ほしまつり
それは、あくる日の探偵社での出来事であった。国木田さんは社長に頼まれた仕事のために、席を外しており、私と太宰さんと敦君と事務員が数人居るという状況であった。国木田さんが居なくなった途端に書類作業をやめ、ニヤリと笑った太宰さんはおもむろに懐から出したそれを敦君に渡した。
「敦君、これを被りたまえ。」
「太宰さん、これは……鬼の面ですか?」
彼が渡されたのは、いわゆる赤い顔に角が生えた赤鬼の面であった。
「はい、六花ちゃんは豆ね。」
「若(も)しかして豆まきですか…?」
私が渡されたのは升に入った煎り大豆だ。鬼に豆といえば、勿論思いつくのは豆まきである。
「そういえば、今日は2月3日…!節分ですね。ということは僕が鬼、ですか?」
「そう!敦君は虎の能力者だろう?鬼のパンツは…」
そこで言葉を切った太宰さんの意図することに敦君と共に苦笑いするしかなかった。
「虎柄ですね。だから敦君が鬼というのは、いくらなんでも可哀想なのでは?」
新人になんでも無茶振りするというのは、お人好しの敦君では振り回されるばかりで、見てるこっちが可哀想に思えてくる。むしろ、言い出しっぺの太宰さんが鬼をやるべきではないのだろうか。そう思いながら、口にすれば「それなら、六花ちゃんがやってみる?」とこちらに振ってきた。もちろん、その言葉には表情をしかめたのは仕方ないことだろう。
「だ、大丈夫です、六花さん!僕が鬼をやりますから。」
そう言って敦君は鬼の面をした。鬼の面からはみ出す白い地毛が余計に鬼らしさを醸し出している。意外と適役なのかもしれない。
「どうですか?」
「ふむ、思っていた以上に似合っているようだね。じゃあ、いこうか。鬼は外!」
遠慮なく敦君に豆を投げる太宰。自分が鬼になるのは嫌であったが、だからといって敦君に豆を投げつけるほど私も薄情ではないつもりである。だから、私は振りかぶって太宰に向かって思い切り投げた。
「福は内!」
「ちょっ、六花ちゃん!?なんで私に向かって投げるんだい、鬼は敦君じゃないか!」
「太宰さんの陰(おん)を祓おうと思いまして。」
そもそも、鬼自体が邪気の象徴とされており”おに”という日本語そのものが”陰”に由来しているのである。
「二人が無病息災でありますように。」
2017.2.3
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