02
適切な処置をして、とっていたホテルに戻りベッドで横になっているとオロバスが戻ってきた。血相を変えて捲し立てるように言う彼に驚き、ベッドから上体を起こした。
「レイ!キャロル嬢が消えた!」
消えた……って、どういうこと?誘拐された、とかならまだ分かるけど。言われた意味を把握しかねていた。
「あのアイシスという女子が連れ去ったのだ!あれはこの時代の人間じゃない。」
「つまり、キャロルは違う時代に連れ去られたの…?」
そうオロバスに問いかけていると携帯が鳴った。着信はライアンからのようだ。平静を装おって電話を取った。
「レイ!君のところにキャロルは来てるかい?」
「いいえ、此処には来てないわ。そんなに慌ててどうしたの?」
「キャロルが行方不明なんだ…!」
その言葉にオロバスの方を見る。
「ライアン、私もキャロルを探すわ。だから無理はしないで。」
そう言い、携帯を切ったあとどうするのが最善かベッドに腰をかけ考える。いくら現代で捜索してもキャロルは戻らないのだろう。アイシスがライアンに向かって剣を落としたのも見間違いではなかったわけだ。彼女は一体何者なのだろうか。
「オロバス、貴方の力でキャロルがアイシスに連れて行かれた時代に行くことは可能なの?」
「…不可能ではないが、私一人の力で確実にその時代に行けるとは限らない。」
その言葉に爪を噛む。確実に行けなければ意味がないというのに。机の上にライアンへの書き置きをしたあと、椅子にかけてあった騎士団のコートに袖を通し、一度部屋から出てから自室の鍵穴に配給された鍵をさして回した。この鍵を回すことによって、どこからでも正十字騎士団の日本支部へ行くことが出来る。コツコツとヒールを鳴らしながら正十字学園の理事長室を訪れた。
「フェレス卿、」
「何やらとても面白いことが起こっているようですね☆貴女は此処に何を求めにきたんでしょう?」
後ろを向いて椅子からぐるり、とこちらを向き彼はそういった。いつもの道化師のような口調だが、その昏い瞳に息を呑む。相変わらず情報がいくのが早いようだ。こちらの目的も全て把握しているのだろう。
「幼馴染を探したいのですが、力を貸して頂けませんか。時の王、サマエル殿。」
そういうと目の前の男は立ち上がり、ふはははと笑い声を上げた。正十字騎士団の名誉騎士、メフィスト・フェレスは虚無界(ゲヘナ)で二番目の力を持つ時の王サマエルである。気が付いた時には間を詰められ、顎をぐいと上げられ至近距離にその顔があった。
「貴女は代償として何を私にくれるのでしょうか?貴女の幼馴染のキャロル嬢は今から3000年前の古代エジプトに連れて行かれたようですからねぇ。代償は大きいですよ?」
悪魔に願いを叶えて貰うためにはそれ相応のリスクが付きまとう。だからこそ、自分の使役する悪魔にとて油断をしてはいけないのだが…今この状況での最善は目の前の悪魔に頼むことだった。早くキャロルを追わなければ、取り返しの付かないことになるかもしれない。
「何なら良いんですか…」
「ふふ、そう警戒なさらずに。そうですねぇ、貴女の極上の血を頂くのはどうでしょう?」
「それで聞き届けて頂けるなら。」
「契約完了ですね。」
では、失礼しますよ…そう言い、私の着ていたシャツのボタンを何個か緩め、人間にはあるはずがない牙を首筋に穿った。ぷつり、と牙が肌を破る音が耳を掠めた。そして流れる血を啜られる。まるで、悪魔ではなく吸血鬼ではないかと思ったが吸血鬼のように痛みを麻痺させられる訳ではないから非常に痛い。献血をされている気分だ。じゅるり、と最後に吸い付いたあとにサマエルは顔を離し、傷口をひと撫でしあとに胸元の紋章に手を当てた。
「ソロモンの力を継ぐ者の血は格別だ。お代は頂きました。さぁ、貴女を3000年前の古代エジプトへ誘いましょう!」
そう言ってパチリと指を鳴らしたあと、私の視界は暗転した。
『これでルシフェルの目を誤魔化せれば良いんだがな…』
ALICE+