ダリアな君と私

いつも思っていた。もしも生まれ変われるのなら、一輪の花になってしまいたいと。そうすれば、何も考えずに散っていけるから。


「仕方がないことだったの。」
私の目の前にいる男が、私をにらむ。そう、仕方がないことだったのだ。殺すしかなかった。それだけのことなのに。
「だってそうでしょう?見られたのなら、殺さなければならなかった」
殺してしまった相手がまずかった。目の前の男の大切な人だったのだそうだ。依頼する前に、大切な人がいることを先に言ってくれていれば殺さず済んだものを。内心でそう吐き捨てながら、思ってもいない謝罪をする。

今日は散々な1日だった。ようやく開放されたと思えば、すでに空は赤く染まっていた。

「買い物でも行こうと思ったのに。」

血の香りが鼻をかすめる。買い物行く前にシャワーを浴びなければ。ふ、と目の前の路地裏が目に入った。特に気にも留めていなかったが、どうやら誰かがこちらを見ているようだった。今日はなんだか、面倒なことが多い。誰かが私の傍までやってくる。背の高い、男性のようだった。スーツを着ている。スーツとは不釣り合いなカードを手に持って。

「キミ、今そこから出てきたでしょ。」

目の前までやってきた男性が、にこやかな表情で私に問いかける。はぁ、とひとつ頷いてみせると、男性は私にトランプを1枚投げてよこした。否、カードで私の首を狙った。同業者か、カードからは血の香りがツン、と鼻をかすめた。

「依頼されただけ。関係者じゃないわ。」

ジョーカーのトランプを彼に返す。夕焼けが一切崩さぬ笑みを付けた彼を照らす。クス、と笑う彼は、紅が良く似合う。

「そうか、勘違いしちゃったみたい。ごめんね」
「いいえ。気にしないで。」

殺そうとした相手に言う言葉ではないが、なぜか許せた。気まぐれだろうか。気にしないで、という言葉に偽りはなかった。しかし、これで去ってしまうであろう彼を思い、胸がちくりと痛んだのだ。なぜ、と首を傾げても理由は分からなかった。彼も貼り付けた笑顔で私を見つめている。まだ何か御用なのか、と思いお互いに見つめあう。

「ねえ」

彼の口から出た次の言葉は、

「ちょっと殺し合いしてみない?」