01


「王家の墓展ね…」

招待状を眺めながら、溜息をつく。
たまたま仕事でエジプトに来ていたらリードコンツェルン主催の王家の墓展に招待された。リード家の長子であるライアン・リードは我が幼馴染み殿である。もっとも、私が正十字騎士団に入ってからは仕事に忙殺されているため疎遠になりつつあったのだが、彼は何故此処に私がいることを知っていたのだろうか。あれか、金の力か。

「行けば良いじゃないですか、久しぶりに会う幼馴染みなんでしょう?」
「フェレス卿、そうは言っても私はバチカン本部からの命で此処に居るんですよ?」
「仕事は終わったのだから問題ないでしょう☆貴女もたまには休息を取るべきですよ。」

そう押し切られ、結局会場へと足を運ぶことになってしまった。リード家の人々に会うのも何年ぶりになるのだろうか…元々、うちの父がリード氏と仲が良かったのと長子であったライアンと同い年ということもあって幼馴染みとして小さいころはライアン、ロディ、キャロル達と共に過ごしていた。しかし、その平和な日々はある日突然終わりを告げた。

中学三年生の時に悪魔に両親が殺されたのだ。何故、悪魔に狙われたのか…それは一部の悪魔を使役することが出来る血筋の人間だったから。そして、私が先祖返りとしてその血を濃く受け継いでしまっていたから。私にも両親にもそんな自覚はなかったが、悪魔から見れば一目で分かる匂いのようなものが、血にまとわりついているということを後にフェレス卿に聞いた。魔障を負って悪魔が視えるようになってしまった私は悪魔に対抗する術を得るしかなかったのだ。両親が殺された時は無意識のうちに、自分の味方となる悪魔を召喚していたが今では手騎士としてちゃんとコントロール出来るようになった。私が祓魔塾で取得した資格は騎士(ナイト)、手騎士(テイマー)そして医工騎士(ドクター)の三種類を取り祓魔師(エクソシスト)となった。このことはもちろん、リード家の人々は知らない。現在、私は祓魔師とに専念して家業の老舗紅茶メーカーとしての面は叔父に任せているからノータッチである。

入り口で招待状を見せ、中に入ると多くの人で混みあっていた。今日の王家の墓展は確か、リードコンツェルンが融資した結果ファラオの墓を見つけたのを記念してだそうだ。こちら側に足を踏み入れてしまった人間としては古代のものには呪いやらかかってそうなのによくやるなぁ、と思ってしまう。悪魔の起源は知らないが、その時代から存在していてもおかしくはない。もっとも、私が所属する正十字騎士団はバチカンに本部が存在する時点で起源はお察しである。古代に関する記録はないのだ、結成されたのが紀元後だから。実際、今回王家の呪いといわれリード氏も発掘の後にコブラに噛まれ亡くなったというから、とても哀しかった。妹のように可愛がっていたキャロルも同様にコブラに噛まれたという。

「レイ姉さん!」

その声と共にばふっ、と効果音がつきそうな勢いで金髪が映える彼女が飛びついてきた。生憎、この程度で倒れるような柔な鍛え方はしていなかったのが幸いした。

「久しぶりね、キャロル。相変わらずのお転婆みたいで。でも元気で良かった。」
「…全くだ。キャロルもレイを見習ったらどうだ?」

後ろからついてきたライアンがそういう。挨拶のハグをしたあと、キャロルに引っ張られ本日の目玉であるファラオの棺の前に連れ出された。でも中身は発掘したあとに盗まれたらしい。

「これが古代ファラオの棺…」

ガラスケース越しにそれを見ると、何やら黒い靄が絡み付いているのに眉を顰めた。これは、呪い、なのか?だが呪いが視認出来るというのはあまり聞いたことがない。そう悩んでいると鈴の音のような声が聞こえた。

「キャロル、その方は?」

緩慢に振り返るとその姿に驚いた。いわゆる古代エジプトの衣装を纏い、当時の髪型を再現しているせいか、まるで古代から現代に迷い込んだ女性のように見えたのだ。だが、独特な雰囲気にはっ、とした。先ほどの靄と神主などが身に纏う清廉さとがいり混じっているのだ。

「アイシス!こちらはレイ姉さんよ。」
「レイ・セヴェールよ。キャロル達とは幼馴染みになるわ。」

美しいながらも、何処か値踏みするような、同時に懐かしむような視線に戸惑う。彼女は一体、何者なんだ?

「はじめまして。わたくしの名はアイシスと申します。よろしくお願いします、レイ」
「よろしく。」

私の第六感はよろしくないと訴えているが。彼女と握手を交わした。

「私はまだ案内が残っているので失礼しますね。」

そう言いアイシスはその場を去った。彼女はどうやら、この展覧会で主賓の接待する役を貰っているらしい。あの容貌なら納得だが。キャロルもどうやら婚約者と周ることにしたらい。

「レイ、ぼくが案内しよう。」
「社長殿は忙しいんじゃないの?」
「君を案内するぐらいの時間は取れるさ。」

こういうキザなことをサラッというところが我が幼馴染み殿なんだよなぁ…いや、フェレス卿やエンジェルも言いそうだけど。

「じゃあ、頼もうかな…」

ライアンとこうして共に歩くことなど今まであっただろうか。いつも後ろからキャロルとロディに追いかけられていたから、こうやって歩くのは初めてかもしれない。

「レイは今何の仕事をしてるんだ?家業の紅茶は叔父さんに任せているんだろう?」
「んー、先生かな?」

フェレス卿に頼まれて最近まで、日本の祓魔塾で先生をしていたから間違ってはいない。

「レイが?」
「そう!教えるのって大変よね。」

そう言いながら人混みを歩いていると、殺気を上から感じた。驚き、上を見上げればアイシスが剣をライアンに向って落とすのが見えた。なぜ、アイシスが?と疑問に思ったが迷ってる暇はなかった。

「危ないっ!」

此処で魔剣を召喚するわけにはいかないので、ライアンを突き飛ばした。剣が多少掠ったが問題ない。

「レイ!?」
「掠っただけよ…」

にしても、まずいな…流血は。
すでに魍魎(コールタール)の数が増えている。小声でオロバスを喚び、辺りの悪魔を一掃して貰った。

「すぐ病院に…!」
「一人で行くから大丈夫よ。ライアン、貴方は仕事を優先して。」

だが、と言葉を濁す彼を制した。この展覧会の主催者が抜けるのはまずいだろう。止血をしながら、会場を後にした。アイリスのことが気にかかったのでオロバスを置いていった。
ALICE+