消えてしまった者たちへ
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    新しい友人

     約1年ぶりに家に帰ると、見覚えのないリスがいた。

    「なに?このリス」
    「よくわかりません。エニフが拾ってきました」

     私の問いに淡々と答えたのはレジーだ。エニフとは私の飼っているフクロウのことで、びっくりするほど目付きが悪い。
     レジー曰く、てっきり餌として獲ってきたのかと思えば、いつになっても食べないらしい。しょうがないのでこのリスにも餌をやったら、懐いてしまったという。

    「まあ、害はなさそうだし。……飼おうか」

     私達はリスにシェアトと名前を付け、飼うことにした。


     ある日の日刊予言者新聞に驚くべきニュースが載っていた。一週間くらい前のウィーズリー家の旅行にも驚いたが、それ以上に驚いた。

    「〈シリウス・ブラック 脱獄〉……!」
    「なんですって!?」

     そのニュースには私だけでなくレジーも酷く驚いていた。

    「十三年も入っていて今更……」
    「確かに。何を狙っているんでしょう。」
    「多分ホグワーツにも特別体制がしかれるだろうね。ハリーを狙っていてもおかしくないから」

     今年のホグワーツもなかなか居心地が悪そうだ。私とレジーはため息をついた。右耳のピアスが鳴った気がした。


     用事があって漏れ鍋へ向かうと、予想外の人物に会った。

    「ラミア先生!」
    「ハリー!なんでこんなところに…」
    「それが………」

     なんでもキレて叔母さんを膨らましそのまま家出してきたらしい。相変わらずやらかしている。
     魔法省大臣のお墨付きなので平気だとは思うが、あのシリウスがどこにいるかわからない。行動範囲がダイアゴン横丁だけというのも頷ける。

    「ラミア先生はどうしてここに?」
    「ダイアゴン横丁で約束があるんです。…ああ、そろそろ行かなきゃ。では、また」

     私はハリーに手を振ると、ダイアゴン横丁へ向かった。

     待ち合わせは外れにあるカフェ。紅茶が美味しいと評判なのだ。彼はすでに席に座って飲み物を飲んでいる。彼は近づく私に気がつくと、立ち上がって片手を上げた。

    「ラミア!」
    「リーマス! 待たせてしまった?」
    「いいや。私が少し早く着いてしまったんだよ」

     君に会いたくてね。そう微笑む彼は久しぶりにも関わらず、変わっていなかった。
     彼はリーマス・ルーピン。学生時代からの友人のひとりだ。私が卒業後連絡を取っている数少ない人である。
     私は紅茶を頼むと席に座った。

    「三年ぶりかしら。前回もここに来たけど。」
    「そういえばそうだね。元気だったかい?ラミア」
    「おかげさまで。リーマスは?」
    「私も元気さ。最近新しい職場が決まってね」

     彼は嬉しそうに笑う。そんなに嬉しいなんて一体どこだろうと、職場を聞くがそのうちわかると教えてはくれなかった。
     現状報告が終わると、彼は唐突に話を変えた。

    「そのピアス、まだつけているんだね。片方はないのに」
    「っ…」

     まさかリーマスにそれを言われるとは思っていなかった。片方ないのは関係ない。私はそう言い聞かせる。

    「残念ながら私にその勇気はないよ。もともと母の形見だし。」
    「そうか……」

     リーマスはとても悲しそうな顔をしたが、私は見ないふりをした。
     お茶を楽しんだ後、2人で色々な店を回って楽しんだ。まるで学生時代に戻ったように。すっかり日も傾き、私達は漏れ鍋へ戻った。

    「久しぶりに会えてよかったわ」
    「そうだね。わざわざ時間を作ってくれてありがとう」
    「そんな!お礼を言うのはこっちよ? 夏休みなんて基本暇ばかりなんだから」

     そう笑うとリーマスもクスクスと笑う。本当に懐かしい。

    「それじゃあ、次に会うのは何年後かしら」
    「そんなにならないと思うよ」
    「え?」
    「じゃあ、また」

     私が言葉を理解しないうちに、彼は姿くらまししていた。今日一日とても楽しかった。


     夢を見ていた。
     懐かしい彼らのとの思い出。もう戻ることのない思い出。だからだろうか。いつになく目覚めない私を起こしに来た彼に私は言っていた。

    「……ラミア、起きてください」
    「…………レグ…?」

     彼は私の言葉に一度目を見開き、咎めるように私の名を呼んだ。

    「ラミア………」
    「あ、………!」

     次の瞬間、私の頭は一気に覚めた。

     そうだ、彼は。
     彼はもうレグではない。
     無意識だ。完全に無意識だった。

    「ごめん……………レジー」
    「はぁ。いいですよ。僕たちしかいませんし、寝ぼけていたようですしね」

     私は上半身を上げるともう一度謝罪した。

    「ごめん、レジー」
    「謝らないでください。それ以上言ったら怒りますよ」

     彼は微笑んだまま私の頭を撫でた。

     レギュラスは、もういないのだ。

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