なのだろうか。
やけに夕方だと言うのに人が多い。
とりあえず、人の波に合わせて歩いていると見たことある鳥居が目に入った。
それは現代で神楽坂を歩いてる時に見つけた神社で名を赤城神社という。
この神社の境内にはサビ猫が居たのでよく覚えている。流石に現代に比べてお社は古くない。
夕焼けに照らされた鳥居がなんとも幻想的で、思わず境内へと足を踏み入れた。
参拝すれば、現代へ戻れたりしないだろうか…と思い、賽銭箱に現代の五円を投げる。お賽銭に五円を投げるのはご縁がありますように、という意味だ。他にも語呂合わせで色々あるとか…
二礼し柏手(かしわで)を打ち、願を掛けたあとまた一礼して振り返ると振り袖に身を包んだ大層美人なお姉さんが此方を見ながら目を見開いていた。
待て、こんな美人なお姉さんの知り合いは私にはいないぞ…
「お前さんは…!」
勢いよく掴みかかられ揺さぶられ、挙げ句の果てに抱きしめられた。
心の隅で、藤田氏の追手かもしれないと思っていたが杞憂だったようだ。
美人さんからの抱擁は嬉しいが、まず一言問いたい。
「あの、どちら様ですか?」
その言葉に我を取り戻したように美人さんは揺らす手を止めた。
「いきなり悪かったねぇ…倒れていたあんたを拾って翠に届けたのはアタシなんだよ。」
その言葉に翠さんと初めて会話した時のことを思い出した。"知り合いが貴方が赤城神社に倒れているのを見つけたのよ。私の亡くなった娘に似ていたから思わず連れてきたそうよ。"
つまり、その知り合いとは目の前にいる美人さんのことだった訳だ。
「でも、あんた翠のところに養子に入ったんだろ?なんで神楽坂にいるんだい。」
確かに津守邸から神楽坂までは歩いていけないことはないが、決して近い…と表現出来る距離でもない。
「実は藤田氏に追われて逃げてきたんです。」
美人さんが藤田氏のことを知っているか分からないが、これは事実だ。
「へぇー!あんた、あの藤田さんから逃げてきたのかい。一体何を仕出かしたんだ?」
どうやら藤田氏は有名人らしい。
に、しても今男の人の野太い声が途中から聞こえたような…不思議に思いつつ周囲を見渡すが周りに男の人はいない。小首を傾げながらも問いに答えるべく口を開いた。
「私はなんもしてないんですよ?なのに、いきなり事情聴取されたんです。」
だから逃げてきちゃいました、と苦笑いしながら冗談目かしに言うと美人さんは私の肩に手を置いた。
「あんたも大変だったねぇ。アタシも藤田さんには何度かお世話になったことあるから分かるよ。」
ということは美人さんも何度か藤田氏に捕まったことがあるのか。
いや、だがこの美人さんが罪を犯すようにも見えないしナンパか…?
「それよりあんた、そんなんじゃ翠のところ戻れないんだろう。どうするつもりだい?」
そう言われて思わず言葉に詰まる。
そもそも養子になったのも野宿を避けるためだったのではなかっただろうか。
これでは本末転倒ではないか。
その様子を見ていた美人さんはため息を吐いた後に、やっぱりな…と呟いた。
「あんたさえ良ければ、アタシのところに来るかい?」
「……ご迷惑でなければお邪魔させて頂きたいです。」
野宿はごめんなのだ。
美人さんの好意に甘えさせて頂くことにしようではないか。
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