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「ここはどこ…さっきまでイルミナティの連中と攻防を繰り広げていたはずなんだけどなぁ。」

己の手の中にある魔剣を鞘に収め、辺りを見回すが先ほどまで居た風景とは明らかに違っていた。そこには砂漠が広がり、遠目に宮殿らしきものが見える。そして後ろにはどこまでも続く川が広がっていた。テレビなどでこの風景は見たことがあった。

「もしかして、エジプト?」

なぜ、そのような場所にと思っていると遠くから怒号と馬の蹄が聞こえてきた。とりあえず川のほとりに鬱蒼と生い茂る草の中に身を隠せば懐かしい声が聞こえた。

「たすけて、メンフィスーー!」

「…キャロル?」

思わず立ち上がれば、久しく見て居なかった金髪の末の妹の姿が目に入る。だが、何者かによって拘束されていた。あちらも、気付いたようで目を見開いていた。

「レイ姉さん!?なんで此処に…」
「それは、こっちの台詞。うちの妹から汚い手を放しなさいよ!」

賊に反論の隙など与えずに、魔剣を抜刀し詠唱する。

「風よ、荒れ狂え、全てを扇ぎ給え、神風凪(ヒューレン)!」

馬上から賊を吹き飛ばすと、抱えられていたキャロルも落下することになったので、すかさずキャッチをした。すると、次の瞬間には抱きつかれてしまっていた。

「姉さん!本当に姉さんなのね!父さんに勘当されてから行方が全く掴めなかったからライアン兄さんもロディ兄さんも心配してたのよ!」
「そう…それは悪いことをしたわね。」

聖十字騎士団に入るといった時に散々そんなオカルト集団に入るなんて、と言われ揉めたのだ。結局は私が家を飛び出すことになったのだが。すると先ほどよりも多くの蹄の音が近寄ってくるのを感じた。

「キャロル…!無事か!?」

その第一声と共に馬上から飛び降りた青年は煌びやかな装束を身につけ、何処ぞで見たようなエジプトの王のような恰好をしていた。長い黒髪と整った顔立ちから一見、女子と間違えそうである。

「…貴様は、」
「メンフィス、やめて!レイ姉さんは助けてくれたのよ!」

キャロルの金髪が視界に広がり、背に庇われた。そんなにこのメンフィス?という男は恐ろしいのか。

「キャロルの姉、だと?」

いつの間にかその男の後ろに中隊ほどの人数の兵士が控えていた。そして彼らはそのトップであろう男の言葉にどよめき出していた。”ナイルの娘の姉?” ”しかし、キャロル様と違って黒髪だぞ” ”だが瞳は同じ色だ”そう言った言葉が耳に入る。ナイルの娘とはまた仰々しい名前が我が妹についているようで。にしても、先ほどから気になるのは兵士の装備がどう見ても古いのが気がかりである。しかも、武器なんて骨董品(!)と言いたくなるような青銅器の剣が目に入った。

「まずは賊から我が妃を救ってくれたことを礼を言う。」
「……我が妃?」

その言葉を反復すれば、男はそうだ…と言った。その言葉に驚きキャロルを見れば、少し照れたように頬を赤く染めていたためすぐに事実であることが分かったが、キャロルはまだ高校生ではなかったか。

「キャロルの姉上ということは、私にとっても義姉ということになるだろう。ぜひとも、我が王宮にてもてなしたい。」

その言葉に思案する暇もなく、嫌な気配に後ろを振り向けばそこにはルシフェルの眷属、熾天使(セフィラム)が居た。此処に飛ばされた時に共に連れてきてしまったのだろうか。キャロルをすぐさまメンフィスの方に突き飛ばし剣を構え唱えた。

「聖なる光よ、全てのものを拒絶せん、我らを守りたまえ、聖防護光陣(シャインバリア)!」

熾天使が爆発する前に間一髪で防壁を作ることに成功した。防ぎきれなかった爆風が辺りの砂を巻き上げた。

「…キャロル、無事?」
「えぇ…姉さん今のは…」
「悪魔よ、此処に飛ばされるまでルシフェル率いるイルミナティと戦っていたものでね。」
「悪魔なんて、そんな…」

いるはずがない、と言おうとしたようだが今目の前で起きてしまったことを現実と認めるなら、それは出来ない。に、しても、だ。此処では万人に悪魔が見えているようだった。

「キャロル、そなたの姉はイシスの神の所縁の者なのか。」

イシス、とは確かエジプトの神の一人ではなかっただろうか。何故その神の所縁のものと言われたのか分からず、不思議そうにキャロルを見れば「イシスは強大な魔力を持っていたのよ」と言われた。その言葉になる程、とは思ったが私自身が魔力を持っているわけではなく、実際にはこの剣が魔力を持っているというのに。

「でも、姉さんがさっき使ったのは確かに人間技じゃなかった…」
「…そりゃあ、私は祓魔師(エクソシスト)だから人間技じゃないものを一つや二つ持ってないと奴らを倒せないしね。」

その言葉に対し、キャロルは色々と話したいことがあったようだが青年が目で制したことで紡がれることはなかった。

「積もる話もあるだろう。尚更、我が王宮に招待したい。」

その言葉に静かに頷いた。
メンフィスと呼ばれる青年の声色には為政者特有の有無を言わせぬ空気を孕んでいたからだ。

連れてこられた王宮はどうやらテーベに位置するらしい。人々がナイルの娘とファラオの帰還を喜ぶその声援に気後れしたのは事実だった。
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