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彼女は生きるための常識が何処か欠落した浮世離れした女だった。それでいて、この私が知らない知識を持つ。自慢ではないが、私はこのヒッタイトでは指折りの知識人であるという自負がある。だからこそ、彼女が持つその知識には興味をそそられた。すでに彼女が我が家に来てから一年ほどの月日が流れている。さすがに、此処での暮らしには慣れたようである。今日も彼女は町へ出ているようだ。すると、しばらくして凄い勢いでレイが飛び込んできた。

「ラバルナ!大変よ!貴方のお父様が…!」

父は教師として宮仕えしていた。賊から次期王子を庇い死んだらしい。あまりに呆気ない死であった。元々、母は私が生まれた時に亡くなっていたわけでついに天涯孤独というわけだ。しがらみがなくなったなら此処に留まる必要はないのではないか、という考えがふと過る。私はもっと多くの知識を手に入れたい。

「レイ、諸国を旅しようと思うが共に来ますか?」
「…今までお世話になったから一緒に行ってあげる。」

諸国を旅する、と一概に言っても様々な形がある。戻るところがあるならば、それは旅になるのかもしれないがラバルナは此処に戻るつもりはないようだった。だからこそ、旅をしながら生活を立てる必要があり商人として、荷を運びながら各国を回ることになったのだった。まだ、この世界に来てから一年ほどではあるが、自分がこれほどまでに順応していることに驚く。まぁ、祓魔師になった時もなんだかんだ言って慣れるのだけは早かったのだから。キャロルが自分の前に現れるのはいつになるのか、全くもって検討がつかない。ストラスがアイシスの消息を探してくれたが見当たらないようだった。あれだけの美人だから、なにかしら情報が耳に入ると思っていたのだが…まだ生まれてすらいない可能性もあるのかもしれない。







それから私たちは色々な国を旅した。クノッソス、ロードス、サルディニア、アララク、そしてテーベ。名を上げればキリがないほどの都市を訪れた。その度にラバルナはその土地の知識を吸収し、書に記していく。そうして完成したのが「真実の書」だった。

「ついに完成したぞ!」
「おめでとう。」

白髪混じりになったラバルナを見ながら長い年月を彼と共に過ごしたな、と改めて思う。もうラバルナと出会ってから半世紀ほどの月日が流れようとしていた。出会った頃は少年とも青年ともつかなかった若い男だったが、今や貫禄がある爺さんだ。

「結局、貴方は妻を娶らなかったわけね…」

散らばっている書をまとめながらそう言った。彼女を作らなかった訳ではないのだが、彼とそりが合わずに結局別れてしまうのだ。おかげで、ばあやが亡くなってからは私が彼の身の回りの世話をするようになっていた。

「そうですね、貴方が居るので特に必要性を感じませんでしたし。結局レイ、貴方は真にベンヌの御使いだったのでしょう?全く年老いてませんものね。」
「……どうかしら。でも、不死ではないわよ。」

フェニックスのおかげで不老ではあるが、不死ではない。致命傷を負えば死ぬ。幸い、そういった出来事に瀕することはなかった。まず、剣の腕に自信があるからそのよくな事態に陥ることはまずなかったのだが。

「さて、やることはやったからエルジャス山にでも隠居しますか。」

最近は知識を求めて良からぬ輩が私を探しているようですし、というラバルナに眉を寄せる。確かに彼の知識は色々な国から求められるようになっていた。

「そんな老体であの山にでも篭るのは無謀よ。」
「弟子のクマルも居るし大丈夫でしょう。」

そうして反対を振り切った彼はエルジャスの山中の洞窟を自身が過ごす快適な空間を作り上げ、そこに隠居した。時々、市井に降りたりしていた。
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